月の使者#ゴーショー⑥『ウーリーと黒い獣たち』
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窓の外がうっすらと明るくなってきた。下から黄色い光が差し込んでいる。朝方だ。昨日は、気づけば遅くまで飲み屋で飲んでいた。賢者シュミクトと一緒に。すっかりできあがった賢者シュミクトをわたしは引き連れて、自宅へ帰還した。残念ながら、部屋にはベッドがひとつしかない。賢者シュミクトは無意識のままに床に伏せて寝落ちした。同時に、わたしも自分のベッドに倒れ込むように寝落ち。朝は、べしゃり屋ボーチャの喋り声で起きた。珍しく「ごっつあんです!」の声が聞こえなかったのは嬉しいかぎりだ。
「朝か…、顔を洗ってこよう」
意識が朦朧とする中で、共用の洗面台で顔を洗う。「そういえば、シュミクトは大丈夫だろうか」と、ふと思い出し、すぐに部屋に戻った。部屋に戻ると、まだシュミクトは寝ている。近くにあった座布団を抱え込んで、口元をムニャムニャしながら良い気分で寝ているような顔をしている。
「なんとも賢者っぽくない一面だな…」
そう思いながら、シュミクトの顔を見ながら、わたしはアクーン王への接触方法を模索する。たしかに目の前に素晴らしい材料がころがっている。賢者シュミクトへ変装して、アクーン王へ近づけばいいだけのこと。すでに身形や声、顔も鮮明に記憶した。あとはシュミクト本人の喋り方や特徴、性格まで分かれば願ったり叶ったりである。とりあえず、朝のコーヒーを一杯いれようと台所で支度をする。
賢者シュミクトとの
別れ
えっ!!
ここはどこですか!!
突然、大きな声が部屋中に鳴り響く。わたしは沸騰するお湯を止めて、すぐに声のするほうへ向かう。向かった先では、座布団を抱えてブルブル震えて怯えるシュミクトの姿があった。
シュミクト
「えっ!えっ!なになに!
わたしは誘拐されたん??」
慌てるシュミクト。
わたしは動揺を大きくさせまいと落ち着いた様子で近づく。
ゴーショー
「あぁ…、大丈夫ですよ。
心配されないでください。ここはわたしの部屋ですよ」
シュミクト
「わたしの部屋?いやいや、あなたは
わたしをどうにかしようと思って、
この部屋へ連れ込んだのではないですか」
ゴーショー
「まぁまぁ、落ち着いて」
わたしはシュミクトをなだめるために「ちょっと、待っててください」と先ほど入れていたコーヒーを取りに行く。すぐさま、シュミクトへ温かいコーヒーを渡す。
ゴーショー
「どうぞ。さきほど入れたコーヒーです。
お口に合うかどうかは分かりませんが…」
シュミクト
「あっ…ありがとうございます…」
シュミクトはコーヒーを受け取り、多少落ち着きを取り戻したようだ。わたしはそのタイミングを見計らって、ここまでの顛末を彼に伝えることにした。
…
シュミクト
「なるほど…、そういうことだったんですね。
それはそれは、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした💦」
ゴーショー
「いえいえ、お気になさらず」
シュミクト
「いやいや、ゴーショーさんにとてもお世話になったようで。
本当に申し訳ない。このお礼はかならずお返しさせていただきます」
ゴーショー
「そんな、本当に大丈夫ですよ」
わたしは少々、驚いた。なぜなら、飲みの場でのシュミクトとはあまりに違いすぎるほどに人格が180度、真逆だったからだ。お酒の入ったシュミクトは、強引ながらも男っ気ある性格、シラフのシュミクトは大人しく礼儀正しい男性といった具合だ。まぁ、お酒が入ると本性をあらわにするのは、けして可笑しな話ではない。誰しも心の中にストレスを抱え込むものだから。
シュミクトは、コーヒーを飲みながら周囲を見渡す。
どこか落ち着きがないようだ。
ゴーショー
「どうかされましたか」
シュミクト
「いや、いま何時ぐらいかと思いまして」
ゴーショー
「急用でもあるんですか。そうですね…」
わたしは、シュミクトに分かるように時計のある壁を指差す。
ゴーショー
「ちょうど、7時30分ですね」
わたしの伝えた時間を聞いた瞬間、シュミクトの顔から血の気が引いたのが分かった。あきらかにヤバイといった表情だ。
シュミクト
「どうしよう...」
ゴーショー
「大丈夫ですか」
シュミクト
「じつは、今日はアクーン王と朝から謁見する段取りでして…」
ゴーショー
「なんと!!何時からですか!!」
シュミクト
「8時からです」
ゴーショー
「急ぎましょう!ここから城まで走れば20分ほどで着きますから!
まだ、間に合いますよ」
シュミクト
「ホントですか!?はい、すぐに行きます!」
シュミクトはあわてて、抱えていた座布団を放り投げ部屋を飛び出す。
ゴーショー
「その通路を右に出れば大通りです!右手に城は見えるので!」
シュミクトと一緒に部屋を出る際に、本人に伝える。
シュミクト
「ありがとうございます!
また、近いうちにゴーショーさんに会いに伺いますので!
本当にお世話になりました!!」
わたしが大通りに出た時には、シュミクトの走り去る後ろ姿が見えた。あらためて、賢者シュミクトとは、出会いから別れまでインパクトのある人物だった。
とは言いつつ、これでアクーン王との接触の機会に恵まれるようだ。賢者シュミクトを伝って、しぜんとアクーン王とも話ができるかもしれない。となれば、変装の算段についても的が絞れる。
方法としては、こうだ。
・アクーン王の病気を治す医者に変装
・賢者シュミクトからアクーン王へ紹介してもらう
うん、じつに自然だ。この方法であれば、無理なくアクーン王に近づける。ただ、問題は”聞く内容”だろう。
「ルボン王女とどういう関係ですか」
「ウーリーは、あなたの息子ですか」
上記の質問を赤の他人から言われて、バカ正直に答えるだろうか。少なくとも、わたしは答えない。なぜなら、プライベートな内容で知られたくない内容でもあるからだ。どうにか聞く術はないだろうか。
「もしかしたら…」
ふと名案が思い付く。
それは”賢者シュミクトに聞く”ことである。
アクーン王に近し存在である賢者シュミクトであれば、アクーン王の秘密のひとつやふたつは知っているはず。上手くいけば、簡単に機密情報を聞けるかもしれない。
「ふむ、これは上手くいくかも」
わたしは誰が見てるか分からない大通りで、ひとり不適な笑みを浮かべていたかもしれない。賢者シュミクトは近いうちに、わたしに会いに来るといっていた。その時を待って。
続く…
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