春一番
バタ―――――――ン‼
空気を入れ替えようとベランダの窓を開けた瞬間、けたたましい音を立てて部屋のドアが閉まった。
「…びっくりした…」
勢いよく翻ったカーテンによって床へ追いやられたリモコンや出前のチラシを拾い集める。
冷たい床の感触に足先が丸まり、同じように丸まった背中にはカーテンが定期的に行き交う。
光が差し込んだ部屋がキラキラ光る。
手でパタパタと仰ぎながら、脳内で今日の予定に床掃除を追加していると閉まったはずの扉が小さな音を立てて開いた。
「なんかすごい音したけど…」
「あ、ごめん。起こした?」
おはよう、と言いながら伸びをした次の瞬間には寒っ…と小さく声を漏らしソファに沈む。
長い手足を器用に折りたたみ、側にあったブランケットにすっぽりとくるまってしまった。
私の背中を撫でたカーテンが戻りしな、唯一表に出ている寝ぐせのついた黒髪を撫でていく。
その感触に目を開けた彼は眩しさに一瞬目を細めたあと、片手だけを差し出してきた。
「ん。」
「ん?」
「…ん。」
急かすようにぐっと再度差し出された手を握ると、そのままブランケットの中に引きずり込まれる。
暖をとるかのようにぐっと抱き込まれて身動きがとれない。
「今日天気いいよ。」
「うん。」
「風もあるから洗濯物もよく乾きそう。」
「うん。」
「…おーい?」
「…うん…」
「……うりゃ!」
「っっ!冷たい冷たい!」
冷えた指先を彼の首元に添えると勢いよく身をよじる。
先制攻撃で優位に立ったブランケット内の攻防戦は、リーチが違いすぎてあっという間に決着がついた。
両手首をがっちり掴まれた状態で目を合わせ、どちらともなく笑いあう。
「あっつ。」
こもった空間から揃って顔を出すと目の前をレースが横切っていく。
頬を撫でる冷たい風が気持ちいい。
「…よし!やるか。」
「あ!床掃除もしなきゃ。」
「…やるか…」
洗面所へ向かう背中を追いかけて床に足を下ろせば、心なしか先ほどより暖かく感じた。
今日は長い一日になりそうだ。
バタ―――――――ン‼
「風強すぎない!?」