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月の使者#ゴーショー③『ウーリーと黒い獣たち』


ザーーーーッ!


城内は静まり返っている。
激しい雨音だけは静寂を切り裂くように鳴り響く。たたずむ三人。



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「ルボン様が行方不明とは、どういうことだ!」

わたしは語気を荒げて衛兵に近寄る。半ば「嘘であってくれ」と思わんばかりに顔は険しかっただろう。

衛兵A
「はっ!
 先日、ルボン様を監視していましたところ、
 とある集団がルボン様を訪ねてきました」

「ふむ、それで?」

衛兵A
「客人だったようで、一度は部屋に招き入れたのですが…
 すぐさまルボン様は子供を抱えて部屋から飛び出していったのです」

「なんと!」

衛兵A
「そして、ルボン様の跡を追うように訪ねてきた集団も
 後を追いかけていました。
 わたしたちもただ事ではないと察知し、すぐに追跡しました。
 ただ…」

わたしは続きが気になり、多少食い気味に返答する。

「ただ…、
 ただ、なにがあったのだ!」

衛兵B
「ただ、足取りを掴もうと追いかけたは良いのですが、
 深い森林に逃げられたため姿を見失ったのです」


「なにをやっている!!」


ここで声を荒げても何も変わらないとは分かっていても、冷静を保てず目の前の衛兵に向かって強く当たってしまった。一旦、冷静にならねば。これから諜報員として活動する身として感情のコントロールは絶対条件だろう。ここで話を進めても、けして状況は良くならないことが分かった。

「よし!女王の行方が分からないことは理解した!
 すぐにわたしも支度して捜索にあたろう!!」

衛兵ふたりにそう告げると同時に肩をポンッと叩き、「もう休んでいい」と耳元でつぶやいた。



わたしの部下で信頼における数名を従えて、すぐさまルボン女王捜索隊を結成した。功を期したのか雨はあがり、うっすらと太陽が山の裂け目から見える。神が「一刻も早く女王を見つけ出せ」とのお触れを出しているように感じた。

リケーン王国からショウナーン王国まで、早馬で休まず走らせても1日はかかる計算だ。ただ、ひたすらにムチを打ちつつ馬を走らせ続ける。ルボン女王が無事であることを願いつつ。





女王の所在が行方不明のまま、どうなったのか。
後日談を話そう。


結果、ショウナーン王国に辿り着く前に、近辺の農村で農民から保護されている状態でルボン女王を発見することができた。ただ、その姿はすでに衰弱しきっており、格好もひどく薄汚れていた。喋りかけても思いつめたような顔つきで「わたしのウーリーが…」と繰り返し口ずさむのみ。このままではらちが明かないと感じたわたしは、ルボン女王をすぐにリケーン王国へ連れて帰り、母親の王女様へ引き渡した。

一時期は食事も喉を通らなかったルボン女王だったが、月日がたつにつれて体調は回復傾向に向かった。ただ、以前は多少見受けられた明るい姿も影を落として、リケーン王国の裏側のような顔立ちで言葉を発することが増えた。



アクーン王国への出発


数年後…


リケーン王国の唯一の王女としてルボン女王は即位された。実母の失脚がひとつの要因である。また、わたし自身もルボン女王の…いや、ルボン王女の側近として命を受けた。すでに諜報活動としてさまざまな国を渡りながらも、リケーン王国を潤すために情報をリークし続けていた。幸いにも、ルボン王女誕生と同時に生まれたベストセラー商品「波DO水」によってリケーン王国の経済は上向きへ進み、隣国以上に勢力を付けていた。

当時のわたしは、ショウナーン王国で行商人として成り代わり、諜報活動にあたっていた。しかし突如、ルボン王女から「アクーン王国へ諜報活動として潜入せよ」と手紙が届いた。

アクーン王国は、リケーン王国の対比となる存在。アクーン王国が陽の立ち位置だとすれば、リケーン王国は陰そのもの。今回の諜報活動としてアクーン王国を選ばれた要因には、そうした関係性からアクーン王国の発展ぐあいを見てほしいといった要望だろうと推測した。また、アクーン王国の経済混乱を招くスキャンダルを見つける思惑も含まれているだろう。

わたしはすぐに身支度をすませ、ルボン王女に会いに行くためリケーン王国へ旅立つ。リケーン王国へ到着後、休む暇もなく王女の間へ足を運ぶ。

王女の間の中央には、ルボン王女が鎮座する。
王女の声が届くところまで近づき、わたしはひざまずく。


ゴーショー
「ルボン王女様、ただいま戻りました!」

ルボン王女
「ゴーショーよ、ショウナーン王国での諜報活動ご苦労であった。
 そなたの提供された有力な情報は、
 リケーン王国の発展におおいに貢献された。
 心から礼を申し上げる」

ゴーショー
「ありがたき幸せ」

ルボン王女
「それでは…、ショウナーン王国から戻ったばかりで申し訳ないが、
 ゴーショーには隣国アクーン王国へ侵入してほしい」

ゴーショー
「はっ!」

ルボン王女
「みなまで言わずとも分かってはいると思うが…、
 少しでもアクーン王国の経済混乱につながる情報を掴めれば、
 今後のゴーショーの進展について検討しよう」

ゴーショー
「はっ!ありがたき幸せ!
 それでは、早急にアクーン王国へ出発いたします」


王女の間へ深い一礼をすませて、立ち去ろうとした瞬間。
ルボン王女から思わぬ言葉が飛びかかる。

ルボン王女
…っ!!ゴーショー!
 可能であれば、とある男についても調べてほしい」

わたしはすぐに立ち止まり、ルボン王女のほうへ振り返る。

「はっ!
 とある男とは??」

ルボン王女
「詳しい情報は定かではないのだが…
 名はウーリーという。
 よく笑い、よく人の話を聞き、ツッコミの上手い男である」

ゴーショー
「なるほど…、良ければ外見の特徴を伺いたいのですが…」

ルボン王女
「すまない…、外見については特徴を説明できない。
 しかし、ウーリーという名は珍しいので、上手くいけば
 アクーン王国ですぐに発見できるやもしれぬ。
 その男の情報について、分かり次第、すぐに連絡を寄こせ」

ゴーショー
「王女の命であれば!
 ウーリーの情報について、分かり次第すぐに連絡させていただきます」

ルボン王女
「頼むぞ!」

ゴーショー
「はっ!!」


「ウーリーという男は、いかなるものなのか」
わたしは想像を膨らませるに、そこまで深く考える必要なかった。なぜなら、数年前にルボン王女の救助時に発していた言葉こそ「ウーリー」だったのを鮮明に覚えているからだ。ルボン王女はその点を無意識に言葉にしていたので鮮明に覚えてはいないだろう。そして、「ウーリー」とは、推測だがルボン王女の実の息子である可能性も高い。だからこそ、あそこまで乱心し、その後には王女として剛腕を振るい、結果としてリケーン王国を見事に再建させた。そこまでして精力的に王国活動に励んでいたのも、「ウーリー」という大切な我が子を忘れるがための必死さから生まれたものだと容易に考えうる。わたしはルボン王女の側近として、深くまで尋ねることなくアクーン王国へ向かう決心を固めたのだった。









思わぬ場面で、ウーリーと対面で会うことが叶った。ルボン王女の望む男ウーリーは、毛深くも優しい目をした中年の男。会話中は相手の目をじっと見つめて話す。独自のターリキィ語は、ときおり聞きづらくはあったものの心地よいコミュニケーションを取る人格者だった。



勇者ウーリー(キャラデザ:sou.さん)


ターリキィ王国とウーリーについての情報を取りまとめ、ルボン王女への『重要文書』を手紙にした数日後…

続けて、ターリキィ王国の王、アクーン王と接触を図る算段に取り掛かっていた。すでに十分なまでに成果をあげられることはわかっていても、わたし自身の探求心が止まないのか、アクーン王について調査してみたくなった。いや、ここでは正直に話そう。

じつは、噂話でアクーン王とルボン王女がつながっているとの情報を得た。この噂話は、果たして信じるに値するものなのか。わたしは核心に近いと感じている。というのも、わたしがターリキィ王国へ侵入する前に国、ショウナーン王国で得た情報だからだ。そう、ショウナーン王国とは、以前からルボン王女が逃亡生活していた国。そして、アクーン王とルボン王女の仲睦まじい姿が多くのショウナーン国民に目撃されていたのだ。

真実は、ルボン王女の胸の中でしか分からない。おそらく必要以上に民を心配させまいとの配慮だろう。ただ、わたしとしては「真実を確かめねば」という思いに駆られて、アクーン王を知りたくなった。

アクーン王とは、いかなる人物なのか。
ルボン王女を、これほどまでにも魅了する人物とは…

わたしの好奇心を抑えるためにも、かならずやアクーン王と接触せねば。




続く…


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