【18歳以上向け?】無限の感覚 第2話
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このまま物語を続けてしまうと「僕の正体がなんなのか」わからなくなるだろう。
だから、僕について説明させてくれ。
「突然の自分語り」とは思わないで聞いてほしい。
あくまで主人公は「僕」なのだから。
僕の名前は御子柴《みこしば》四郎《しろう》。
「痛覚がない」こと以外は「普通のニンゲン」だと思う。
痛覚がないからか、よく学校の人たちによって「サンドバッグ」扱いされていた。
言ってしまえば暴力を振るわれる「いじめられっ子」だったのだ。
そんなところ以外は普通のニンゲンだった僕にとって、無限が言った「この世界に必要な存在」という意味がピンとこない。
一体どういう意味なのだろう……。
自分語りはここまでにさせてもらう。
話変わって、無限がつくった妄想の箱の説明をさせてもらう。
あのビックリアイテムは、僕にもつくれるみたいだ。
――現在、僕たちは二人きりで僕の部屋にいる。
無限が僕に妄想の箱の作成講座を行っているところなのだ。
「妄想の箱、作成《さくせい》」
僕がその言葉を唱えると、透明な箱が現れる。
無限にしかできないと思っていたことが僕にもできたのだ。
「……妄想の箱『○○』、アクティベート」
「……妄想の箱~」の「……」の中で言っているのは、「箱の中身をどんな形にして、どんな力を使って作成するのか」というプログラミング言語みたいなもの――要するにファンタジー世界での「呪文」――を省略したものだ。だが、その説明は「この物語」において必要ないので割愛させてもらう。
『○○』は作成元の物体名だ。「呪文」が正しければ、その物体が作成される。
「アクティベート」は「アクティブ化する」という意味だが、詳しいことは割愛。
「妄想の箱、開錠《かいじょう》」
「開錠《かいじょう》」とは、妄想の箱の電子的な暗号を解除するキーワードのことだ。これを言わないと妄想の箱は開かない。
これらの「呪文」を唱え終えた僕は、妄想の箱から現れたアイテムを確認する。
ちなみに今、僕は『○○』の部分を『ハート』と唱えた。
僕の『ハート』のイメージは「精神」にかかわるものだ。
「よし、できた。『心《こころ》の剣《けん》』、完成《かんせい》っ!」
「おー、よくできましたね。自身の心……つまり、精神の状態によって形状・性質を変えることができる剣ですか。さすがです、四郎さん」
「たいしたことじゃないよ。たいしたことだけど」
「どっちですか……」
無限は僕にツッコミを入れるほど打ち解け始めていた。
最初の宇宙人っぽいイメージは、いつの間にかなくなっていた。
それもこれも僕が彼女とセックスし始めて仲良くなったからだろう。
僕たちニンゲンの世界では、セックスから始まるニンゲン関係は長くは続かないとネットでよく見るけど、僕たちは違う。
だって、僕たちは――いや、少なくとも僕は……彼女とのセックスに飽きていないのだから。
「こんなふうに現実ではありえない武器を作成することもできるのか」
「ええ。ディリュージョン・ボックスは『妄想《もうそう》の箱《はこ》』という意味ですから。頭の中の妄想を具現化する箱であり、この世界を変革するシステムみたいなものです」
「どうして僕に『この世界を変革するシステム』が使えるんだ?」
「言ったでしょう。あなたは特別だって」
「僕は神みたいな存在なのか?」
「そうとも言えるし、そうとも言えない。あなたの力は、まだ覚醒していない。だけど、わたしとセックスをすることで、この世界を変えることができるでしょう」
「これからも僕は、キミとセックスをしたいと思っている。でも、この世界を変えようとも思わない。だって僕は、キミの存在だけで十分、満足しているのだから」
「いや、あなたは求めている。『この世界を変えたい』と誰よりも願っている。まだ、あなたは満足していない」
「どうして、わかるんだ? 僕の感情が……」
「わかりますよ。だって、わたしは『世界』ですから」
意味がわからない。だけど彼女は、それが真実であるように言う。まるで無限は真実を知っている確信があるようだ。
「この世界の謎、知りたくないですか?」
僕はコクリとうなずく。
「ならば、言いましょう。この世界のニンゲンは、宇宙という妄想の箱に閉じ込められた妄想のアイテムなのです」
「それが、この世界の真実なのか?」
「いいえ、違います」
「違うのかよっ!」
僕は「はあ」と嘆息する。
「で、なにが言いたいんだ」
「いずれ、わかります」
「さっきの『宇宙という妄想の箱』の話は?」
「気にしないでください。『たとえ話』ですから」