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やがて王国を追放される貴族の僕の英雄物語 第22話 僕は帝国の第一皇女と剣闘士競技大会の決勝戦をおこなう

  *

 試合後、控室に戻るとメイとソフィアが出迎えてくれた。

「お疲れ様でした、ご主人様!」

 満面の笑みを浮かべる彼女を見て癒されているとソフィアも口を開いた。

「お見事な戦いぶりでした」

 そんな彼女に対して頷き返すと二人に尋ねた。

「ありがとう。それで、僕の戦いはどうだった?」

 その問いに二人は顔を見合わせると揃って笑顔を浮かべると声を揃えて答えてくれた。

『かっこよかったです!』

 それを聞いてホッとした僕は思わず笑みを漏らした。

「二人とも本当にありがとう」

 そんなやり取りをしているところに係員の男性がやって来て話しかけてきた。

「おめでとうございます! 次の試合が始まりますので、準備をお願いします!」

 そう言われて時間を確認したところ、いつの間にか午後になっていたらしい。

 そのことを理解した僕は急いで準備を整えると闘技場に向かった。

  *

 二回戦も無事に勝利を収め、そこから決勝戦に至るまで、勝ち進むことができた。

 三回戦以降はさすがに苦戦する場面もあったが、それも経験を積むことができたことで対処できるようになったのだ。

 そんなこんなで迎える決勝戦だが、ここまで勝ち上がってきただけあって相手はかなりの実力者であることは間違いないだろう。

 そんなことを考えているうちに試合の時間が近づいてきたので気持ちを切り替えることにした。

 もうここまで来てしまった以上、今さら引き返すことはできない。

 そう考えながら相手が出てくるのを待っていると、ついにその姿が現れたのだが、そこで目にしたものは信じられないものだった。

 何と相手の選手は、美しい容姿をした少女だったのである。

(どうして彼女がここに……?)

 そう思う一方でなぜか既視感のようなものを感じていたが、それが何なのかわからないまま開始の合図が出たところで一気に距離を詰めようとする。

 すると彼女は笑みを浮かべた後で言った。

「まさか君がここまで来るとは思わなかったけど、こうなった以上は仕方ないわね。あたしがお相手するよ。でも、残念ね! あたしが勝つから!!」

 そう言うと同時に剣を振り下ろしてきた彼女だったが、その動きはあまりにも遅く感じられたために難なく躱すことに成功すると反撃に転じる。

「なっ!?」

 僕の動きに驚いている様子だったが構わず攻撃を繰り出した結果、防戦一方となった彼女は次第に追い詰められていった。

(このまま押し切れば勝てる……!)

 そう思って最後の一撃を加えようとしたその時、突然目の前から姿を消した彼女に驚愕していると背中に衝撃が走った。

 どうやら背後に回り込まれていたらしい。

 そのことに気が付かなかった僕は勢いよく吹き飛ばされてしまい壁に激突する。

「ぐっ……!」

 痛みに耐えながら何とか立ち上がると目の前には既に剣を振り上げている彼女の姿があった。

「――これで終わりね」

 そう言いながら笑みを浮かべる彼女の姿を目にした次の瞬間、振り降ろされた刃が僕に襲い掛かった。

(こんなところで、やられるわけにはいかない……!!)

 そう思った瞬間、頭の中で何かが弾けたような感覚がした直後、体が勝手に動いて斬撃を避けていたのだが、さらに驚くべきことが起こった。

 それはまるで時間の流れが緩やかになったかのように感じたことだった。

 そして気が付いた時には彼女の背後へと移動していたのだ。

「え……?」

 突然のことに戸惑いを隠しきれない様子の彼女は呆然と立ち尽くしていた。

 そんな隙を見逃すはずもなく攻撃を仕掛けると咄嗟に反応した彼女はギリギリのところで受け止めたものの、そのまま僕が押し倒す。

 すると、そんな彼女と目が合った瞬間、我に返ったように叫んだ。

「や、やめ、やめて! ごめんなさい! あたしの負けでいいから! 降参するから!!」

 それを聞いてハッとした僕はすぐに攻撃の手を止めると同時に自分が何をしたのか理解した。

(もしかして今のは……)

 そこで一つの可能性を思い浮かべたが今はそれを考えている場合ではないと思い直すと急いで立ち上がり手を差し伸べながら言った。

「――大丈夫でしたか?」

 そう問いかけると立ち上がった彼女は僕の顔を見つめたまま黙り込んでしまった。

(やっぱりどこか怪我をしているのだろうか……?)

 そう思った僕は再び声をかけようとしたが、それよりも先に口を開いたのは彼女だった。

「あ、ありがとう……」

 恥ずかしそうに頬を赤らめながらそう言った彼女の顔を見た瞬間、鼓動が高鳴るのを感じた。

(何だ……これは……?)

 今まで経験したことのない感覚に戸惑っていると今度は彼女の方から話しかけてきた。

「ねえ、一つ聞きたいんだけど、さっきあたしの動きが見えていたの?」

 その問いに正直に答えるべきか迷った末に答えた。

「……ええ、見えました」

 それを聞いた彼女は一瞬、嬉しそうな表情を浮かべた後で続けた。

「それなら話は早いわね。あなたに頼みがあるのだけど聞いてくれないかしら?」

 その申し出を聞いた僕は即座に聞き返した。

「何でしょうか……?」

 それに対して彼女は真剣な表情を浮かべて話し始めた。

「実はあたしはオータム帝国の第一皇女なのよ。つまり、あたしの命令には逆らえないってことよ」

 その言葉に驚いたが冷静に考えてみると納得できる部分もあった。

 何せ、あんな戦いぶりを見れば只者ではないことは明らかだったからだ――戦いの最後の彼女は情けなかったけどね。

 それに、このオータム帝国では女性が実権を握っているということも知っていたため、皇族であれば尚更だと言えるだろう。

 そんなことを考えていると彼女が話を続けてきた。

「それで本題なんだけど、あたしとパーティーを組んでほしいの」

「……えっ?」

 思わず聞き返してしまうほどの予想外の提案に戸惑った。

(この人は一体何を考えているんだ……?)

 そう思いつつも断る理由もないことから承諾することにした。

「――わかりました。そういうことなら喜んでお受けします」

 すると彼女は笑みを浮かべて言った。

「よかった! それじゃあ早速だけど大会が終わったら冒険者ギルドに向かいましょう!」

 そう言って歩き出した彼女を慌てて追いかけると隣に並んで歩きながら尋ねた。

「そういえば、まだ名前を聞いていませんでしたよね?」

「そうだった……忘れていたわ。あたしの名前はバーシア・ゲン・オータムよ。よろしくね」

「こちらこそ、よろしくお願いします。ちなみに僕はゴーシュ・ジーン・サマーと言います。僕のことはゴーシュと呼んでください」

「わかったわ、ゴーシュ君」

 こうして自己紹介を終えた僕たちは審判の声が響き渡るのを確認する。

「勝者、ゴーシュ・ジーン・サマー! 今回の剣闘士競技大会を制したのは、スプリング王国を追放された貴族の子、ゴーシュ・ジーン・サマーだ!! これにより今回の戦いが終わり、優勝者が決まった! それでは、これより表彰式に移る!!」

 その言葉と同時に歓声が巻き起こり、ようやく長い一日が終わったことを実感しながら控室に戻るとメイとソフィアが出迎えてくれた。

「ご主人様、おめでとうございます!」

「きっと勝つと信じてました!」

 笑顔で祝福してくれる二人に対して僕は笑みを浮かべながら言った。

「メイ、ソフィア、ありがとう!」

 それからしばらく三人で談笑していたが不意にソフィアが言った。

「それにしても驚きましたよ」

 その言葉の意味がわからず首を傾げると続けて彼女言った。

「まさか、あの対戦相手の女性までお仲間になるとは思いませんでしたので……」

「ああ、確かにそうだね……」

 言われてみればその通りだと思った。

 なぜならば僕と戦っていた相手が少女だったからである。

 しかも彼女はかなりの実力者だと思われる上に、とても綺麗な容姿をしていたこともあって観客の中には見惚れている男性も多かったはずだ。

 そんなことを考えていた僕だったが、あることを思い出してハッとして尋ねた。

「――そうだ! そういえば、この大会、優勝すれば願いを一つ叶えてくれるって……!」

「……そうですね」

 目の前には勇者と魔王について……そして、今回の剣闘士競技大会の参加を勧めた受付の女性がいた。

「優勝、おめでとうございます。あなたなら成し遂げると信じていました」

「ありがとうございます!」

 お礼を言ってから改めて尋ねようとしたところで先に彼女が口を開いた。

「それで……どういった願いを叶えたいのですか?」

 そう尋ねられたことで僕は答えようとする。

「それは……――」

 ――願いは一つしか叶えられない。

 だから、僕の出すべき答えは……――。

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