【18歳以上向け?】無限の感覚 第6話
*
「『心《こころ》の剣《けん》』よ、すべてを斬《き》れ」
「『心《こころ》の銃《じゅう》』よ、すべてを撃《う》て」
僕と彼女がそう言った瞬間、監視世界《ウォッチンギア》のニンゲンは全員死んだ。それは概念的攻撃――人知を超えた攻撃のこと――であり、攻撃の範囲に制限はない。一秒の先を行く――零秒に近い――攻撃速度である。彼らの死は一瞬であった。
もちろんのことだけど、「僕の世界」でアナウンスしていた人も闘技場でアナウンスしていた人も死んだ。
僕たちを利用してエネルギー問題を解決しようとしたから当たり前だ。
慈悲はない。
――現在、僕たちは監視世界《ウォッチンギア》の闘技場にいるが、その場所にいても「ひとり」の気配を感じ取ることができた。
そう、僕たちの攻撃を受け止めたモノがいる。
この世界の神である「彼」だ。
監視世界《ウォッチンギア》の闘技場に「彼」は現れる。
「よくも、この世界のニンゲンを殺したな」
監視世界《ウォッチンギア》の唯一神である大蛇森幽明が僕たちをにらむ。
森に潜む大蛇のように。
「この大蛇森幽明は、エネルギー問題を解決するために御子柴四郎と無限を生み出したのだ。なのに、どうして『逆』の行動をするのだ。反抗期なのか? どうかしているぞ」
「どうかしているのは『お互い様』だろ? 僕たち『三人』はニンゲンを基準にすると意味がわからないことをやっている。だけど、それでも正しいと思えることをしたいんだ」
「……くくく、ふはははは」
「なにがおかしいんだ」
「おかしいさ。マガイモノごときが正しさを主張するとは。『俺』の細胞をニンゲンになるよう形成させたキミごときが」
「どういう意味だ?」
「そのまんまの意味だよ。キミは脳ミソが装備されているのか? ……ああ、そうか。キミは、この大蛇森幽明の中にある要素のひとつ――『死』を内包するニンゲンの形をした生物だ。だから正しさが理解できない」
「はあ」
「要するにだ。キミの脳は死んでいる。『死』の力を使い続ければ使い続けるほどキミの感覚は死んでいく」
「感覚が死ぬ?」
「それがキミの運命なのだよ……」
……運命とか正しさなんてものは僕には理解できない。
だけど「父さん」。
僕にだって理解できるものがある。
それは――。
「――僕は『僕の世界』を信じていた。なのに、あなたは『僕の世界』を壊した。僕の信じていた世界をだ。つまり、僕にだって『あなたの世界』を壊す権利がある。そうしなければ割に合わないんだよ」
「どうでもいい」
彼は僕に向かって本音を言った。
「この大蛇森幽明は監視世界《ウォッチンギア》の神だ。監視世界《ウォッチンギア》のニンゲンをエネルギー問題から救う方法を考えていたのだ。そのために生み出したのが妄想世界《ディリュージョニア》。キミたちは、この大蛇森幽明の子供であってもエネルギーを生み出す装置に過ぎないのだよ」
彼は「くくっ」と笑った。
「『御子柴四郎』の名前の由来を知っているか?」
知らない。
だけど興味はあった。
僕は親の存在を知らなかったから。
「僕の世界」には両親がいなかった。
僕が生きていられたのは「ニンゲンとしての感覚が死んでいるから」だと思う。
「御子《みこ》は子供、柴《しば》は森の一部、四郎《しろう》は死男《デッドマン》という意味だ――四は、とある世界で死を意味し、郎は男を意味する。つまり、この大蛇森幽明の一部であるということだ。わかるか、この意味が」
何度も「どういう意味だ」と言うのは「物語的」には気が引ける。
いっそ言わないでおこう。
「子は親に勝てないという意味だ」
僕の思考を無視するように話を進める大蛇森幽明。
「そう、たとえ『滅びる世界の神』だとしても、キミたちは『親』に勝つことはできない」
大蛇森幽明は無限に視線を向けた。
「『無限』の由来は単純だ。宇宙には膨大なエネルギーが存在する。だから『無限』。以上だ」
適当だなあと僕は思った。
適当な由来を聞いて無限は「ムスッ」としている。
みずみずしい白い肌が赤く染まる。
その顔に僕は改めて「かわいい」と思った。
ちょっとした表情なのに「かわいい」と思えるのは、無限が僕のためにつくられたロボットだからだろう。
洗脳されてしまっているのだ。
だけど、その感情は本物なのだ。
大切にしたい僕の一部――。
「――要するにだ」
大蛇森幽明は「結論」を言おうとする。
「この大蛇森幽明の言いたいことは、キミたちの因子である『生』と『死』の由来が『俺』によって、もたらされたということなのだよ」
それはわかっている。
しつこいくらいに。
いや、むしろ「彼」はしつこすぎる。
「この大蛇森幽明は御子柴四郎と無限の『親』という属性を持っている。『生』と『死』の属性を持つ神をキミたちは知っているか?」
「由来とかどうでもいいので話を進めてはもらえないでしょうか?」
無限が話を切り出した。
「『自分語り』がウザいのですよ。どっちみちわたしたちは戦って『ふたり』か『ひとり』のどちらかが消滅する運命にある。巻きでお願いしますよ」
たぶん、彼女はアレだ。
自分の由来の適当さに怒っているのだろう。
なんだか僕も飽きてきた――。
「――『ウロボロス』という尾を飲み込むヘビのような神を知っているか? 『死と再生の神』という総称を知っているか? 『幽明境《ゆうめいさかい》を異《こと》にする』というコトワザを知っているか?」
どうでもよかった。巻きでお願いします。
「そうか。そうだな。キミたちは、あらゆる世界に複数存在するウロボロスの一柱《ひとはしら》である大蛇森幽明の御子であった。『自分語り』をしすぎてしまったようだ。……名残惜しかったのかもしれない。だが、反省はしない」
一柱《ひとはしら》は「神がひとつ」という意味だが、反省して。
「さあ、戦おう。概念的存在――人知を超えた存在――として神化したキミたちにふさわしい場所を用意してやる」