色んなグラスフェッドビーフ
農畜混合の歴史がある伝統型のアイルランド、野生が残る自然型のウルグアイ、草地を有効的に利用する管理型のニュージーランド、そして、恵まれた自然がある贅沢型のタスマニア。
これまで見てきた放牧の風景の私のイメージです。
世界のグラスフェッドビーフ
まずお伝えしたのは、グラスフェッド(牧草肥育)で牛を育てることができる場所は世界で見ても意外に少ないということです。
グラスフェッドと言うように牧草がまず必要ですが、牧草であればなんでもいいわけではなく栄養価の高い牧草の種類が必要ですし、かつ、豊富な量が必要です。
そんな牧草がある場所の条件が、
1、温暖な気候
2、雨
です。
牧草もいろんな種類があり暑くても育つ種類、寒くても育つ種類がありますが、栄養価の高い牧草は暑さにも寒さも苦手なんです。
北海道と沖縄では牧草の種類も変わり、ベストのときの栄養価も変わります。
そして、牧草が成長するには水が必要です。
乾燥しているエリアでは大型の灌漑設備(スプリンクラーのようなもの)で水を与えることもありますがコストもかかるので、やっぱり自然の雨がないとなかなか放牧をさせるのは難しいです。
グラスフェッドの場合、牛1頭が1日で食べる草(乾草させていない生草)の量ってイメージできますか?
だいたい体重の10%程度と言われ、1日50kg程度です。100頭いれば、1日で5トン。
それでもイメージはなかなかつかないですよね?(笑)
いっぱい必要だとご理解ください♪
この条件を兼ね備えているのが緯度でいうと40~50度付近です。
そのためグラスフェッドビーフを調達していた前職では牧草にとってもっとも適した場所としてニュージーランドとオーストラリアのタスマニアから調達を行っており、併せて、ヨーロッパのアイルランドと南米のウルグアイも見る機会がありました。
アイルランド
イギリスの西側にある国で、北緯50度強と例えば樺太と同じぐらいの緯度になりますが、冬に雪がたくさん降ったり驚くほど寒くなったりはしません。なぜなら、近くにメキシコ湾流と言われる暖流が流れているためです。
ヨーロッパには古くから農畜混合の歴史があります。
例えば、野菜を作っている農家は野菜だけ、牛を育てる農家は牛だけのような形ではなく、アイルランドだとウイスキーも有名なので原料である大麦を育てながら、牛も育てる。
大麦の残渣など副産物を牛に与えて、牛の糞尿を大麦の栽培に利用する循環的な形です。
なので、私が見てきたアイルランドのグラスフェッドビーフは、牧草だけではなく循環のなかで穀物も牛たちに与える方法でした。
そのほかに特徴的なのは、冬に雨が多く放牧地がウェットな状態になりますが、そんなときに500kgとかの牛を放牧させると牧草にダメージを与え、翌年の放牧ができなくなります。
そのため草地を守る目的で冬時期に牛たちは牛舎のなかで過ごし、牧草のサイレージを中心に与えます。
同じく冬に放牧が難しい日本ですごく勉強になる飼育方法でした。
アイルランドでは、フランス原産で乳肉兼用種であるオーブラックもいました。
放牧期間中でも少量の穀物を与えて育てます。
草地がウェットになる期間は草地を守るため、牛舎のなかで過ごし主に牧草のサイレージで育てられます。
余談ですが、筋肉ムキムキのベルジャンブルーという種類の牛もいました♪
ウルグアイ
2019年に輸入が解禁されたウルグアイですが、瞬く間に皆さんの目につくぐらい日本の市場に広がりました。
ウルグアイは、牛肉生産量で世界第2位のブラジル、肥沃なパンパで牛の放牧がさかんなアルゼンチンに挟まれた国です。
ブラジルでは熱帯種と言われるらくだのように背中にコブがあり暑いエリアに適した品種が主流ですが肉質は固いと評価されており、
アルゼンチンでは以前はパンパでの牛の放牧(グラスフェッド)が有名でしたが、放牧地が収益性の高い大豆に転換が進んで、牛の育て方も放牧による牧草肥育から穀物肥育に変化していることから、
南米でグラスフェッドビーフを探すならウルグアイだと思っています。
そんなウルグアイですが、穀物肥育の牛もいるのですが、牧草肥育の大きな特徴は世界から見たときの価格の安さです。
というのも、ウルグアイでは草地の改良(野生の牧草より栄養価の高い牧草に切り替えていくこと)が進んでおらず、多くが野生の牧草を利用しているためコストが安く抑えられています。
もちろん、野生の牧草だから美味しくないわけではなく、単に同じ月齢の牛だとサイズが小さくなるだけです。
比較的、フラットな草地が多い国です。
ガウチョという人が牛たちのお世話をします。
ニュージーランド
私がもっとも牛たちを見てきたニュージーランド。
日本から北海道と四国を抜いたぐらいの面積で南島にはアルプス山脈があるなど、私の中では南半球の日本というイメージを持つぐらい親近感があります。
人口500万人弱のニュージーランドには約1,000万頭の牛(乳牛、肉牛含む)と約2,700万頭の羊がほぼ放牧で育てられています。
そんな、決して広くなく起伏の大きい国土で人口より多い家畜を育ててるニュージーランドでは、管理放牧という草地を有効的に使う技術が発展しています。
南島一つとっても、乾燥しやすいマルボロ地区から、温暖なサウスランド地区、雨が豊富なウエストコースト地区、起伏が激しいオタゴ地区、フラットな草地が広がるカンタベリー地区など多様な放牧風景があります。
太らせてはいけない妊娠中のお母さん牛には起伏の大きいエリアで放牧し、肥育させる牛たちにはフラットな改良された草地で最も栄養価の高い状態の牧草を食べさせるなど。
牛と羊を一緒に育てるのも牧草を有効的に活用する方法のひとつ。
日本で和牛を放牧で育てたい私は、ニュージーランドの放牧技術を勉強しています。
大好きなニュージーランドの風景
トラクターが入れない起伏の大きいエリアでは草地の改良ができないため、太らせてはいけない妊娠中のお母さん牛を育ててます。
草地改良しているフラットなエリアでは放牧地を小さく区切り、1区画の草を残さず食べてもらって翌日にはまた新しい草地に移動させます。
牧草が育たない冬季向けにケールやターニップ(西洋かぶ)などを作付けて与える方法もあります。
たまに見れる風景♪
タスマニア
タスマニアはオーストラリア南東部にある島で、7州ある内の1つ。
その本島は北海道とほぼ同じサイズでほぼ同じ緯度。温暖な気候で自然も豊かと南半球の北海道という感じです!
また、タスマニア島の北西部にある岬には測候所があり、そこで観測されるのは偏西風が来る西側2万キロ先まで人間が住む陸地が存在しない空気。そのため「世界で最も空気がきれいな場所」と言われています。
一般的に草地は10年おきぐらいに全面的に更新(耕起して草地を作り直すこと)するのですが、親子3代にわたって100年ぐらい更新していないほど恵まれた自然。
そんなピュアな自然のなかで育つ牛たちを見てると、まるで自然からの贈り物。
「草を食べている牛もいれば、座っている牛もいる。牛本来の食べ物である牧草が豊富にある証拠だ」
タスマニア版エアーズロックと呼ばれるNutsを背景に草を食べる牛たち。
牧場の一部を自然のまま保護し、そこには野生のペンギンが子供を産み育てするために戻ってきます。
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