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子連れ新幹線、誰も知らない嵐。【ひねくれ育児日記】

名古屋駅で東海道線を降りたところで、クレジットカードがいつものところにないことに気付いた。
岐阜の実家から川崎の自宅へ戻る道中だ。

多分、いつも入れているところからぽろっと落ちただけで、かばんの中にあるだろう、と思った。手荷物のリュックか、昨日荷造りするときに、旅行用のボストンバッグの中に落ちたのかもしれない。
たとえそこになかったとしても、多分、実家で落としたのだろう。もしくは、駅まで送ってもらう車の中。親には手間をかけるが、探してもらえば見つかるだろう。
そんな風に思った。

いや、しかし、そんなにうまくいくだろうか。
数秒後にはそんな考えが浮かび始めた。人生がそんなに容易い筈がない。どこか外でなくしたのかもしれない。
名古屋までの東海道線はかなり混んでいた。もしかしたら落としたりすられたりしているかもしれない。岐阜駅でもお土産屋さんに寄ったし、構内をだいぶ歩いた。

それなら、早くかばんの中を探してみればいい。カードがあればそれで解決だ。

しかしその時の私にはそれができなかった。
息子を乗せたベビーカーに、なかなか重いボストンバッグを提げて押していた。これから新幹線に乗り換えだ。時間はぎりぎりでもないが、さほどの余裕もない。

名古屋駅まで、混雑した東海道線の中ではベビーカーを畳むしかなく、乗り込むなり息子はぎゃあぎゃあ泣いた。親切な方が、座席にもたれかかれる位置を譲ってくださった。私はベビーカーが倒れないよう片手で支えながら、背中で座席にもたれかかりつつ息子を抱っこして、名古屋までの20分を過ごした。そのうち息子は寝た。
名古屋駅について、お客さんが降りてスペースができたところで、ベビーカーを開いて息子を乗せ、どうにか電車を降りたところだった。

目を覚ました息子は、またぎゃあと泣き始めた。おやつを買ったりしてみても、息子の機嫌は悪いまま。新幹線に乗り込んで座席に座らせるところでも「怖い」と泣く。
今のところ、息子は電車でなかなか自分一人で座らないので、息子の分の指定席は取っていない。私の膝の上でようやく泣きやんでも、息子の機嫌的にもスペース的にも、母が息子そっちのけでかばんの中を真剣に探せるような状態ではない。

多分、かばんの中か実家にあるだろうから、それなら対応を急ぐ必要はない。しかし万が一落としていたら、早くカードを止めなければ。心は焦ってぐるぐるしていた。しかし息子の機嫌を取り続けるしかない。
乗車時間も残り30分ほどになって、ようやく息子がシールブックに食いついてくれたので、その間にどうにかスマホを取り出し、紛失届の出し方を調べる。それを出せばカード番号は変わり、引き落としの設定なども全てやり直しだと改めて知る。
スマホで母に連絡して、実家を探してもらうことはできた。しかし、かばんの中を探せばあるかもしれないのにそれをやると、母に手間をかけさせるだけでなく、私の不注意を怒られるだろう。母には連絡せず、電車や駅の遺失物問い合わせ先を調べる。そんなことをしている間にカードが不正利用されていたらどうしようと、不安に駆られる。

そうこうしているうちになんとか新横浜駅に着いた。迎えに来てくれていた夫と合流し、昼食を食べにいくことに。
しかしここで夫に、カードを探すから待ってくれと言えば、なんでもっと早く探さないのかと結構怒られるだろう。かばんの中にあるかもしれないのに、大ごとにしたくない。しかしカードがもし見つからなければ、何で早く言わないのかと、もっと怒られるだろう。何も言わないのは賭けだ。
夫がアジアン料理店を見つけ、入ってメニューを見始めたが、カードのことが気になって、自分がどれを食べたいのか全然わからない。夫が「これとこれで迷っている」と言うので、じゃあ私もそのどっちかで、と言う。
注文したあと、息子は夫と遊び始め、私はようやくかばんの中を探すチャンスを得た。リュックを開けてよく見ると。割とすぐに、リュックの底にカードが見つかった。

誰にも何も言わなかったけれど。
私の心の中では大波が起きていた。それがようやく、収まった。

そして、料理が運ばれてきた。
普段なら絶対に頼まない、なかなか辛いメニューだった。

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