やがて王国を追放される貴族の僕の英雄物語 第21話 僕は魔王を倒すためのパーティーメンバーを集めるために剣闘士競技大会に出場する
*
「おはようございます、ご主人様」
「おはよう、メイ」
今日は朝からメイが起こしに来てくれた。
いつものように彼女は僕が起きると必ず僕のベッドにいる。
だけど、やっぱり、ちょっとドキドキしてしまう。
「あの、ご主人様……」
「うん?」
「その……今日も冒険者ギルドへ行くのですよね?」
「うん、今日から本格的に仲間を集める準備をするからね」
「そ、そうですか……わかりました」
なんだか、メイは浮かない顔をしている。
「どうしたの?」
「い、いえ、なんでもありません!」
明らかに何かある感じなんだけどな。
まあ、無理に聞き出す必要はないか。
*
朝食を食べ終え、身支度を済ませると、ソフィアと共に宿屋を後にした僕とメイは冒険者ギルドへと向かった。
すると昨日と同じように大勢の冒険者たちで賑わっていた。
その光景を見た僕は圧倒されてしまったが、何とか気を取り直してから受付に向かった。
そこで担当の職員に用件を伝えると奥の部屋に案内されたのである。
そこは応接室のようになっていてソファーに腰を下ろすと職員の女性が言った。
「それで、本日はどういったご用件でしょうか?」
その問いに答える形で僕が説明を始めた。
まず魔王を倒そうとしていること、そのために仲間を探していることなどを掻い摘んで話したところで本題に入った。
「実は僕たちのほかに、もう一人、同行してくれる仲間がいるのですが、一緒に登録させてもらってもいいですか?」
「ええ、構いませんよ」
それを聞いて安心した僕は隣にいるソフィアを紹介した。
「こちらの女性は僕と一緒に旅をしている仲間のソフィアといいます」
「ソフィアです。よろしくお願いします」
「よろしくお願いしますね」
それに対して笑顔で頷いた後、再び話し始めた。
「それから、もう一つお願いがあるんですが……」
「何でしょう?」
「もう一人、パーティーメンバーに加えたいのですが、もう僕たちには知り合いがいないので、どこか紹介できる場所があれば教えていただきたいのですが……」
すると彼女は少し考える素振りを見せた後で口を開いた。
「そうですね……心当たりがないわけではないのですが、少々問題がありまして……」
「問題、とは……?」
「魔王を倒すためのパーティーメンバーを揃えていると言いましたね?」
「はい、そうですが……」
「それに該当する方々なのですが、ほとんどが高ランクの冒険者の方々ばかりなんです」
「なるほど……確かに言われてみればその通りですね」
そう相槌を打つと話の続きを促した。
「それに、そういった方たちは大抵、固定の仲間を組んでいることが多いんですよ」
そう言われたことで何となく理解できたような気がした。
要するに彼らは自分たちの腕に自信があるからこそソロで活動することなく、常に仲間とともに行動しているのだろう。
そうなると魔王退治を頼むのは難しいのかもしれない。
そう思った僕は別の方法を考えることにしたのだが、ここで思いも寄らない提案をされたのである。
「そういえば……今度、帝国の闘技場で開かれる剣闘士競技大会があるのですが、優勝すれば望みのものを一つ叶えてくれるそうですよ」
その話を聞いた僕は閃くものがあった。
というのも、その優勝者が願いを叶えてくれるというのであれば戦いに参加してもらうことができるのではないかと考えたからだ。
もちろんタダではないことはわかっているし、報酬を支払う必要があることも理解しているつもりだ。だがそれでも、今の僕たちにとっては喉から手が出るほどに欲しいものなのだ。
「魔王を倒すために参加されますか?」
「はい! ゴーシュ・ジーン・サマーの名にかけて必ず優勝したいと思います!」
こうして僕たちは新たな仲間を求めて帝国の闘技場で開かれる剣闘士競技大会に参加することとなったのだった――。
*
帝国で開催される剣闘士競技大会に参加することを決めた僕は、その日から鍛錬に励んだ。
そして大会当日を迎えたわけだが、会場となる帝都へやって来た僕は驚きのあまり言葉を失ってしまった。
なぜならそこには想像を絶するほど多くの人々が集まっていて、熱気に包まれていたからである。
そんな中でも一際目立っていたのが、参加者と思われる人たちの姿だった。
屈強な肉体を持つ者、見るからに強そうな男など多種多様な人たちがいたのだが、その中でも特に目立っていたのは美しい容姿をした少女だった。
(なんて綺麗な人なんだろう……)
そう思いながら見惚れていると背後から声をかけられた。
「――どうかしましたか、ご主人様?」
振り返るとそこにいたのはメイであった。
「いや、何でもないよ」
慌てて視線を逸らしながら答えると歩き出した――。
*
ちなみに今回の大会に出場するのは僕だけで、メイとソフィアは僕の応援のために観客席から見守っている。
そんなわけで控室に向かうと案内係の男性に促されて中に入ったのだが、その瞬間、全身に鳥肌が立ち、思わず身震いしてしまった。
何故なら部屋の中はすでに異様な雰囲気に支配されていたからである。
(これが殺気ってやつなのか……?)
そんなことを思いながらも気持ちを落ち着かせようと深呼吸を繰り返していると、不意に声をかけられて顔を上げた。
「君が例の追放された貴族の子供かな? 噂では色々と聞いているよ」
声をかけてきたのは一人の青年だったが、その鋭い眼光からは只ならぬ気配を感じた。
「ええ、そうですが……」
緊張しながらも何とか返事をすると続けて彼が言った。
「よろしくな」
そう言って右手を差し出してきたので握手に応じた。
「こちらこそよろしくお願いします」
すると彼はニヤリと笑みを浮かべながら言ってきた。
「まあ、せいぜい頑張りたまえ」
その言葉を聞いた瞬間、彼のことを見下していると感じた僕は負けじと言い返した。
「ご心配なく、必ず優勝してみせますよ」
すると今度は彼も笑みを浮かべて言い返してきた。
「そうか、それは楽しみだな」
それだけ言うと彼はその場を後にしたので僕も準備に取り掛かることにした。
その後、軽く身体を解してから精神を集中させると試合の時間がやってきた。
いよいよだ……と気合を入れ直して入場口に向かって歩き始めたのだが、その時になってようやくあることに気がついた。
(あれっ!? そういえば対戦相手って誰なんだ??)
肝心なことを忘れてしまっていたことに今更ながら気づいたものの時すでに遅し。
もう既に試合開始時刻を過ぎていたので仕方なくそのまま進むことにした。
そうしてリングの上に上がったところで審判を務める男性が言った。
「これより剣闘士競技大会を開催する!!」
直後、大歓声が巻き起こったのを聞いて驚いた。
どうやら観客の数が尋常じゃないほど多いらしく、おそらく数千人以上はいるのではないだろうか。
そんなことを考えながらも対戦表を確認するとそこには確かに僕の名前があった。
それを確認した僕は改めて気合いを入れると開始の合図を待った。
やがて試合開始を告げる鐘の音が鳴り響いたと同時に相手が仕掛けてきた。
「――ッ!?」
しかし次の瞬間、目にも留まらぬ速さで懐に入ってきた相手の攻撃を咄嗟に躱した僕は距離を取った後で相手を見据えた。
(この人、強いぞ……!)
一目見てそう感じた僕は一気に畳み掛けることに決めた。
だが相手はそれを読んでいたのかすぐに距離を詰めてくると凄まじい勢いで攻撃を仕掛けてきたのだ。
「ぐっ……!」
その攻撃によって防戦一方となってしまった僕は徐々に追い詰められていった。
(このままじゃマズい……! こうなったら一か八かやってみるしかない!!)
そう決意を固めた瞬間、僕はあえて防御を解いた上で隙を作るような動作を見せた。
当然、そんな見え透いた動きに相手が引っかかるはずもなく、あっさりと反撃を受けてしまったが、それでも構わなかった。
なぜなら僕が狙っていたのはカウンターだったからだ。
その直後、鳩尾に強烈な一撃を受けた僕は意識を失いかけたが、どうにか堪えて体勢を立て直すと最後の力を振り絞るようにして渾身の突きを放った。
その一撃が見事命中した瞬間、試合終了を知らせる鐘が鳴り響いた。
「勝者、ゴーシュ・ジーン・サマー!!」
それを聞いた途端、会場中から割れんばかりの拍手が沸き起こった。
僕は立ち上がると対戦相手の元へと向かった。
そして手を差し伸べながら言った。
「いい試合でした」
すると彼は少し照れくさそうにしながら答えた。
「ああ、そうだな」
そして互いに健闘を称え合うようにして握手を交わした後、彼と別れたのだった――。
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