【18歳以上向け?】無限の感覚 第1話

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 ――これは、存在してはいけない物語の一部である――。

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「かつての僕」の家にはロボットがいた。名前は「無限《むげん》」。水色の髪をした美少女型ロボットだ。なぜ彼女が美少女の姿をしているのか、なんていう疑問はすぐに解ける。彼女はセックスするためのロボットであるセクサロイドなのだ。だから、この物語は18歳以上じゃないと体験しちゃいけないのだ。まあ、「僕は彼女とセックスした」程度の描写だから気にする必要はないとは思うけど、気にする人はブラウザバックでも「本をそっと閉じる」でもすればいいさ。だって、この物語は僕の「自己修復」のためにつくられた物語なのだから。

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 ベッドで寝ていた僕が、眠りから目覚めると……隣には美少女がいた。

「なんで、こんなにかわいい人が僕の部屋に……」

 この世界のニンゲンに焦点を当てると、異質に思える水色の髪。

 透き通るように白い肌。

 フワフワと宙に浮いているようで、宇宙人グレイの体色に近い銀色の服。

 彼女は「普通のニンゲン」でないと僕の本能が告げる。

「キミ、名前は?」

 さっきまで寝ていた彼女だったが、眠気があるという様子はなく、「パチッ」と目を覚ました。そして水色の瞳を輝かせながら言った。

「わたしは無限《むげん》。あなたとセックスをしに来ました」

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 僕は彼女とセックスした。これが僕の初夜だった。きっと彼女もそうなのだろう。「僕のためにつくられたロボット」だと、彼女が寝物語で聞かせてくれたのだ。彼女の存在理由が僕の存在理由なのだと。もちろんのことだけど、そのときの僕には理解なんてできなかったし意味もわからなかった。でも、彼女とのセックスは本当に気持ちよかった。

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 ――翌朝。

 ロボットである彼女は、僕の隣で寝ている。

 僕はベッドから起き上がり、体を起こす。

 チラッと彼女の顔を見る。

「かわいい」

 ふと本音が言葉に現れてしまう。

 だって、ホントのことだから。

 カップルの話で「セックスしたあとの彼女の寝顔はブサイクだ」と、ネット上のコミュニティサイトでよく見るが、彼女は違う。

 彼女の寝顔は、星のようにキラキラしている――現在進行形で。

 正直、僕は彼女の顔を直視できない。

 彼女の顔がひどいから見れないわけではなく、彼女の顔がすごくかわいいから見れないのだ。

 彼女は、すごく魅力的なニンゲン――いや、ロボットだ。

 僕の理想であり、彼女は、いろんな魅力的なものを詰め合わせた「宝箱」のような存在だ。

 かわいすぎて僕が本当に「交わっていい」相手なのかわからなくなる。

 まあ、彼女は「セックスをしに来ました」って、言うくらいだし……いっか。

 僕はセックスさえできればいいのだから。

 一生、彼女ができない――モテない僕が願った夢であるセックスライフが堪能できる。

 それだけでも一生分の価値がある。

 ありがとう、無限――変な名前が気になるけど。

「あなた、変なこと考えてるでしょ?」

 彼女――ロボットはそう言った。ニンゲンらしい声で。

「つまり、えっちなことを考えてるでしょ……」

 彼女は頬を染めて言った――ニンゲンらしい表情で。

 僕は彼女に応じる。

「うん。だって、キミは最高だもの。あらゆる意味で」

「どういう意味ですか?」

「キミは、まるで僕のためにつくられた存在のようだ。キミは僕の願いを叶えてくれる――僕に最高のセックスをさせてくれる――存在だと思えて仕方がない。どうして僕の部屋へ来たんだい?」

 無限は迷わずに――。

「――簡単なことですよ。わたしは、あなたのためにつくられた存在なのだから」

「やっぱり、そうなんだ」

「そうなんですよ」

「そうじゃなきゃ、僕の部屋に来ないよなあ……」

「そう、あなたは特別なのです」

 グダグダと意味のわからない会話になってきたのをさえぎるように、無限は立ち上がる――。

「――妄想の箱ディリュージョン・ボックス、作成《さくせい》」

 彼女は透明な箱を具現化させた。

「……妄想の箱ディリュージョン・ボックス『カリー・アンド・ライス』、アクティベート」

 透明な箱は、赤茶色に染色されていく。

妄想の箱ディリュージョン・ボックス、開錠《かいじょう》」

 赤茶色の箱が開く――カレーライスだ。

「食べてみてください」

 カレーライスと一緒に現れた皿と銀製のスプーンは付属品らしい。

妄想の箱ディリュージョン・ボックスは、脳内のイメージを具現化します。食材だけでなく皿などの付属品も具現化されます。あくまで素材由来の『なにからできた』ではなく、脳内意識の『頭の中にあった』というイメージを具現化するツールみたいなものです」

「いきなりビックリアイテムの説明をされても意味がわからないって」

「気にしたら負けです。さあ、食べて」

 僕はカレーライスを食べた――。

「――おいしい」

「それだけですか?」

「僕が感じるものはね」

「ふむふむ」

 無限は考えながら――。

「――では、おいしい以外の感情はないということでよろしいですか?」

「よろしいもなにもそういう意味だけど?」

「ふーん」

 ロボットのくせに生意気な口ぶりだなあ……。そう思ったとき――。

「――あなた、『からい』とは思わなかったのですか?」

 あ。

「そういえば『からい』なんて思わなかった。『からい』とは、僕以外のニンゲンが発する言葉だ。このカレーも僕以外のニンゲンが食べたら『からい』だろう」

「わたしが具現化したカレーライスは唐辛子たっぷりの激辛設定なのに?」

「うん」

 唐辛子たっぷりの激辛設定というワードにツッコミを入れないぞ……。

 これは僕の「特性」が原因なのだけど、「からい」という感覚は僕には備わっていない。

 つまり、僕には「痛覚」がない。

 辛味という感覚は痛覚によるものだから。

 昔は痛覚がないことが原因で学校の同級生に殴られたりしてた。

「あなたにとってのカレーライスは『からくない』のですね? ふふっ、これで……あなたの存在理由を確かめることができました」

 カレーライスを一口食べたくらいで大げさだなあ。

「あなたは、この世界に必要な存在なのです」

 気持ちが優しくなることを言われなかった僕にとって、今の言葉はありがたい。

「だから毎日わたしとセックスをしましょう」

 はい、喜んで。

「一日に二、三回はしましょうね」

 はいはい、ぐへへ。

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