追悼、佐々涼子さん
ノンフィクション作家の佐々涼子さんが、とうとう亡くなってしまいました。
惜しい、惜しい、惜しい。
本当に残念でたまりません。
佐々涼子さんは、私の敬愛する推し作家です。
私が佐々作品と出会ったのは、
「紙つなげ!彼らが本の紙を造っている
再生・日本製紙 石巻工場」(2014 早川書房)
タイトルからわかるように、東北の震災で被災した製紙工場の再稼働ルポです。
これは、池上彰さんが、何かの番組で紹介され、そこから広がったと記憶していたのですが、その前にすでに、ダ・ヴィンチのブックオブザイヤー、紀伊國屋書店スタッフのキノベスなど、たくさんの賞を受賞し、高く評価されている作品でした。
津波にのまれ、ほぼ壊滅状態の石巻製紙工場。
その中で、紙の製造マシン、8号機が止まったら、日本の出版が倒れてしまう。
その逼迫した状況で、工場長は半年での復興を宣言。それから、従業員の壮絶な戦いが始まります。
これは、最後は上手く行くのだろう。と結果は予想されるにも関わらず、手に汗握る、大変スリリングなノンフィクションです。
読後は、かつてのNHK「プロジェクトX」を一本堪能したかのような、興奮、感動を味わえますので、佐々作品を読まれたことがない方には、最高におすすめです。
そして、これで佐々涼子さんの大ファンになった私は、次は、開高健ノンフィクション賞を受賞した、
「エンジェルフライト 国際霊柩送還士」へと手を伸ばしました。
これは、「紙つなげ〜」の前に書かれた、彼女の出世作でもあります。
だがしかし、これは相当、ヘビィな作品だったのです。
国際霊柩送還士とは、聞きなじみのない言葉ですが、国境を越えて遺体を家族のもとへ送り届ける、お仕事です。
海外で事件に巻き込まれて、亡くなる方は、どのように埋葬されるのか?
ご遺体はどうやって日本に戻ってくるのか?
この知られざる現場に入って、ここで働く人々や遺族にインタビューして、書かれたこの作品は、感動とはほど遠い、
残酷で、心がエグられるような描写だらけです。
こんなに過酷で辛い世界で、それでも使命感を抱いて、懸命に働いている方々がいるのかと、敬虔な思いを抱くと同時に、無惨な描写に何度も、本を閉じたくなります。
だがノンフィクション作家、佐々涼子は筆を緩めてはくれません。
出来事をキレイ事でくるんだり、フワッと曖昧にぼかしたり、そんな書き方はしません。
事実をありのままに、どんなに悲惨なことも、克明に丁寧に描きます。それが、ストレートに胸に突き刺さるのです。
そして、この作品を読んで、私はこの作家の真髄にある怖さに触れ、それ以上踏み込めなくなりました。
もちろん、作品は素晴らしいのですが、扱うテーマが深刻すぎて、気軽に読めないのです。
ただ、この作品はドラマ化され、現在アマプラでも見られるようなので、関心のある方は、興味深い世界を知ることができるかもしれません。
私も、この後、見てみようかと思っています。
さて、そうして昨年(2023年)11月に、佐々涼子さんの最新刊、エッセイ集が出版されました。
そして、ここでご自分に残された時間が少ないことを、ご本人が後書きで書いておられます。
悪性脳腫瘍と診断され、余命を告げられたと。
これは、もう、すべての佐々涼子ファンにとって、衝撃的な告白でした。
どうして、神様はこんなに酷いことをされるのだろう。
動揺しつつ、最新刊の「夜明けを待つ」(集英社 2023)を読みました。
エッセイは、ずいぶん古いものからまとめられていて、佐々涼子の軌跡が辿れるような本でもありました。
彼女は、作家となった、始めから、常に「死」をテーマにして、「死」と関わっていたことがわかります。
仏教を学んでいて、仏教雑誌の「サンガジャパン」に載せたエッセイなども、読むことができました。
実は、私の手元には、今年7月に当選した「一万円選書」に入っていた、佐々涼子さんの「エンド・オブ・ライフ」があります。
これも2020年ノンフィクション本大賞を受賞した作品で、気になっていたのですが、読むのをためらっていたものです。
看取りのプロの訪問看護師の方が、自身がすい臓がんを宣告され、自分の終末期を書いてほしいと、彼女に依頼し、「死」を迎えるようすを記録したものです。
もちろん、この時、彼女は自身が病に侵されるとは想像もしていなかったでしょう。
この作品も、私は、自分が安定している時じゃなくては、ダメージを受けてしまうとの思いから、まだ読めていません。
気持ちを整えてから、読もうと思っています。
それにしても、この先も、素晴らしい作品を多く残すはずだったのに、と思うと、本当に残念です。
神様が優秀な人を選んで、招集しているとしか思えない。
もしかしたら最後の、闘病のようすを綴られたものが、これから出るかもしれませんが。。。
それも辛い。。
惜しい方です。
合掌。
現在、電子書籍しか見つけられませんが、すぐに再刷されると思います。