物書き未満妄想記録(短編小説)
*
月曜日は焦燥感に苛まれる。
憂鬱だ。
明日は仕事である。
そう、仕事だ。
仕事だけが続いている。
仕事が人生のすべてであるかのように、仕事だらけである。
休息はあるが、癒しがない。
……いや、癒しはある。
通勤途中に現れる女子校生だ。
自分の生きている時間の半分しかいない女子校生を見る。それだけで癒される。
そうだ。なにが言いたいのかというと、そんな癒しが月曜日にはある。
通勤バスに乗るとき、十人以上の女子校生が必ずいる。
だからなんだ、という話になるかもしれないが、それを見るのが癒しなのだから、月曜日の焦燥感なんて、そんな感じでちょっとは消えていく……ものなのかもしれない。
当たり前だが、人生というものは謎だらけだが、物語のようにすべての謎が明かされるわけではない。
秘密の扉を開くための鍵なんて存在しないし、異世界につながる扉もなければ、どこでもドアすら今の現実にはない。
脳で、五感で、感じられる主人公は私だが、それはあなたも同じであり、あなたの見え方がある。
男性と女性という性別に分けてしまうだけでも感じ方が違う。
LGBTのような主張、宗教のような信仰などが入るだけでも多種多様な性質が生まれてしまう。
そんな人間たちがいる中で、毎日バスに乗って、会社へ向かう。
会社の人間に個性があるかな?
なんだかロボットのように感じてしまうのだ。
毎日、毎日、同じ作業だ。
パソコンのあるデスクに向かう。
八時間、パソコンのキーボードをカタカタする作業だ。
キーボードを打つ力を自身の創作に活かしたい。
そんなことばかり、考えてしまう。
仕事にはノルマがある。
八時間の仕事の間に伝票を平均二百枚、入力しなければならない。
入力作業は、すべてデータ化され、数値の平均化がなされ、人事担当から「ノルマが足りないから、このままだと解雇せざるを得ない」と言われている。
時給九百円の仕事だ。
正直、割に合わない、ように感じてしまう。
でも、それが唯一、自分に残された仕事だった。
それしかなかったんだ。
最後のお金を稼ぐ手段だった。
やっとつかんだ仕事なのだが、小説を書く余力が残されていない。
自分の体力をどう小説を書くことに残せばいいのか……八時間タイピングする労働は、とてもじゃないが、仕事が終わったあと、家でキーボードを打つ力がほとんど残っていないのだ。
その仕事をやめていいのだろうか?
やめて、楽になればいいのだろうか?
楽になりたい。
そう思いたい。
だけど、それでいいのだろうか。
あの会社の通勤ルートの女子校生たちに会えなくなる。
別に犯罪をするわけではない。
そこにいるだけで癒されるのだから。
その癒しを捨てていいのだろうか?
*
「……きゃっ!」
「……大丈夫ですか?」
「大丈夫……です。おじさんは大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫。ごめんね」
「けが、してないですか?」
「えっ? ああ、これくらい大丈夫だよ。むしろ、キミのほうが大丈夫? 頭とか」
「えっ、いやいや、大丈夫ですよ。でも、これもなにかの縁ですし、ライン交換しませんか?」
「大丈夫? 頭とか」
「交換しましょう! 登録完了です! 仕事が終わったらお詫びさせてくださいね!」
(……大丈夫? 頭とか)
*
……なんてことは現実にはない。
こんな妄想を抱く、おめでたいやつが文章を書く。
かなり痛々しい。
だけど、そんな妄想をおじさんが描いてもいいじゃないか。
人間だもの。
とりあえず、解雇されないように、女子校生に会うために、そろそろ寝ようと思うのだった。