【18歳以上向け?】無限の感覚 第7話
*
――ふたつの世界が融合する。
「僕の世界」――妄想世界《ディリュージョニア》。
「彼の世界」――監視世界《ウォッチンギア》。
――ふたつの世界は融合した。
融合した世界は存在が「あいまい」になる。
神にしか感知できない世界になったのだ。
「こんなことができるのならエネルギー問題も『一柱《ひとはしら》』で解決できるだろうに」と、僕はつぶやく。
「彼は『神々の遊び』をしているのです。神という存在は気まぐれなので、善にもなるし悪にもなる。神にはニンゲンの常識というものが通用しない。『四郎』も二千年間の中で神話に関する資料を読んだことがあるでしょう? 神とは理解できないモノなのです」と、無限は言った。
「実際、僕は自分自身が『よくわかる』し『よくわからない』」
「そう、わたしたちは神になった。だから、わたしたちは自分自身を完全に把握できるし把握できない」
「気まぐれだからか」
「ですです」
口調かわいいなあ、おい。
「あなたの感情は筒抜けですよ」
彼女は頬を染めながら言った。
「――いいかな、キミたち」と、大蛇森幽明ことウロボロス一柱《ひとはしら》。
「うん」「はい」
「これから行うのは、本当の『最後の審判』。最終決戦というやつだ。その意味が理解できるか?」
「どうでもいいから始めちゃいましょう」と、無限。
「融合した『ふたつの世界』は僕たち三柱《みはしら》にしか認識できない。もはや世界の時間概念で認識できる領域では戦えない。つまり、人知で認識できる最小の時間単位を超える――「秒を超える、その先以上の」という意味――速さの戦いだ。要するに、『刹那』でさえも超える戦いが始まろうとしている」と、僕。
「そういうことだ。というわけで。この大蛇森幽明、先手を取らせてもらうぞ――」
――互いが持つ「死」の因子の特性により、感情が理解できない状態で戦いが始まった――無限は僕の「死」の力で、彼が感情を読むことをできなくした。……物語的に都合がよすぎる気もするのだが、できてしまうのだから仕方がない。
大蛇森幽明の「概念的攻撃」が「発動」する。
刹那を超えて「心の壁」が「発動」――僕と無限を守る。
無限の「心の銃」による「概念的攻撃」が「発動」する。
大蛇森幽明は「概念的攻撃」を防いだ。おそらく彼も僕と同じように「心の壁」(のようなもの)を発動できるのだろう。
攻撃、防御、攻撃、防御……。
延々と、永遠と、そのモーションは交互に繰り返された。
一秒を経過しないうちに無限を超える攻撃と防御が行われた。
まさに「無限の感覚」と言えるだろう――。
――経過時間、五秒。
いつの間にか僕と無限は大蛇森幽明の拳に腹部を貫かれていた。
*
「どうした? これで『最後の審判』は終わりか?」
大蛇森幽明は喜んでいた。
「神化したキミたちは勝てないのだ。たとえ『滅びる運命である世界の神』でもだ」
彼は僕たちの「根源《ルーツ》」を語る。
「キミたちは、この大蛇森幽明の一部。勝てるわけがない。わかりきっていることだ。ふたつの存在に分けられた『半人前の物体』だからな」
『半人前?』
「そうだ。キミたちは決して一人前になることはない。ニンゲンは、ふたつの存在が交わり、ひとりの存在を生み出す。それで一人前となるわけだ。だが、キミたちは、この大蛇森幽明から分化した存在。一人前になれるわけがないのだ」
『分化? 一人前になれない?』
「だから『俺』に勝てないわけだ。永遠に」
同じように反応する僕たち。
オウム返しだ。
頭の中の文章が「たどたどしくなっている」のも半人前の証拠である。
それは僕の感覚が「だんだん死んできている」のが原因なのかもしれない。
無限も同じことを思っている。
どこかしか完璧でない自分に嫌気がさしているようだ。
だが、嫌気を指していない部分もある。
それが僕たちの共通認識。
何度も何度も交わったから、わかる。
僕たちは感覚を共有した仲だ。
ふたりの感覚は意識的につながっている。
無限は僕とセックスしたことで「死」の因子が体に流れ込んでいる。
僕は無限とセックスしたことで「生」の因子が体に流れ込んでいる。
ふたつの因子が混ざり合い、僕は神になった。
つまり、概念化したのだ。
だから、僕たちがやるべきことは――。
『――妄想の箱、作成《さくせい》っ!』
重なる声。
重なる心。
ふたつの意志がつながった。
『……妄想の箱「ハート」、アクティベートっ!』
心をひとつにし、その「呪文」を叫んだ。
『妄想の箱、開錠《かいじょう》っ!』
瞬間、「心の壁」が発動した。
その「心の壁」は僕だけの力で形成したものではない。
彼女の力も混ざっている。
「生」と「死」の因子が交わり「概念」となった。
「概念」とは「世界のルール」。
そのルールは簡単に壊せない。
「ほう。なかなか高純度な壁ではないか。だがな。世界神である、この大蛇森幽明ことウロボロス一柱《ひとはしら》に破壊される運命だ。もって十秒というところか。なにをしても無駄だというのに」
『十秒もあれば十分』
「なに?」
『これから行われるのは世界の法則を書き換える儀式。十秒後、オマエの運命は死んでいる』
「死ぬ? この大蛇森幽明が?」
『そうだ。確信がある。オマエの言葉がオマエを滅ぼす。その瞬間を待っていろ』
感覚を共有した僕たちによる「二度目の呪文」が発動する。
『――妄想の箱、作成《さくせい》っ!』
巨大な妄想の箱が作成された――無限と僕を覆う巨大な箱が。
『……妄想の箱「コンバイン」、アクティベートっ!』