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月の使者#ゴーショー④『ウーリーと黒い獣たち』

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ターリキィ王国に滞在中、北東から強いディセクションを感じていた。この方角はリケーン王国の方角で間違いない。そして、この”気”はどこか見覚えがある。厳しくも優しく、冷たくも温かく、ただ、底辺に流れるはドス黒い憎しみが折り重なるようにして作られている。ルボン王女のそれだ。そして、その波長は王国の中央にそびえ立つ城に向かっている。

「なるほど…」

わたしはルボン王女とアクーン王がつながっていることに確証を得た。ここまで強烈なディセクションを送る相手となると、そうはいまい。恋仲という一線を越え、家族として関係を持つ男アクーン王だからだろう。おそらく、ディセクションを送る理由は、ルボン王女の愛情に関わる何か。または、王国同士の争いに関わる代理戦争か。さらに、その家族の間に生まれしはウーリーという勇者。隣国同士の”王”と”王女”と勇者の息子。なんとも奇妙かつ運命的な縮図を持つ家族である。益々、アクーン王に興味を持ったのは言うまでもない。


さて…


アクーン王を知るためには本人に会うのが一番、手っ取り早い。本人を前に「ルボン王女とは、どういった関係だったのか」「ウーリーとは、真の息子なのか」「なぜ、ルボン王女から反感を買っているのか」と聞きたいことは山ほどある。何より不思議と、アクーン王そのものの人柄に触れてみたい衝動に駆られている。王と諜報員という、何の接点もない関係性にもかかわらず。

アクーン王本人に問いたい内容が辛辣なだけに、当人からベラベラとしゃべるだろうか。普通の感覚であれば、自分の内輪の話はあいそれと簡単には口を開かない。諜報員活動の経験上、99%に近い。となると、まずは「アクーン王とはどういった素性のものか」を探ることから始めてみても遅くなはいだろう。それこそ、おしゃべりな人物であれば、それなりの方法がある。かりに気丈な男であれば、真逆の方法を取ればいいだけのこと。

時間がかかるのはしょうがない。ひとまず、アクーン王の近辺から探ろう。外堀を埋めるように 静かに…





ターリキィ王国の城


ターリキィ王国の中心部には、街のシンボルである”噴水広場”がある。ただ、連日の干ばつで噴水は干からび、見る影もない。その噴水広場の後方に1本の北上する石畳の道が続く。その先にあるのは、かのターリキィ王国の城であるサンライト城がそびえ立つ。そして、サンライト城の主こそ、あのアクーン王である。

わたしは城から外れた高台へ上がり、望遠鏡越しにサンライト城について調べてみた。

外からパッと見ても強固な作りは、城のお手本と呼べるほどに整われている。城の周りは高い壁に覆われていて、たえず城壁上には衛兵が見回る。ひとりが休憩に入ったかと思えば、すぐに二人目が城壁上を見回っている。また、別の場所では見渡し小屋のような場所が設置されていて、こちらでも監視員が配備されている。わたしも危うく監視員に見つかりそうになったことがある。侵入者の排除等、十分に高い警備が網の目のように張り巡らされている。城へ続く唯一の入り口は、外に設置されている門のみ。下調べした時点で3カ所である。正門と裏門、残すは正門の横に隣接する警備門だけ。ここまで大きい城だと隠し通路も常備されているはずだが、そこまでの情報を入手できなかった。

アクーン王へつながる人物へ接触するためには、どうすれば良いか。ここまで環境が整い、警備意識の高い衛兵に囲まれていては簡単には接触できない。もちろん、強行突破する方法もあるだろう。夜風に忍び込み、直接アクーン王を捕まえる。ただ、前述した通り、ここまでの固い警備のスキをついて無事に任務を遂行できるだろうか。おそらく不可能に近い。正直、どれだけ命があっても足りないと感じている。


「かくなるうえは…変装しかあるまい…」

わたしは自慢ではないが、変装の名人である。あたかも、一卵性双生児のようにウリふたつに変装できる。元々、身体の柔らかさも功を期している。さらには骨格から似せられる特異的な体位の持ち主でもある。同性であれ異性であれ老若男女問わず。わたしの手にかかれば、対象にそっくりに変装してみせよう。

城内への潜入方法は、変装で問題ない。そのほうが衛兵に見つかり命を落とすリスクは格段に減るだろう。ただ、懸念すべきは”だれ”に変装するかだ。それこそ、アクーン王に接触できる”だれか”へ変装できれば最高のシナリオである。アクーン王の側近か、はたまた衛兵に化けるか。

「ふむ…」

椅子に座り、天井を見つめながら考えを巡らす。ふと長考していると、すでに外は薄暗い。「ここで考えても良い案が浮かばない」と考え、飲み屋へ出向くこととした。
「アルコールを少々入れれば、思わぬ産物があるかもしれない」と願いながら。








賢者シュミクト
との出会い


べしゃり屋ボーチャの店から出て、数メートル先にバナンナ料理の上手い店がある。また、バナンナを発酵させた飲み物「ルービーナバ」が格別に喉を潤してくれる。頭ばかり回していても腹は空くし、喉は乾く。わたしは気晴らしにその店へ来店。店内はカウンター席と対面するように数名が座面できる長椅子と長机が縦に5つ並んでいる。カウンター席は6名ほどが座れる程度。ちょうど奥から二番目のカウンター席が空いていたので、そこに座った。ほかは満席らしい。

すでに隣には先客が座っている。店内は薄暗く、隣に座っても相手の顔は分かりづらい。その先客が店員に向かって「おかわり!」とジョッキを突き出す。店員は「はいはい…」と呆れたようにジョッキを取り、中身を注ぎに厨房へ戻っていく。


「どこかで聞いたような声だ」と感じつつも、わたしも胃袋と喉を潤すためにメリューへ目を通す。おつまみ程度の料理と自慢の「ルービーナバ」で決まりだと考えが落ち着いた時、さきほど空になったジョッキがなみなみと注がれた「ルービーナバ」を持った店員と目があう。注文しようと店員にアイコンタクトをしながら手を挙げた。

「すいません」

店員
「はい!ちょっとお待ちください」

店員は、手持ちの飲み物を隣の客へ渡す。隣の客は「待ってました」と言わんばかりにすぐにジョッキを持ち上げ飲み出す。一口でどこまで飲むのかと思うほどにグラスを傾け、テーブルに置いたときには半分なくなっていた。

店員
「注文は、なににしましょう?」

わたしは、さきほど決めていた料理と「ルービーナバ」を注文する。

店員
「かしこまりました!
 少々、おまちください」

店員はすぐに厨房に早足で向かう。
わたしは手持ぶさたに襲われ、隣の客の料理をチラッと覗き見した。すると、隣の客の前に仰天の光景が並んでいた。なぜなら、男の前には大きめの皿がひとつ。その上に載っているのは大量の「メウボーシ」のみだったのだ。

「えっ?この人、メウボーシだけで酒がすすむの?」と驚きが隠せない。
わたしがあまりに皿の上に乗っかる大量のメウボーシを凝視するものだから、隣の客はわたしの反応に気づく。

隣の客
「おいっ!なに、見てんだよ!」

わたしは咄嗟に目をそらす。

ゴーショー
「あっ…、いや…そういうつもりでは…」

隣の客はジョッキを口に運び、飲みながらこちらを睨みつける。

隣の客
「けっ!おおかた、大量のメウボーシをあてにする男が珍しいんだろ。
 おたくの顔に答えが書いてあるぞ」

ゴーショー
「あっ!図星ですか…」

わたしは頭の後ろに手を当てながら困り果てる。

隣の客
「いいんだよ。俺にとっては、これが最高のあてなんだよ。
 たしかに珍しいといえば、珍しいが」

ゴーショー
「すいません。気分よく飲んでいたのに…」

隣の客
「ホントだよ!こちとら廃業寸前でその日暮らししてんのにさー。
 こういう時間が唯一の楽しみだってのにさー」

ゴーショー
「申し訳ない」

隣の客
「ははっ!そう、謝んなよ。
 俺がちょっと大人げなかったよ。ほら、おたくの料理が出てきたぞ」

そう、隣の客が言うと、店員が片手に料理、もう片方に「ルービーナバ」を持ってわたしのテーブルの前にやってきた。

店員
「はい!お待たせしました!
 ヤッコヒヤとルービーナバです」

ヤッコヒヤとは、白くやわらかく原材料は豆腐で作られている冷たい食べ物だ。店に常備してある「ユーショウ」をかけると、これが抜群に上手い。
ルービーナバとよく合うのだ。

隣の客
「へぇ~、ヤッコヒヤを注文すんのかい。おたくも玄人だね」

ゴーショー
「いやいや、お褒めの言葉ありがとうございます」

隣の客
「良かったら、俺のメウボーシを乗せて食べてみな。
 案外、酸味が効いて食がすすむぞ」

ゴーショー
「はぁ…、では失礼します」

さきほど、失礼な行動をした手前、男の好意を断り切れず、わたしはメウボーシを取り、ヤッコヒヤの上に乗せて食べてみた。


んっ!!!

すっぱぁっ!!


一瞬、口の中に電撃が走る感覚。これで口内炎でもあったら、いまごろ悶絶していただろう。うん、ヤッコヒヤとメウボーシは合いません。激すっぱい食べ物に変貌していました。


ゴーショー
「ちょっっっ!!ぜんぜん、合わないじゃないですか!」

隣の客
「あれ??おかしいな~、ちょっと俺にも食わせろ」

隣の客は、わたしのメウボーシの乗ったヤッコヒヤを一口サイズにすくい上げて口へ運ぶ。

隣の客
「うん、うまいぞ!いけるじゃないか」

??


えっ!?

わたしの味覚がおかしいのか。いや、たしかに乞食こじきのような体験をしているので味覚障害があったけれども、いままで気づかなかっただけかもしれない。ただ、リケーン王国での食事では十分に味覚に自信はあったはず。

これは間違いない。十中八九、この男の味覚がおかしいのだ。


隣の客
「メウボーシ、うめぇ~な。これで魔力も回復するから一石二鳥だわい」

わたしは舌がマヒしていたが、なんとか口を動かし言葉にして隣の客へ話しかける。

ゴーショー
「ほへっ、魔力が回復するとは!?」

隣の客
「魔力は魔力やぞ、だって、俺は賢者だからな」

ゴーショー
「賢者??」

隣の客
「おい、賢者を知らないのか。
 俺はターリキィ王国の三賢者のひとり、シュミクトだぞ!
 聞いたことないのか」


ゴーショー
「えっ!あの賢者シュミクトですか!!」



わたしは思わぬ場所で、物語の重要人物のひとり賢者シュミクトと鉢合うことなった。





続く。




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