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やがて王国を追放される貴族の僕の英雄物語 第35話 僕とメイドと女神様は王国へ向かう

  *

 翌朝になった。

 僕は、お父様とお母様のことに対して考えを巡らせていたのだが、そんな僕に対してメイたちが声をかけてきた。

「あの、ゴーシュ様!」

「ん? どうしたんだい?」

 振り返ってみるとメイだけではなくソフィアやドロワットさんたちもいた。

 そこで改めて彼女に向かって質問を投げかけてみた。

「どうしたの、みんなして集まってきて……」

 するとメイが代表するかのように一歩前に出て話しかけてきた。

「ゴーシュ様にお願いがあるんです!」

 彼女の言葉に僕は首を傾げた後で聞き返した。

「お願い……?」

 それに対して彼女が頷いてみせたあとで言った。

「はい! わたしたちも同行させてもらえないでしょうか!?」

 彼女の言葉を耳にした途端、僕は戸惑ってしまった。

(いや……気持ちは嬉しいんだけど……)

 正直なところ、連れて行くことはできないと思っていたからだ。

(彼女たちは元々、王国の人間だし、何よりも危険な目に遭う可能性の方が高いからな……)

 そう思った僕はすぐに返事をすることができなかったのだが――。

「……お願いします……!」

 最初に頭を下げたのは意外にもドロワットさんだった。

 それに続くようにバーシアさんとソフィアが続いた。

 それを見たメイが再び頭を下げながら言った。

「ゴーシュ様が大変な時に何もできないなんて嫌なんです! だから、どうか一緒に行かせてください!」

 その言葉を受けてドロワットさんが顔を上げた後で僕を見つめながら尋ねてきた。

「ゴーシュ様は、わたくしたちのことを足手まといだとお思いですか?」

 その問いかけに首を横に振ってから答えた。

「そんなこと思っていませんよ」

 それからさらに続けてこう言った。

「むしろ逆ですよ」

 僕の発言に三人は驚いた様子を見せたあとで顔を見合わせていた。

 そんな三人に向けて僕は続けて言った。

「――だからこそ連れていけないんですよ」

「……え? なんでですか? もしかしてあたしたちが弱いからですか?」

 不安げな様子で尋ねてくる彼女に首を振って否定してから説明した。

「違うよ、君たちが強いことは知っています。だけど今回は危険すぎるんだよ」

「……どういうことですか?」

 首を傾げながら問いかけてくるメイに対して僕は詳しい説明をすることにした。

「今回、僕が王国の地下牢へ向かうことで、また新たな問題が起こるかもしれないんだ」

「新しい問題……?」

 首をかしげるメイに対して僕は頷きつつ説明を続けた。

「そう、もし仮にそうなった場合、君やドロワットさんの身に危険が及ぶ可能性があるってことだよ」

 そこまで言うとドロワットさんが口を開いた。

「ゴーシュ様は、わたくしたちの身を案じてくださっているのですね……」

 そんな彼女に続いてバーシアさんも話しかけてきた。

「ゴーシュ君って、結構お堅いのね? もっと楽観的に考えた方がいいんじゃないかしら?」

「帝国の第一皇女が、そんなことを言うもんじゃありませんよ」

 呆れ気味に告げると彼女は楽しそうに笑った後で言った。

「それもそうね♪」

 そのやりとりを見ていたメイは、まだ納得していない様子だったので更に詳しく説明することにした。

「それに今回の問題はおそらく一筋縄ではいかないと思うんだ」

「……そうなんですか?」

 再び首を傾げるメイに頷いてから話を続けた。

「――うん、間違いなくね」

 その一言で何かを察したのか、メイたちはそれ以上、何も言ってこなかった。

(さて……どうしたものかな……)

 これからのことを思うと少しだけ憂鬱な気分になってしまったが――。

(今は悩んでいても仕方がないか……)

 そう思い直した僕は気持ちを切り替えることにした。

(とにかく今は目の前のことに集中しないとな……)

 気持ちを切り替えたところで僕は彼女たちに言った。

「とりあえず、今は慎重に考えましょう。でないと、せっかく帝国で築いた地位がなくなるかもしれませんから」

「わかりました!」

 元気よく答えるメイに微笑みかけてから僕は話を終わらせることにするのだった。

  *

 出発の準備を終えたところで屋敷を出ようとしたところでドロワットさんに呼び止められた。

「ゴーシュ様」

 振り返るとそこには真剣な表情を浮かべたドロワットさんの姿があった。

「どうされましたか?」

「一つだけお聞きしたいことがあるのですがよろしいですか?」

「構いませんよ?」

 そう伝えるとドロワットさんは小さく深呼吸をした後に聞いてきた。

「ゴーシュ様は、わたくしのような女は嫌いですか?」

 突然のことに驚いてしまったものの僕は正直に答えた。

「いえ、そんなことはありませんよ」

 僕の答えを聞いたドロワットさんは嬉しそうに微笑んでから言った。

「ありがとうございます。それでは……お気をつけて……いってらっしゃいませ」

 そう言って頭を下げる彼女に見送られる形で僕たちは出発した。

 目的地である王国までは馬車を使って数日かかる距離だ。

 そんなことを考えていると隣に座っていたソフィアが話しかけてきた。

「それにしてもゴーシュ様は、罪作りなお方ですわね?」

 いきなりそんなことを言われてしまい戸惑っていると彼女はさらに続けた。

「まさか王国の公爵貴族の元許嫁だけでなく、帝国の第一皇女までも虜にするだなんて、なかなかできることではありませんわよ?」

 悪戯っぽく微笑む彼女に対して僕は反論するように言った。

「別にそんなつもりはないんですけどね……」

 すると彼女はクスクスと笑った後でこんなことを言ってきた。

「あら? そうなの? でも、まあ……これは女としての勘ですけど――いずれ貴方は世界で一番愛される男になると思いますよ?」

 彼女の言葉を聞いた瞬間、僕は一瞬だけ固まってしまったが――すぐに我に返ってこう返した。

「それは光栄なことですね」

 しかし、そんな言葉とは裏腹に僕の心は複雑な心境だった。

(そんなこと、望んでいないんだけどな……)

 そんなことを考えつつも僕は気持ちを切り替えていこうとした。

 結局、王国の地下牢へ向かうメンバーは僕にメイとソフィアに加えた三人となった。

 メイは僕のお父様とお母様が地下牢にいることを自分の責任として感じているようで、どうしても今回の旅路についていきたいと一点張りだった。

 僕は、そんな彼女の想いを結局は受け入れてしまい、そういうことなら、とソフィアも女神様であるから旅路を見守る責務があるとかで最終的に三人で王国へ向かうことになったのだ。

 そして現在、僕たちを乗せた馬車は王国へ向けて移動していた。

(これでよかったのかな……?)

 そんなことを考えながら窓の外を眺めていると不意に声をかけられた。

「……ゴーシュ様?」

 声をかけてきたのは隣に座るメイだったが、その表情は少し暗いものだった。

 そんな彼女の様子を見て察した僕は優しく声をかけた。

「どうしたの?」

 問いかけると彼女は躊躇いがちに口を開いた。

「――あの、やっぱりわたしなんかが一緒に来てよかったんですか?」

「なんだい、今さら……」

 どうやら自分のせいで迷惑がかかってしまうのではないかと心配しているようだ。

 そんな彼女に僕は微笑みながら答えた。

「……もちろんだよ」

 だが、それでも彼女の顔色は優れなかった。

 そこで僕は彼女にこんな提案をした。

「ねえ、メイ……ちょっといいかな?」

「はい? なんでしょうか?」

 不思議そうに首をかしげる彼女に対して僕はある質問をした。

「君がいるから、僕は、がんばれるんだ。だから君がいなければ意味がないんだよ? 君は違うのかい?」

 僕の問いかけに彼女は少し考えてからゆっくりと首を横に振った。

「――いいえ、わたしも同じです」

 それを聞いた僕は笑顔を浮かべて言った。

「それなら、それで十分じゃないかな?」

「え……?」

 きょとんとしている彼女に向かって僕はさらに言葉を続けた。

「確かに僕は、お父様とお母様を助けたい気持ちはあるけど、それ以上に僕は君に無事でいてほしいと思っているんだ」

「……どうしてですか?」

 戸惑いながら尋ねてくるメイに僕ははっきりと告げた。

「だって君のことを愛しているからね」

 すると彼女は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。

 そんな彼女の頭を撫でながら改めて伝えた。

「だから、君のためなら何でもできる気がするんだ」

 するとメイは上目遣いで僕のことを見ながら小さな声で呟いた。

「……ずるいですよ……」

 彼女が何を言いたいのかはわかっていたが敢えて気づかないふりをしていると――。

「そういうところも好きなんですけど……」

 ……と、彼女が呟くのが聞こえた。

(やれやれ……本当に、かわいい子だな……)

 思わず頬が緩んでしまいそうになるのを必死に堪えているとソフィアの声が聞こえてきた。

「ゴーシュ様……本当に罪作りなお方ですわね?」

 からかうような口調で言ってくる彼女に苦笑しながら言った。

「そうですかね? 自分ではよくわかりませんけど……」

 僕の言葉を聞いてソフィアは小さくため息を漏らしたあとで言った。

「もう、いいです。これ以上追及しても無駄でしょうし」

 諦めた様子の彼女を不思議に思っていると今度はメイが不満そうに頬を膨らませていた。

 その様子を見た僕はメイの頭を優しく撫でながら謝罪した。

「ごめんね、メイ、機嫌を直してよ」

 そんな僕の様子を見ていたソフィアがクスッと笑う声が聞こえたような気がしたが、きっと気のせいだろうと思うことにした。

 その後、馬車に揺られること数日が経過した頃だった。

 突然、メイが声をかけてきた。

「あの、ゴーシュ様、一つ聞いてもいいですか?」

「ん? なんだい?」

 聞き返すと彼女は少しだけ躊躇った後で質問を投げかけてきた。

「――ゴーシュ様は、その……わたしのことをどう思っていますか……?」

 不安げな表情で問いかけてくる彼女に僕は素直に答えた。

「好きだよ」

 その瞬間、彼女は耳まで真っ赤にしながら俯いてしまった。

 そんな様子を眺めていたソフィアがニヤニヤとした笑みを浮かべながら言った。

「あらあら、二人ともお熱いわね♪」

 茶化すように言う彼女に僕も苦笑いしつつ言った。

「からかわないでくださいよ……」

 するとソフィアは楽しそうな様子で言った。

「いいじゃない♪ 二人が幸せそうで何よりだわ♪」

 そう言ってから続けてこうも言った。

「あ、そうだ! この際だし、このまま結婚式を挙げちゃいなさいよ!」

 その発言を聞いて僕とメイは思わず顔を見合わせてから同時に吹き出してしまった。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ、ソフィアさん! いくらなんでも気が早すぎますよ!」

 慌てて止める僕を他所にメイも笑顔で頷いていた。

「そうですよ、まだ早いですよ」

 それから僕らは楽しそうに笑い合っていた。

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