【18歳以上向け?】無限の感覚 第4話
*
僕は生きている。
なぜだろう?
なんで僕は生かされているのだろう?
そんな疑問に意味はない。
理由がある。
それは僕が「死」の因子を持っているからだろう。
おそらく、ここは「敵」の本拠地――とある異世界転生モノで転生する前に出てくる神様の部屋みたいな場所。詳細を書くと、隅々まで真っ暗だということしかわからない。
まあ、僕がいた世界を監視していた「敵」のアジトなのだろう。
「目覚めたようだな、御子柴四郎」
相変わらず心の中をつんざくような声をしている。
だが、その声は別人のようだ。
「僕の世界」に響いたアナウンスの声は女性に近い感じだった。
男性の声? でも、ゲームに出てくるような……そう、ラスボスのような感じである。
「察しがいいな。この大蛇森《だいじゃもり》幽明《ゆうめい》が開発した無限と交わって神化した存在になったからか」
神化? 神に変化したという意味だろうか? それよりも……どうして僕の感情がわかる? 開発者の名前は大蛇森幽明? どうでもいい!
「どうでもいいとは思わないでくれよ。感情がわかるのは当たり前さ。キミは、この大蛇森幽明の遺伝子を利用して作成された『息子』だからね」
「息子? あなたの?」
「そうだよ。キミは、この大蛇森幽明のつくった世界で生を受けたというわけさ」
「僕の世界は、あなたがつくった世界なのですか?」
「そういうことなのだよ。キミは、この大蛇森幽明の操り人形だったわけ――」
――僕とは対照的な白髪の男が、目の前に現れる。
おそらく彼が大蛇森幽明なのだろう。
大蛇森幽明と名乗るラスボスっぽい白髪の男は、淡々と僕に説明する。
「妄想世界《ディリュージョニア》は、この大蛇森幽明がつくった御子柴四郎の世界さ。キミは妄想世界《ディリュージョニア》という妄想の箱に入れられた操り人形だったわけ。繰り返す。キミは操り人形。繰り返す。キミは操り人形――」
――繰り返す。キミは操り人形……という言葉に、僕は自身が「水槽の中に入れられた魚」だということに気づいた。
そして、無限が言っていた「この世界のニンゲンは、宇宙という妄想の箱に閉じ込められた妄想のアイテム」という言葉が真実だということを知った。
僕はショックを受けた――彼女がウソをついていたことに。
「僕の世界」が大蛇森幽明につくられた世界だったということも。
でも、どちらかというと僕が思うにね、アナウンサーのように繰り返している大蛇森幽明自身が操り人形のように思えるのだけど。
あえてツッコまないようにしようと思う。
「もう、キミの精神はボロボロのようだね。でも、どこか信じられないと否定する感覚でもないわけだ」
「そうみたい。僕は妄想世界《ディリュージョニア》の住人だ。要するに実験体だったというわけだ。そういえば僕以外のニンゲンは現実味がなかった。だから、そのニンゲンに好きだという感情がわかなかった。ゆえに無限がロボットなのにニンゲンらしいと思えた」
「それは当然のことだ。彼女は『世界』そのものだからな。『宇宙』でもあり『真理』でもある。そして『死』属性である御子柴四郎の対属性の『生』でもあるわけだ。だから『生』属性の因子を入れられた彼女はロボットでありながらも生き生きとニンゲンらしい」
大蛇森幽明は心を込めて言う。
「この大蛇森幽明の最高傑作というわけだ。キミと彼女は」
大蛇森幽明は「くくく」と笑う。
「この大蛇森幽明の目的は達成されたわけだ。収穫者《ハーヴェスター》による妄想世界《ディリュージョニア》のニンゲンの存在を食らうことによるエネルギー回収は完了したのだ。世界を一からつくりあげるのは苦労した。ねぎらってほしいものだ。この親である大蛇森幽明に」
「ねぎらう? どうして?」
「親孝行をしたいとは思わないのかい? キミは薄情者か」
「薄情者になった覚えはない」
「すまん。薄情者は言いすぎた。キミには強制的に親孝行してもらう」
「なにをする気なんだ?」
「キミの対属性である彼女と戦ってもらう。『最後の審判』ってわけだ」
*
「円のように丸い闘技場だな」
いつの間にか、なにも見えない真っ暗な場所からワープしたみたいだ。このバトルフィールドに。
闘技場の円の淵……の上には、仮面をかぶった観客がいる。
おそらく彼らはラスボスである大蛇森幽明の部下といったところだろう。
なんだか薄気味悪い雰囲気をまとっている。
「これから『最後の審判』を始めさせてもらいます。この監視世界《ウォッチンギア》のエネルギー問題を解決した英雄たちの戦いをね」
このアナウンスをしているのは「僕の世界」のアナウンスをしていた人ではない。
このアナウンサーは女性ではあるが「僕の世界」のアナウンサーではない。
適材適所によってアナウンスする人を変えているわけだ。
どうでもいいけど。
「『死』の因子を持つニンゲンの男――御子柴四郎VS『生』の因子を持つロボットの女――無限。最後の戦いに勝利するモノは誰でしょうか? 早速、戦いの議を始めさせてもらいましょう。現れなさい、無限」
突如、水色の髪をした彼女が現れる。
彼女はワープをしたのだ。
なぜなら彼女は「宇宙」属性を持っているから。
宇宙規模のエネルギーを自在に操ることができる「生」の塊。
その正体は言うまでもない。
僕が最初で最後のセックスした相手であるセクサロイドの無限だ。
「こんなことになってしまうなんて名残惜しいです。わたしの最愛の人」
「そもそも、どうして僕たちは戦わなきゃいけないんだ?」
「それは、わたしたちの親である大蛇森幽明に対する『親孝行』になるからでしょう。わたしは『戦え』と彼に命令されました。だから戦います」
「戦うしかないのか?」
「ええ、戦うしかないのです。それが『彼の望み』です」
彼女の水色の瞳は、決意を表明していた。
「それでは『最後の審判』を始めますっ! レディー・ゴー!」
戦いの議が始まる瞬間、僕たちは構えた。妄想の箱を作成するために。
『妄想の箱、作成《さくせい》っ!』