ナイちゃんの華麗《カレー》なる人生の記録 第7話
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「――なんでもっとナイさんを見てやらなかったんですかっ! 金沢の最先端医療技術がなければ死んでいましたよっ!」
ナイは金沢の最先端医療技術でなんとか一命をとりとめていた。
「ナイさんには金沢最先端医療技術式蘇生法を施しました。これで死んでいたナイさんは生き返ることができます。……ですが、もう、これ以上の治療は意味がありません。ナイさんの体の負荷は限界を超えています。もって三十日の命です」
『……!』
わたしたち家族は驚いた。
もう、ナイと一緒にいれる時間は三十日しかないという事実に。
「娘は、いつ目覚めるのです?」
父は酒の酔いが醒めるくらい冷静に言った。
「このままナイちゃんが目覚めないで三十日が来てしまうってことはないでしょうね?」
母も痛みのない娘に冷たくあしらっていた昔とは違いウルウルとした瞳で医者に言った。
「ええ、目覚めなければ、そのまま……」
『そんなっ!』
両親は声を揃えて言った。
「ナイ……ナイちゃん……お願い……目を開けて……」
わたしはナイの手を握り、祈りを捧げる。
それくらいしかできることがなかった――。
「――わかったわ」
『ええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっっっっっっっ!』
ナイは、ナイちゃんは、生き返った。
「残りの寿命は三十日ね。なら、やるしかないでしょう。アル……アルちゃん、あたしにカレーを食べさせてちょうだい。とびっきりスタンダードな、日本人向けのカレーをね」
わたしは急いで家に戻りカレーを調理した。病院までカレーを持っていった。
「では、いただきます――」
ナイちゃんは、わたしのカレーを食べた瞬間――。
「――あれ?」
――涙を流した。
「どうしたの、ナイちゃん?」
「アルちゃん、わかったよ。これが、からい、なのね」
ナイちゃんは「あの出来事」を思い出す。
「そうか。あの神が、あたしの痛みを消していたんだっけ。でも、あたしがあの神を倒したことで痛みが復活したんだ。うっ、うっうううううっっっっっ!」
「ナイちゃん? なにを言ってるの?」
「あたしが死ぬまでの時間は残りわずか。このままじゃいけないっ! 家に帰るわよ、アルちゃん!」
*
わたしたち双子は伊丹家の調理場でカレーをつくっていた。
「アルちゃん、聞いて。あたし、実は『華麗神《カレーしん》』という神の生まれ変わりだったの」
「???」
「今までの人生で、あたしに痛みがなかったのは、カレーを人間界に流行らせないために存在する神の妨害行為のせいだったのよ」
「???」
「でも、あたしはあの神に勝利した。つまり、これで痛みを感じる人間になれたってわけよ」
「???」
「さあ、新たなご当地カレーをつくるわよ。金沢カレーなんて目じゃないんだからっ!」
「意味は、わからないけど……手伝うよ、ナイちゃん!」
わたしたち双子は残りの三十日を噛み締めながら調理した。