【勝訴】裁判のご報告【三浦ゆえ・山田ノジル】
I. 裁判の報告
三浦ゆえ、山田ノジルが橋迫瑞穂氏を東京地方裁判所へ提訴した裁判(令和4年(ワ)第19774号 損害賠償請求事件(名誉毀損・プライバシーの侵害)について、2024年5月30日13時10分、判決が言い渡されました。
東京地方裁判所は、原告三浦ゆえ・山田ノジルの請求を認諾。弁護士費用を計5万円、慰謝料計50万円として、橋迫瑞穂氏へ55万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
2022年8月の提訴から約1年半という長期間にわたり、励ましの声を届けてくださったみなさま、法廷へ直接駆けつけて応援してくださったたくさんの方々へ、あらためて心より感謝を申し上げます。
以下、「判決」「事実及び理由」です。スキャンデータの後には、文字起こししたものも掲載します。
※以下は文字起こし
令和6年5月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
令和4年(ワ)第19774号 損害賠償請求事件
口頭弁論終結日 令和6年3月21日
判 決
原告 三浦ゆえ
原告 山田ノジル
上記2名訴訟代理人弁護士 神原元
被告 橋迫瑞穂
同訴訟代理人弁護士 神田知宏
主 文
1 被告は、原告三浦ゆえに対し、 33万円及びこれに対する令和4年7月11日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 被告は、原告山田ノジルに対し、 22万円及びこれに対する令和4年7月11日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用はこれを2分し、その1を原告らの負担とし、 その余は被告の負担とする。
5この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
1 被告は、 原告三浦ゆえに対し、55万円及びこれに対する令和4年7月11日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 被告は、 原告山田ノジルに対し、55万円及びこれに対する令和4年7月11日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2 事案の概要
本件は、原告らが、 被告によるツイッター (現在のX) への投稿により名誉を毀損され、 また、原告らが送った私信の一部を被告が無断でインターネット上に公開したと主張して、 被告に対し、 不法行為に基づく損害賠償としてそれぞれ55万円 (慰謝料50万円及び弁護士費用5万円の合計額) 及びこれに対する令和4年7月11日(最後の不法行為がされた日) から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
第3 前提事実 (争いのない事実、 並びに後掲証拠 〔書証番号は枝番を含む。〕 及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
1 当事者等
(1) 原告三浦ゆえ (以下 「原告三浦」という。)は、web媒体 「WEZZY」の業務委託を受けている編集者である。
(2) 原告山田ノジル (以下「原告山田」という。)は、WEZZYで 「スピリチュアル百鬼夜行」 を連載しているライターである。
(3)被告は、 大阪公立大学大学院文学研究科都市文化研究センターの研究員であり、「占いをまとう少女たち」 「妊娠・出産をめぐるスピリチュアリティ」等の著作がある。
(4)「マダムユキ」及び「黒猫ドラネコ」 は、 それぞれ当該名称でweb上に記事を執筆しているライターである。 マダムユキは、ライブドアブログ上に、「Flat9~ マダムユキの部屋」 と題する個人ブログを開設している(以下「マダムユキの部屋」という。)。
2 被告による投稿
(1)被告は、令和4年6月30日、ツイッターに次のとおり投稿した。 (甲9、弁論の全趣旨)
ア 「三浦ゆえさんとかいう編集者が山田ノジルと黒猫ドラネコ、そして今回のマダムユキとかいうプロガーを記事に登場させてたけど、 そんないい加減なやり方をさせた上に、個人を誹謗中傷するライターを起用するなんて信じられない」(以下「本件投稿1」という。)
イ「ちょっともういい加減にしてほしいですわ、山田ノジルさんも黒猫ドラネコさんも問題の指摘をされると仲間内で悪ロプークスクスだったけど、 マダムユキはもう悪口じゃなくて堂々と誹謗中傷。 なんなんだ。」 (以下「本件投稿2」という。)
(2)被告は、 令和4年7月11日、ツイッターに次のとおり投稿した。(甲10)
「山田ノジルさんと、 担当の三浦ゆえさんから、以下のようなメールがきました。 メールを送ったところ、 直接のやりとりはしない、 代理人を通す、だそうです。」 「率直に言えば山田ノジルさんと三浦ゆえさんは記事への批判を裏から手を回して黙らせようとしてる印象です。」
なお、 同投稿においては、 別紙1の画像が添付されていた。 (以下、別紙1の添付部分を併せて「本件投稿3」 といい、 添付部分のみを示すときは 「本件添付部分」という。また、本件投稿1から3までを併せて 「本件各投稿」という。)。
第4 争点及び当事者の主張
1 本件の争点は、 ① 本件投稿1及び2による名誉毀損の不法行為の成否 ( 争点①)、②本件投稿3によるプライバシー損害の不法行為の成否 (争点②)、 ③原告らの損害の有無及び額 (争点③) である。
2 争点に係る当事者の主張の要旨は、 別紙2に記載のとおりである。 なお、同別紙で定義した略語については本文でも用いる。
第5 当裁判所の判断
当裁判所は、本件投稿1及び3につき不法行為の成立が認められ、 原告らの請求は主文第1項及び第2項記載の限度で理由があるからこれを認容すべきものであり、その余の請求は理由がないから棄却すべきものと判断する。その理由の詳細については以下のとおりである。
1判断枠組み
(1) ある表現における意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるかどうかは、当該表現についての一般の読者 (閲覧者) の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものと解するのが相当である (最高裁昭和29年(オ)第634号同31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻 8号 1059頁参照)°
(2) 事実を摘示しての名誉毀損にあっては、その行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、 その目的が専ら公益を図ることにあった場合に、摘示された事実がその重要な部分について真実であることの証明があったときには、その行為には違法性がなく、仮に上記証明がないときにも、行為者において上記事実の重要な部分を真実と信ずるについて相当の理由があれば、その故意又は過失は否定される (最高裁昭和37年(オ)第815号同41年6月23日第一小法廷判決・民集20巻5号 1118頁、 最高裁昭和56年(オ)第25号同58年10月20日第一小法廷判決・裁判集民事140号1頁参照)。
2 争点① (本件投稿1及び2による名誉毀損の不法行為の成否) についての判断
(1) 本件投稿1について
ア 社会的評価の低下に関し
本件投稿1は、編集者である原告三浦が原告山田、 黒猫ドラネコ及びマダムユキの3名を記事に登場させたことに関し、「個人を誹謗中傷するライターを起用するなんて信じられない」 と記載している (前提事実 2 (1)ア)。
このような本件投稿1の文言によれば、 同投稿は 「原告三浦が個人を誹謗中傷するライターを起用した」 事実を摘示するものと解されるところ、原告三浦による当該ライターの起用が本件投稿における批判の対象とされていることに鑑みると、一般の閲覧者の普通の注意と読み方とを基準とすれば、同投稿は、原告三浦において当該ライターが個人を誹謗中傷していることを認識しながら、あえて当該ライターを起用したと印象付けるものである。
したがって、 上記摘示事実は、一般の閲覧者に対し、 原告三浦が編集者という責任のある立場にありながら、それにふさわしくない行為を行ったとの印象を与えるものといえるから、原告三浦の社会的評価を低下させる。
イ 違法性阻却事由に関し
被告は、本件投稿1にいう「個人を誹謗中傷するライター」はマダムユキであり、 具体的にはマダムユキの部屋に掲載された本件ブログ記事が被告に対する誹謗中傷に当たること、 原告三浦が本件座談会で原告山田、 黒猫ドラネコ及びマダムユキの3名を採用した事実が存在することを挙げ、摘示事実についての真実性を主張する。
しかしながら、本件ブログ記事の掲載日が令和4年6月29日であるのに対し、本件座談会は令和元年11月18日に行われたものであって(これらの事実は当事者間に争いがない。) 本件座談会への起用は本件ブログ記事よりも2年以上前であることに照らせば、仮にマダムユキによる本件ブログ記事に被告への誹謗中傷に当たる内容が含まれていたとしても、これをもって、原告三浦が個人を誹謗中傷するライターを起用した事実があると認めることはできず、本件投稿1の摘示事実は真実性を欠くというべきである。
ウ 以上によれば、本件投稿1により原告三浦の社会的評価が低下するものと認められる一方、違法性阻却事由は認められないから、名誉毀損の不法行為の成立が認められる。
(2) 本件投稿2について
ア 社会的評価の低下に関し
本件投稿2は、原告山田が 「問題の指摘をされると仲間内で悪ロプークスクス」 している旨記載している 前提事実 2 (1) イ)。
上記文言によれば、本件投稿2は、 原告山田が自らの執筆する記事について問題点を指摘されたのに対し、仲間と一緒に、悪口を言ったり、笑ったりした事実が摘示されていると認められる。
もっとも、本件投稿2を全体として見ると、マダムユキが誹謗中傷を行っていることを主たる内容とするものであり (前提事実2(1) イ)、 原告山田が仲間と一緒に悪口を言ったり笑ったりするとの記載部分は、マダムユキの悪質性を強調しようとする上で、これと対比するものとして挙げられているにすぎない。 そうすると、 本件投稿2の記載に接した一般の閲覧者は、原告山田が問題点の指摘に対してまともに取り合わないとの印象を受けるにとどまるものといえる。 これに加えて、本件投稿2の記載や従前の投稿内容 (甲16, 17) からは、原告山田に対して投げかけられた問題点の指摘が、 同原告において真摯に対応しなければならないような内容や性質のものであったかどうかは、一般の閲覧者にとって判然とせず、問題点の指摘に対してまともに取り合わないことは、必ずしも原告山田の社会的評価を低下させるものとはいえない。
これらに照らせば、上記摘示事実が示されたからといって、不法行為法上違法と評価されるまでの社会的評価の低下があったと認めることはできない。
イ したがって、違法性阻却事由の有無について検討するまでもなく、本件投稿2については不法行為の成立が認められない。
3争点② (本件投稿3によるプライバシー損害の不法行為の成否) についての判断
(1) 認定事実
前記前提事実 争いのない事実並びに後掲証拠 (書証番号は枝番を含む。)及び弁論の全趣旨によれば、 以下の事実が認められる。
ア 原告三浦は、本件投稿1及び2がされた令和4年6月30日、 集英社の担当者である藁谷に対し、 被告からSNS上で攻撃を受けて困っている旨相談した。 これに対し、 藁谷は、自らの立場では積極的に関与することはできないが、 原告三浦の要望があったことを被告に伝える程度であれば対応可能である旨回答した。(甲34)
イ 原告三浦は、 同年7月4日、 原告らの被告に対する要望をまとめたメールを藁谷に送信した。 (甲35)
ウ 藁谷は、 同年7月5日、 上記イのメールに記載された原告らの要望をそのままコピーして転記した上で、原告らからこのような要望が出ていることを伝えるメールを被告に送信した。 (乙1、3、 弁論の全趣旨 )
工 被告は、 同年7月6日、 原告三浦に対してダイレクトメールを送信し、「藁谷さん経由で三浦さん、山田さんの 『要望』 を受け取りました。」 とした上で、 原告らの要望について理解できない点があるが、 藁谷等を通じて確認することができないため要望には応じようがないなどと述べ、「いただいた『要望』ってツイッターに公開してもいいでしょうか?」と尋ねこれに対し、原告三浦は 「後日、代理人を通じて連絡いたします。 直接のご連絡には応じません。」と回答した。 被告は、原告三浦の回答を受けて、「ではこちらも代理人の用意をしておきます。」 と返した。(甲39)
オ 被告は、同年7月11日、 本件投稿3において、「山田ノジルさんと、担当の三浦ゆえさんから、以下のようなメールがきました。」 と記載した上、 藁谷から受け取った上記ウのメールのうち原告らの要望を記載した部分を添付した (本件添付部分)。 (前提事実2 (2))
なお、本件投稿3に先立ち、原告らから被告に対し、 原告らの要望を公開することについての許諾はされていない。(弁論の全趣旨)
(2) 上記認定事実によれば、 被告は、本件投稿3における本件添付部分が、 SNS上の投稿をめぐる原告らと被告の紛争に関し、 原告らが被告に対する要望を記載したものであることを知りながら、 原告らの許諾を得ることなく、これをそのままの形で公開したものであると認められる。
この点、被告は、 藁谷が原告らとの打合せの際に聴き取った内容を記載したものと認識しており、 原告らのメールをそのまま転記したとは認識していなかった旨主張するが、 そもそも、前者の認識であったからといって、紛争に関する相手方の要望をその許諾を得ることなく公開するという事柄の本質において異なるものではない。 これを描くとしても、 ①本件添付部分(別紙1参照) に記載されている原告らの要望は多岐にわたり、個別具体的に示されていること、また、その要望内容は、 被告に宛てたものであることが明らかであること、②本件添付部分において、被告や、 黒猫ドラネコ及びマダムユキについては「さん」「氏」といった敬称が付されているのに対し、原告らについては敬称が付されていないことからも、原告ら自身が記載したものであることが容易に推測できること、③被告自身、本件投稿3において、原告らからメールが送られてきた旨記載していること (認定事実オ) に照らせば、被告は、 藁谷から送られてきたメールにおける原告らの要望を記載した部分が、 原告らが被告に宛てて記載したものであることを認識していたものと認めるのが相当である。 したがって、 被告の上記主張は採用することができない。
(3) 上記のとおり、本件添付部分は原告らが被告に宛てて記載した要望であり、実質的に原告らの被告に対する私信に当たる上、SNS上の投稿をめぐる原告らと被告との紛争内容が具体的にうかがわれるものであるから、私生活上の事実に関する事柄であって、原告らのプライバシーの利益を害するものといえる。
他方、被告においては、原告三浦とのダイレクトメールのやり取りの結果、上記紛争に関しては双方で代理人を立てて交渉することとされていたのであるから(認定事実エ)、本件添付部分を公開する必要はなかったものである(この点、被告は、原告らが他の出版社等に同様の要望を送っては困るため、本件添付部分を公開する必要があったと主張するが、原告らが藁谷に要望を記載したメールを送った目的は、原告らと被告の共通の知人である藁谷に被告への要望を伝達してもらうためであり、藁谷が原告らの要望を転記したメールを被告に送信したことにより上記目的は達成されているから、原告らが他の出版社等に同様の要望を送る可能性は想定し難く、被告の上記主張は採用することができない。)。
以上に照らせば、被告が原告らの許諾を得ずに本件添付部分を公開したことは、原告らのプライバシーの利益を違法に侵害するものとして不法行為を構成するというべきである。
なお、被告は、 藁谷からも本件添付部分を公開してはいけないと言われていなかったと主張するが、そもそも本件添付部分の公開について許諾を得るべき相手は藁谷ではなく、実質的な私信の送信者であり、被告との紛争に関して要望を述べている当事者である原告らである。 また、これを描くとしても、被告自身が法廷での供述において認めているとおり、藁谷と被告との間では本件添付部分の公開について明示的なやり取りがされていたわけではない。これらに照らせば、被告の上記主張は、本件投稿3による不法行為の成否に係る上記判断を左右するものではない。
(4)以上によれば、本件投稿3については、原告らのプライバシーの利益を侵害する不法行為が成立する。
4 争点③(原告らの損害の有無及び額)についての判断
以上のとおり、本件投稿1につき原告三浦との関係で、本件投稿3につき原告らとの関係で、それぞれ不法行為が成立するところ、これらの投稿の内容に加え、本件投稿1については原告三浦の編集者としての信用に関わる名誉毀損であること、本件投稿3については、原告らと被告との紛争内容が具体的にうかがわれる本件添付部分を正当な理由なく無許諾で公開したものであることに照らせば、本件投稿1に係る慰謝料は10万円、 本件投稿3に係る慰謝料は原告ら各自につき20万円とするのが相当である。
したがって、 原告三浦については30万円、 原告山田については20万円の慰謝料が認められるところ、本件訴訟を提起するための弁護士費用として相当因果関係が認められる額は、 原告三浦につき3万円、 原告山田につき2万円とするのが相当である。
以上から、原告三浦については合計 33万円、 原告山田については合計22万円の損害が認められる。
5 よって、原告らの請求は主文第1項及び第2項に記載の限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第26部
裁判官 清水知恵子
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