田舎の少年と都会の少女(短編小説)
*
俺は田舎が嫌いだ。
なにもない。
なにもなさ過ぎて飽き飽きしている。
だから今、都会の町へ来ているのである。
都会の、とあるバス停までやってきた。
そのときに彼女と出会った。
彼女は不良のような風貌をしている。
いわゆるギャルというやつかも。
俺は彼女が気になっている。
だから声をかけたんだ。
「一緒にお茶でも飲みませんか?」と。
「俺は田舎が嫌いなんだ。年中、人も町もジメジメしているし、コミュニティが狭い。ああいう町で骨をうずめるなんて俺は嫌だね」
「あーしは逆に田舎に憧れるな。この都会みたいに水が汚いこともないし、人も優しそう」
「そうかな。俺のところでは結構いじめとかあるんだ。俺は、なんとかいじめは受けないように空気読んでるけどさ」
「でも、あーしは、そんな田舎も好きっていうかさ一回、キミのところへ行ってみたい気持ちもあるんだ。いいかな?」
まあ、彼女のことが気になるから声をかけたわけで……反対する理由がない。
「わかったよ。一緒に行こう」
「よしっ!」
俺と彼女は、あの田舎へ向かうことになった。
*
やっぱり俺は精神的にも肉体的にもジメジメする場所は嫌いだ。
「ほら、なにもないでしょ?」
「でも、あーしは好きだな。骨うずめてー」
「骨うずめてーって言ってる人初めて見た」
「あーしがギャルになった理由ってさ、別の世界に対する憧れが強かったからなんだよね。日常からの脱却っていうかさ。違う自分に変わりたいっていう思いが強かったんだよね。だから都会より田舎に憧れちゃうんだよね」
「ふうん、そっか」
俺もそんなところがあるにはある。
俺は彼女とは逆に田舎への脱却が憧れとしてある。
だから彼女と同じ思いがあるといってもいいだろう。
「俺たちって似てるね」
「そうかもね」
俺と彼女は見つめあう。
この田舎のとある道で。
「でも、俺たちは『逆』なんだろうな」
「そうだね」
「俺は都会に憧れがあるけど、キミは田舎に憧れがあるわけだ」
「うん。この空気が好きだな」
「でも、俺はキミのことが気になっている。だから今日、声をかけたわけだけど」
「そんな感じはあるね」
「俺は、どうしてキミが不良になったのか知りたいな。やっぱり俺と違って――」
「――あーしは都会が嫌いなの。高校も田舎のとこにしたかったんだけど、親に反対されて
ね。だから、いつの間にかギャルになっていたってわけ」
「要は、そのストレスで精神がすさんで、そうなったというわけか」
「そだねー」
「でも、ここの田舎は都会からでも近いし、俺のところには、いつでも来ていいよ」
「なんで、そんな話になるかな?」
「気づいているだろ?俺はキミのことが、す……」
「……す?」
「……こっぱずかしいから、今は言えない」
「好きなんでしょ?」
「うっ……」
バレていた。
そりゃ「一緒にお茶でも飲みませんか?」と言ったんだ。
ナンパだよな。
「そりゃあ、あーしはかわいいから一目ぼれしたっておかしくないわよね」
「自分で言うんだ」
「荒れてギャルをやるくらいの人間だもんね。ナルシストな部分はあるよ」
「そっか」
「『一緒にお茶でも飲みませんか?』って言う人間も結構ナルシストだと思うけどね」
「そうかもな。やっぱり似てるな、俺たち」
「そだね」
「じゃあ、付き合う?」
「よいよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
俺は都会に憧れ、都会へ行き、彼女は田舎に憧れ、田舎へ来た。
田舎の少年と都会の少女、憧れる部分――田舎と都会は同じだったというわけだ。
それが人間にも当てはまった、というところか。
俺たちの人生は、これからも続くといいな。
そう思う。