いつまでも大切にしよう(短編小説)
*
仕事を終えた後、いつものように家路を急ぐ。
だが、その足取りは普段よりも速い。
今日は早く帰りたい理由があったからだ。
「ただいま」
玄関のドアを開けると、すぐに台所からパタパタと足音が聞こえてくる。
そしてエプロン姿の彼女が、ひょっこりと顔を出した。
「おかえりなさい! お仕事お疲れ様!」
満面の笑みを浮かべて出迎えてくれる彼女。
その笑顔がとても眩しい。
彼女の笑顔を見ただけで、仕事の疲れなど吹き飛んでしまう。
俺は靴を脱いで家に上がると、彼女をぎゅっと抱きしめた。
「えへへ……ご飯にする? お風呂にする? それとも……」
彼女は恥ずかしそうにもじもじしながら、上目遣いで見つめてくる。
もちろん、答えは決まっている。
「……君がいい」
俺がそう答えると、彼女は顔を真っ赤にした。
そして、小さな声で呟いた。
「……ばか」
俺たちはそのまま寝室に向かい、ベッドに倒れこむ。
そして、お互いの愛を確かめ合うのだった。
「ねえ、あなた。このお洋服、似合うかしら?」
そう言って妻が見せてきたのは、新品のワンピースだった。
妻はスタイルがいいので、なんでも着こなしてしまう。
だから、どんな服を着ようとも似合ってしまうのだ。
なので、わざわざ聞かなくても分かるのだが、あえて聞くということは、俺に褒めてほしいのだろう。
「ああ、よく似合ってるよ」
そう言うと、妻は嬉しそうに微笑んだ。
それからしばらく他愛のない会話をした後、妻が不意に聞いてきた。
「あなたは、私に何をしてほしい?」
突然の質問に困惑するが、素直に答えることにした。
「いつもみたいに笑っていてほしいかな」
それを聞いた妻は、一瞬きょとんとする。
しかし、すぐに笑顔になった。
「それなら、私はあなたの隣でずっと笑っているわ」
そう言った妻の顔は、今まで見た中で一番輝いて見えた。
「ねえ、あなた。何か欲しいものはある?」
夕食を食べながら、妻が尋ねてきた。
特に欲しい物はないが、強いて言うなら妻の手料理だろうか。
だが、そんなことを言えば怒られそうなので黙っておくことにする。
「そうだなあ……君の作ったものならなんでもいいよ」
すると、妻は少し考えこんだ後、再び口を開いた。
「それじゃあ、私の全てをあげるわ」
それを聞いて、思わず吹き出してしまった。
「なんで笑うのよ!?」
「ごめんごめん、君があんまり可愛いことを言うからさ」
そう言うと、妻は顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。
そんな姿も愛おしいと思ってしまうあたり、俺も相当やられているなと思う。
「でも、君さえよければ俺の全てをもらってほしい」
それを聞いた妻は、さらに顔を真っ赤にしてしまった。
やはり、可愛らしい人だ。
俺はそんな妻を、いつまでも大切にしようと心に誓うのだった。