マラソン&競歩の「札幌開催案」は果たして本当に選手ファーストなのか?
衝撃のニュースが飛び込んできたのは移動の電車の中でした。
「マラソンは札幌開催か?東京五輪、猛暑を懸念」
一瞬目を疑いましたが、速報に目を通して見ると、どうやら”決定”というわけではなく、IOCが大会組織員会や東京都などに”提案”するらしいとのこと。ただ、IOCからの提言なので、当然ながら軽いものではなく、十分に重く受け止めてほしいという裏のメッセージが隠されているんだろうなということはすぐに察しました。さて、大変なことになってきたぞ・・・
そもそも東京でオリンピック開催が決まったのが2013年。その時点から6回も「日本の夏」を経験し、もはや日本は温暖で過ごしやすい国じゃない!ということを知りえる機会は何度もあっただろうに、ここにきて急に開催地変更というのはまさに寝耳に水でしたね。これに似たドタバタは東京オリパラ関連で果たして何回目なんでしょうか(苦笑)冷静になってこの事態を考えた時に、関係者が「どうなるかわからない」と漏らしているが一番素直な声だと思います。
実際に札幌でやるとなれば、急ピッチでいろんな準備が必要になってきます。東京開催のままだったとしても、一旦湧き出た”札幌案”の影響で、これまで通り物事を進めるのは難しい状況になるでしょう。もし大会当日が恐ろしいほどの猛暑日となってオリンピックのマラソン完走率が50%とか40%などという事態になったとしたら、「ほら見たことか・・・」と言われることは目に見えています。なかなかこの問題は一筋縄ではいかなそうですよ・・・
◼︎改めて考えてみる「選手ファースト」
いまだからこそ、改めて”選手ファースト”について考えてみたいと思うのですが、この言葉が意味することってなんでしょうかね?
「選手の健康面を気にする」
というのは少し言葉の表面しか捉えていないと思っていて、もっと深いところに選手ファーストの真意がある気がします。選手のことを一番に考えるとすればこの事態で動揺した選手は間違いなくいたでしょう。もっと早い段階で札幌開催が決まっていれば、MGCだってあの暑さの中でやらなくても良かったし、そうなれば選手のダメージだって違っていたし、レース展開も違ってた。もしかしたら代表に選ばれていた選手だって変わっていた・・・かもしれません。
”たられば”のオンパレードになっちゃいますね。僕でさえこれだけ色んなことを思うくらいなので、当事者(選手や関係者の方たち)はもっといろんなことを考えちゃうでしょう。そういう風に動揺させることが果たして本当に選手ファーストなのか?とふと疑問に思ってしまいました。
今回のMGCはトレーナーという立場でスタート&ゴール地点に待機し、選手の姿を間近で見ていたのですが、暑さに文句をいうような選手は1人もいなかったように見えました。誰もがこの条件で戦うための準備をしていたので、表情には覚悟が見えたし、体の絞れ具合を見ればこの日を迎えるためにどれだけのトレーニングを積んできたかは想像をはるかに超えていたでしょう。その時の様子や感じたことはRUNNING CLINIC内でもコラムにしたので、よろしければご覧下さい。
■代表内定者たちの声
代表に内定した選手たちからのコメントがNHKのHPに載っていたので引用させてもらいます。
中村匠吾 選手(男子マラソン)
「突然の報道に驚いていますが、状況の推移を見守りたいと思います。先日のMGC=マラソングランドチャンピオンシップ、そしてドーハでの世界選手権もそうでしたが、どの会場であっても気象条件は変化します。どのような状況においても力を発揮できるよう、練習を重ねていきたいと思います」
服部勇馬 選手(男子マラソン)
「札幌と聞いて冬季のオリンピックだと思ったが、マラソンと競歩だった。当事者としては戸惑いというかびっくりした。僕自身が決定できる話ではないので何の権限もないが、決められことに対してはしっかりルールにのっとって走り抜き戦っていきたい。東京の舞台を目指してマラソンを始めてここまでやってきたので東京で開催して欲しい。仮に札幌で決定したら決定として万全の態勢を組む」
「先月、東京で行われたMGC=マラソングランドチャンピオンシップはそこまで暑くなかった。暑さに対して準備をすれば東京開催は可能だ。仮に札幌での開催ならコンディションは良くなるのでしっかりタイムを狙っていきたい」
鈴木亜由子 選手(女子マラソン)
「先月MGCで本番のコースを走りましたし、それをイメージして練習してきたので戸惑っているというのが今は大きいです。オリンピックでは最後に国立競技場でゴールをしたいと思いが強く、選手はそう思っている人が多いと思います」
「(北海道マラソンが初マラソンで優勝しているので)自分にとっては縁起の良い場所ではあるが、やっぱり急には向かい合いづらいし、また違う局面が出てくると思う」
「MGCで1度走り海外の選手に対してアドバンテージにしたかったが、変更になれば自分は切り替えてやっていこうと思う。私たち選手は全力で本番にベストが出るように努力するだけだと思っています」
鈴木雄介 選手(男子50km競歩)
「これまで『日陰のあるコースに』と要望してきましたが、東京からの移転までは想定しておらず、正直、驚いています。いずれにせよ、選手、大会スタッフ、ボランティアの皆様、そして観戦される方々の安全を第一に考えて決めていただきたいと思います」
山西利和 選手(男子20km競歩)
「まだ正式に決まったわけではなく何とも言えないが、どこで開催になろうと自分たちがやるべきことは変わらないと思うので、金メダルを目指して練習を続けるだけだ」
「(カタールの世界選手権を経験したことを踏まえ)確かに気温が高いと体へのダメージは大きく潰れる選手が増えて入賞ラインは下がってくるが、その中でもメダル争いをすることは変わらないし、環境がどうであれ勝てる選手は勝つと思う。今後も冷静に練習に取り組みたい」
ヨハン・ディニズ選手(フランス、50km競歩世界記録保持者)
「札幌への移転はいいことだ。東京よりも5度から10度気温が低く、湿度も低いので息苦しさがなく、私に合った気候になる」
エバン・ダンフィー選手(カナダ、50km競歩世界選手権銅メダル)
「暑さをリスペクトし、暑さに備えてきた。適切に準備をした選手には何も恐れるものはない。この検討は私の心を壊し、オリンピックの経験を台無しにしようとしている。事前に選手との話し合いはあったのか」
賛否両論、状況を素直に受け入れる選手もいれば、まだ気持ちの整理がついていないという選手もいたと思います。ただ、決まればそれに従って準備を進めるのがアスリート。日本人は特にその辺りの気持ちの整理は得意でしょう。
ただ、今の素直な声はやはり無視はできないし、今後のことを考えてもきちんと耳を傾けておくべきだと思います。
■我々はどう言う心づもりでいるべきか?
暑さを想定して様々な準備をしていた救護スタッフ。
MGCでは本番を想定したシュミレーションにもなっていたので、スタート&ゴール地点に漂う緊張感、統括ドクターの引き締まった打ち合わせなど、いよいよオリンピックまであと1年なんだなと思う瞬間が場面場面に溢れていました。
医療的な観点から少しでも良い条件で走るとなれば、悪い話ではありません。これまで準備してきたことが全てチャラになろうとも、選手の安全を考慮すれば首を縦に振るべきでしょう。声をあげることで現場の混乱に拍車をかけることはもちろんNGなので、与えられた状況を素直に受け入れて指示の通りに動こうと思っています。
ただ、準備や想定を練り直す手間と労力はやばいですね。北海道マラソンのノウハウがあるとはいえ、そんなにシンプルではないです。トレーナーに入るといつも言われますが、”想定外”が起こることが”想定内”というスタンスでありとあらゆる場面を考えようとしていくと、MGCのみならず東京マラソンのノウハウも活かせるメリットは非常に大きかったんですよね。
最終的な判断はそう遠くない将来に下されるでしょう。早く決定しないと準備の時間がただただ減っちゃいますからね。
その時まで静かに待ちたいと思います。
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