世界中の産地を周った食材調達バイヤーのわたしが、今「牛飼い」を目指す理由
突然ですが、みなさんは「びっくりドンキー」というお店をご存知ですか。知っている方は、どんなイメージをお持ちでしょうか?
申し遅れました。わたしは「くに」と申します。
わたしは今お伺いしたびっくりドンキーで、メインであるハンバーグになるお肉の調達を10年以上にわたって勤めてきました。そして2020年の5月に会社を退社をし、現在自ら牛を飼う農家「牛飼い」になるべくチャレンジを始めました。
びっくりドンキーから教わったこと
会社を退職した、というと何かネガティブなことがあったのではと思う人もいるかもしれません。しかし、わたしの場合はそうではなく、むしろびっくりドンキーに教わった、食との向き合い方に人生が変わった人間です。
先ほどお伺いさせてもらったイメージ。おそらく「ハンバーグがおいしい」や「外観や内装がユニーク」といったイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。
きっとびっくりドンキーの「食材へのこだわり」を想像された方はあまりいなかったのではと思います。
実はびっくりドンキーは食材にとてもこだわりを持っています。例えば、農薬の使用を省き最低限の「除草剤1回だけ」で育った省農薬米や、風味が際立つ高地栽培を行う生産者から直接調達し自社で焙煎した新鮮なスペシャルティコーヒー、ドイツの「ビール純粋令」に沿って「麦芽、ホップ、水、酵母のみ」のオーガニックビールなど。びっくりドンキーの食材に対する誠実さ、真摯さは伝えたいと思うことが山ほどあります。
びっくりドンキーから教わったひとつに「食とは人を良くすると読む」という言葉があります。
混ぜ物であるハンバーグだからこそしっかりと伝えることができる食材の調達が大事であり、とくに野菜やお肉などの原料調達において安全でおいしい食材を届けるためには作物や家畜が健康に育っていることを大切にして、単に市場に流通しているものを買うのではなく、実際に現場をみて生産者と話をして調達をしてきました。
世界の食を見てきて芽生えた、伝えたい思い
これまでに世界20か国以上を周り、その食材を体験してきました。その中で、日本の食についてで思ったこと。それは中華やイタリアンなど料理の種類の幅は広いけど、食材の選択肢の幅は狭いかもしれないということです。例えばオーガニックや平飼いたまごやグラスフェッドビーフなど育て方の深さの選択肢は少なく、生産と消費のキョリが長いことが価格競争や食材ロスの問題に繋がっているのかなぁと感じます。
さらには加工肉や添加物など加工技術による手ごろで便利な食事や、食材そのものの味を無視するような味付けが主流となり、植物工場や培養肉などが出てきています。行きつくのはサプリメントなど生命維持だけの栄養補給のような工業的な食。それに大きな危機感を感じていました。
そんななか、安全やおいしさといった機能的な価値だけでなく、びっくりドンキーのバイヤーだからこそ感じてこれた、生産者との交流や自然の恵みなどからうまれる感動や、生きるということは食べることであり別の命を頂くことであるという意味を、伝えたいと思うようになりました。
自然が育てた牛肉 グラスフェッドビーフ
その思いを自分で伝える手段として選んだのが、食材調達バイヤーとして10年以上担当してきた牛本来のえさである牧草で育った牛肉:グラスフェッドビーフです。
日本において、和牛などの肉牛は牛舎のなかで輸入穀物をベースとしたカロリーの高いえさを与えられ、運動を制限することで脂の量やおいしさを追求してきたお肉です。
それに対し、わたしが感動し、びっくりドンキーで扱ってきたハンバーグの牛肉は、放牧され牧草を自由にたべて育つグラスフェッドビーフのみ。牛は反芻動物と言われ、人間が栄養にできない草をたべて成長する動物です。その牛本来の姿を追い求めた結果の牛肉です。
毎年ニュージーランドとオーストラリア・タスマニア州の産地を訪問するたびに、お肉のおいしさはどうでもいいと思えるほど、牛たちが幸せそうに自由に草を食べ動きまわる風景に心を奪われ、家族だけで悠々と数百頭の牛たちを育てている暮らしに憧れ、生産者たちの牛を育ててくれている自然への想いに共感しかありませんでした。
そのうえで日本を見ると、日本には山林や耕作放棄地があり、おいしい牧草を育てることができる世界では希少なほど豊富な雨があるので、日本の自然の中で和牛を放牧で育てることに可能性はあると感じました。
輸入穀物に依存し大きな設備投資や労働集約型の現代の畜産に、そして、霜降り重視の品質評価に、新しい価値を提案できるのでは?と思っています。
牛肉バイヤーから牛を育てる農家へ
しかし、いざ会社を辞めたものの、10年以上牛が育つ現場を見てきても現場の経験はほぼゼロです。
日本で自分で農地を持つには最低2年程度の農業経験を経て認定農業者になる必要もありますので、まず母牛で100頭規模の和牛繁殖農場で研修させてもらいました。
実際に現場を経験すると、約半年で20㎏の減量したり牛の最期を看取ったりと体力的にも精神的にもつらい時もありましたが、反対に放牧で牛を育てたいという想いがますます強くなりました。
その後は、牛のエサである牧草の勉強だったり、日本で放牧するうえでは山林とのいい関係性を見つけるための林業研修など、研修はまだまだ続いていきます。
そして農業研修以外の難関が、牛が放牧できる農地を見つけることです。はじめは妻の実家がある長野県の各地を見て回りましたがそう簡単に見つかるわけでもなく、けど自分がやりたいことを発信しつづけると出会う人も変わってきてその中でありがたいお話も頂くこともありました。
農地のことに関しては、今後の発信のなかでお伝えさせてください。
感動の原点を販売することから広げていく
私がこれから創りたいお肉は和牛といっても、放牧され牧草でそだったお肉はいまの日本の枝肉格付けでは全く評価されません。
なにより、日本の自然と牛たちとの風景や暮らしを作っていくためにも、こうしたグラスフェッドのお肉そのもののおいしさを感じて頂ける機会をつくることから始めないといけない、と思いました。
なので、牛飼いになるための準備と併行して、わたしが牛飼いになるきっかけをくれたオーストラリア・タスマニア州のグラスフェッドビーフの販売をしています。
タスマニアのグラスフェッドビーフについては、くわしくこちらで書いてますのでよろしければ。
グラスフェッドビーフは霜降り肉とはまったく違う赤身の多いお肉です。
しかし、世界のグラスフェッドビーフを見てきて、もっとも牛たちが幸せそうに健康に育っていると感じたタスマニアのグラスフェッドビーフは、赤身と言ってもぜんぜん固くはなく赤身肉のおいしさをさっぱりと味わえるお肉です。
しかも、高タンパク質で低カロリーなだけではなく、鉄や亜鉛、ビタミン類が豊富で必須脂肪酸のオメガ3もたっぷり凝縮しており、健康に気を使われている方や、罪悪感なくお肉をいっぱい食べたい方には、ぜひ食べてほしいお肉です。
最期になりますが、これから牛飼いになるまで、そして思い描く理想の農場をつくるまでの奮闘記を今後も発信していきますので、悠々ファームを見守っていただけると嬉しいです♪
最期までお読みいただいて、ありがとうございます!
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