統率型のリーダーシップが組織成長の足かせとなる意外な理由
かつて私は、自分のリーダーシップスタイルに限界を感じたことがありました。
ファシリテーターとして関わっていたプロジェクトが、どうしてもうまく進まないのです。
私が頑張れば頑張るほど、誰もついてこない……。そんな感覚でした。
統率型リーダーシップの限界
フリーのコンサルタントとしての活動をしていた頃のことです。私はファシリテーターとしてプロジェクトの全体像を描き、各ミーティングでの段取りを用意し、ときには議論に入って答えを出していくことに精一杯でした。
しかし、議論を経て決められたはずの行動計画も、プロジェクトメンバーが職場に持ち帰るとなかなか実行に至りません。
いま振り返れば、その原因は、当時の私が「(自分なりの)理想の答え」に誘導してしまっていたことにありました。私が答えを用意して、そこへ導こうとしていたために、メンバーは自ら考えて行動する機会を持てずにいたのだと思います。
リーダーがリードすればするほど、メンバーが受け身や指示待ちになってしまうこともある……。
この経験は、それに気づかされるとともに、周囲をぐいぐい引っ張っていくような自身のリーダーシップスタイル(統率型リーダーシップ)を見つめ直す良い機会となりました。
急成長組織に立ちはだかる「100人の壁」
先程のチームづくりの原体験に加えて、組織づくりにおいても「統率型」と呼ばれるリーダーシップの限界を感じる場面があります。それが「100人の壁」です。
組織の成長にはいくつかのステージがあると言われますが、創業期から次の拡大期にかけてこの「100人の壁」があると感じています。
実際にクエスチョンサークルでは、成長ベンチャーや創業オーナーとのお付き合いが多くありますが、急成長する顧客企業でも50名~100名くらいの組織規模で踊り場があり、そこを超えると一気に拡大していく印象です。
そもそも創業期における事業課題は、成功モデルを確立すること。続く拡大期においては、確立した成功モデルを拡大再生産していくことが事業課題となります。
創業期においては、成功モデルを確立するためにトライ&エラーが重要です。トップ自ら率先垂範し、戦略や方針の共有と同時に具体的な指示命令も必要。リーダーとしての動きが求められながら、プレイヤーとして成果を出すことも必要となります。
一方、拡大期になると、事業の成長に応じて営業、製造、開発などの役割分担と同時に、経営/マネジャー/メンバーといった階層の役割分担が発生します。
役割が広がり階層もできると、トップが見えない領域も増えてきます。
そこでトップにしか答えがないと、現場は常にトップの判断を仰がないと行動できなくなってしまいます。リーダーが答えを持つと、メンバーはリーダーの中に答えを探してしまう。さらにエスカレートすれば、リーダーの顔色をうかがってしまうのです。
創業期においては、トップがすべての判断をしていくことが最もスピーディーでした。一方、拡大期においては、トップではなく現場が判断して自走できることが必要になってきます。常にトップが判断するスタイルを続けていては、組織の成長スピードを担保できません。
つまり、創業期では不可欠だったトップのリーダーシップが、拡大期においては成長の足かせになりかねないのです。
私は、指示命令を出して周囲を引っ張っていく統率型のリーダーシップとは対照的に、支援型のリーダーシップもあると考えています。
「支援型」というのは、指示や命令ではなく質問を用いて相手を考えさせ、メンバーの個性や持ち味を活かし、部下のリーダーシップを上司の立場でフォローしていく。そんなリーダーシップです。
支援型のリーダーシップで「100人の壁」を突破する
経営者をはじめとするトップ層の方々からお問い合わせをいただいてお話を伺うと、「マネジャーを育てたい」というニーズを伺います。ただ、残念ながらマネジャー研修を導入したからといって、マネジャーが育つとは限りません。
私は、むしろトップがマネジャーに対する関わり方を支援型リーダーシップへとシフトしていくことが、最も効果が大きいと考えています。
クエスチョンサークルでは、「質問会議」と呼ばれる質問縛りの会議をよく実施しています。この「質問縛り」というルールが、統率型のリーダーには絶好のギプスになるのです。
意見を言いたくても言えない、質問で相手に気づかせなければならない。より正しく言えば、(質問で気づかせるのではなく)質問をきっかけに本人自ら気づくような関わり方ができるようにならなければならない。
そのためには、質問だけでなく、尊重や傾聴、共感が必要となります。
そういうセッションを何度も繰り返すことで、トップのマネジャーに対する関わり方が尊重や傾聴、共感の姿勢へと変わると、同時にマネジャーのトップに対する関わり方も変わります。
というのも、それまでトップの中に答えを探していたマネジャーのスタンスが、自分の中に答えを探すようになるためです。トップも指示を出す必要がないので、それを見守るスタンスになっていくのです。これがまさに、支援型のリーダーシップです。
創業期から拡大期にかけて、トップのリーダーシップスタイルを統率型から支援型に変えていくことが、「100人の壁」を突破していくことに繋がると考えています。