やがて王国を追放される貴族の僕の英雄物語 第29話 第一皇女は僕とデートしたい
*
結局、お兄様の真意はわかったけど、バーシアさんの目的がわからない。
バーシアさんがお兄様と一緒にいる目的だ。
どうしてお兄様をオータム城で暮らさせているのだろうか……?
そんなことを考えながら廊下を歩いていると不意に彼女が声をかけてきた。
「ゴーシュ君、早速ですけど、護衛任務をお願いしたいです」
突然のことに戸惑いながらも僕は答えた。
「わかりました」
彼女は嬉しそうに微笑みつつ言った。
「ありがとうございます! それでは、今から行きましょうか!」
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そうしてやってきました帝都の街! 相変わらず人通りが多いなあ……。
そんなことを思いながら隣を歩いているバーシアさんに話しかけることにした。
「ところで、どこに向かっているのですか?」
その問いかけに彼女は笑顔で答えた。
「そうですねえ……とりあえずは服屋に向かおうと思っているのですが……」
(服屋?)
正直、意外なチョイスだと思ったが口には出さなかった。
なぜなら、このタイミングで言うということは何か意味があると思ったからだ。
案の定、僕の考えを見透かしたように彼女が話しかけてきた。
「ゴーシュ君、一応言っておきますけど、別に深い意味はありませんからね?」
その発言を受けて思わず苦笑いしてしまった後で僕は言った。
「わかっていますよ」
それを聞いた彼女も笑いながら返してきた。
「それならよかったです!」
そんなやり取りの後、僕らは目的地である洋服店へとやってきた。
中に入ってみるとそこにはたくさんの衣服が置かれていた。
その光景を眺めながら僕がポツリと呟いた。
「本当にいろんな種類があるんだな……」
そんな僕の反応を見た彼女はクスリと笑いつつ言った。
「確かに種類は多いですが、選ぶのはそれほど難しくないと思いますよ?」
「そうなのですか?」
そう問いかけてみると彼女は頷いた後で説明してくれた。
「はい、例えばこれなんかどうですか?」
そう言って見せてきたのは女性用のドレスだった。
それを見た僕は率直な感想を述べた。
「綺麗ですね」
「そうでしょう、そうでしょう!」
なぜか得意げな表情を浮かべている彼女に向かって僕は続けた。
「でも、これは少し派手じゃないですか?」
しかし、そんな彼女の発言に耳を貸さずにさらに話を続けるのだった。
「それにこっちのスカートとかも可愛いと思いませんか?」
そう言って見せてきたのはワンピースタイプのものだった。
しかもご丁寧にフリルまでついているではないか!?
そんな光景を目にした僕は若干引き気味になりながら答えるのだった。
「……そ、そうですね……」
そんな僕に対してバーシアさんは笑顔のまま言ってきた。
「ゴーシュ君はどれが一番いいと思いますか?」
「えっ!?」
(一番って言われても困るんだよなあ……)
そう思いながらもなんとか答えを絞り出した。
「やっぱりシンプルなのが一番だと思いますね」
すると彼女は不満そうに頬を膨らませながら反論してきた。
「もう、ゴーシュ君ったらわかっていないんですから……」
「……すみません」
思わず謝ってしまった僕に対して彼女が言った。
「いいですか、ゴーシュ君? 女の子にとってオシャレはとっても大事なことなんですよ!」
「はあ……」
(まあ、そういう考え方もあるのかもしれないけどさ……そもそも、なんで僕がバーシアさんの服の買い物に付き合わされているんだろう……?)
そんなことを考えていた時だった。
突然、彼女の口から衝撃的な言葉が飛び出してきたのだ。
「というわけで、ゴーシュ君に選んでもらいましょうか!」
「……はっ!?」
(いやいやいやいやいや!! なんでそうなるのさ!?)
その発言を耳にして驚いている僕に構わずに彼女は続ける。
「だって、せっかくですから誰かに見立ててもらいたいですし!」
その言葉を聞いた瞬間、ある疑問が浮かんだので彼女に問いかけた。
「あの、一つ聞いてもいいですか?」
「なんですか?」
首を傾げながら尋ねてくる彼女に向けて僕は言った。
「どうしてわざわざ僕を誘ったのですか?」
「そんなの決まってるじゃないですか?」再び首を傾げると彼女は当然のように答えた。
「あたしがゴーシュ君とデートしたかったからです!」
その瞬間、顔が熱くなっていくのを感じた。
(いや、待ってよ……こんな綺麗な人にそんなこと言われたら誰だって照れてしまうでしょ……!)
そんなことを考えているうちにも彼女の顔はどんどん近づいてきていた。
「さあ、早く選びましょう!」
そう言いながら微笑む彼女から視線を逸らしながら僕は思った。
(絶対に楽しんでいるよな、この人……!!)
*
それからしばらく経った後、ようやくバーシアさんが納得のいく一着を決めることができたらしい。
それを確認した僕はホッと胸を撫で下ろすと同時に心の中で呟いた。
(まさか、ここまで時間がかかるとは思わなかったな……)
というのも、最初は何着か候補があったのだが、最終的には二択にまで絞られてしまったのだ。
その結果、どちらにするか悩んでいた彼女を説得することになってしまったのだ。
ちなみに最終的に選ばれたのは白のブラウスと赤茶色のロングスカートだった。
それを試着した彼女はとても嬉しそうな様子で僕に話しかけてきた。
「どうでしょうか?」
その問いかけに僕は素直に答えることにした。
「よく似合っていますし、かわいいと思いますよ」
すると彼女は満面の笑みを浮かべながらお礼を言った。
「ありがとうございます! それじゃあ、次はゴーシュ君の番ですね!」
(ん?)
一瞬、何を言っているのか理解できなかったがすぐに理解した。
つまり僕の分を選んでくれるということなのだろう……って、ちょっと待ってよ!?
それっておかしくないかな!?
そう思いつつも尋ねる前に彼女が口を開いた。
「それで、どんな服がいいですか?」
そう尋ねてきた彼女だったが、正直なところ何を選べばいいのかわからなかったため正直に答えることにした。
「えっと、特に希望はないのですが……」
それを聞いた途端、呆れたような表情を浮かべた後で彼女が提案してきた。
「でしたら、あたしに任せてもらってもいいでしょうか?」
その提案を受けた僕は頷くと返事をするのだった。
「いえ、僕の分はいいですよ! 悪いですし!」
しかし、そんな言葉など聞く耳持たないとばかりに強引に押し切られてしまったので大人しく従うことにするのだった。
*
しばらくして着替えを終えた僕はカーテンを開けた後にバーシアさんに声をかける。
「バーシアさん、終わりましたよ」
すると彼女は微笑みながら声をかけてきた。
「わかりました!」
そして、ゆっくりと近づいてきたかと思うと僕の姿をジッと見つめてから一言だけ告げた。
「うん、バッチリです!」
その言葉に若干の気恥ずかしさを覚えながらも僕は尋ねた。
「本当ですか……?」
それに対して大きく頷いてみせた後で彼女は答えてくれた。
「ええ、もちろんです!」
それを聞いて安心した僕はお礼の言葉を述べることにした。
「ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして!」
ニコニコと笑っている彼女を見つめながら僕も笑顔で返す。
「ところで、この後はどうしますか?」
その問いかけに彼女は少し考えた後で答えた。
「そうですねえ……とりあえずカフェでも行きましょうか?」
「いいですね!」
そんなやり取りの後で僕たちは歩き出す。
――まだ真相を話す場面ではないか。
バーシア・ゲン・オータム……君の考えが読めない。
カフェで、お兄様をかくまう理由を聞けたらいいのだけど……どうして、お兄様を保護しているのか、その目的をちゃんと彼女から聞かなくてはいけないのだ……絶対に。