【18歳以上向け?】無限の感覚 第11話
*
――ここは創造世界《クリエイティヴィア》の閉鎖された部屋――要するに牢屋だ。
ホントは生きていたかった。
だけど、僕は思ってもいないことを言ってしまうのだ。
「――ふははははは――」
――終わった。
どうにもならないだろうなあ。
「……汗。いや、涙か」
無意識にポロポロと流れ出す――無限に。
「無限に……か」
僕は水色の髪をした宇宙のような彼女のことを思い出す。
「キミに会いたいよ、無限」
*
「創造世界《クリエイティヴィア》管理員《ライブラリアン》識別番号《コードナンバー》『354846』……か」
――ここは創造世界《クリエイティヴィア》の概念《ルール》を管理する部屋である。
その部屋では、20人くらいのランク「上」の管理員《ライブラリアン》が「354846」について話し合いをしていた。
「354846」が「なぜ罪を犯したのか」理解するための話し合いである。
「彼は少し特殊でしたからね」
「ええ、ホントに変なやつでした」
「しかし、変人が罪を犯すのは自然の摂理というやつですかね」
「でも、彼の場合は仕方ないかもしれませんよ。彼には『感覚』がないみたいですからね。突き詰めて言うなら『常識』でしょうか」
「『彼の世界』を見てみましょう。彼の世界の名称は『無限《むげん》の感覚《かんかく》』です」
「『無限《むげん》の感覚《かんかく》』……変な名称ですね」
「はい、本当に変な名称です」
「この世界の主役は御子柴《みこしば》四郎《しろう》……あれ?」
「ああ、自身の識別番号《コードナンバー》を主役の名前に使ったってわけですね」
「いや、性格には彼がいた世界から『無限《むげん》の感覚《かんかく》』の主人公は御子柴四郎でしたよ」
「すると『354846』という識別番号《コードナンバー》になったのは、彼にまつわる『意志の力』によるもの」
「『御子柴四郎』は『354846』という意味なのか」
「自己投影ってわけですか。創造《そうぞう》家《か》なら誰もが通る道ですね」
「ええ、穴に入りたいくらいです」
ランク「上」の管理員《ライブラリアン》たちは、しばらく黙り込む。
「……かわいそうですよね」
「……はい」
「でも、彼は、どこかしか『かわいそう』と思われたかったのかもしれない。だって、これは『自分自身が活躍するための世界』ではないですか」
そうだ。
僕の感情の一部には「かわいそう」と思われたい気持ちもあった。
それと同時に「認められたい」とも思った。
そのときの僕は疲れていたんだ。
「なにもできない自分に嫌気がさしていたのでしょう。だから自分を認めてくれるヒロインが必要だった。名前は無限《むげん》ちゃん」
「名前、かわいくないですね」
「センスの塊ゼロですね」
「でも、『無限《むげん》の感覚《かんかく》』では美少女として描写されています」
「ええ、ですがロボットです」
「なぜロボットなのでしょう」
「ロボットだから、なんでも言うことを聞いてくれると思ったのではないでしょうか」
「それだ」
「ちなみに性行為がすごく気持ちいいみたいですよ」
「『宇宙』――つまり、『世界』の感覚を味わうことができるとか」
「どんな感覚なのでしょうかね」
「気になります」
気にならないでください。あの感覚は僕のものです。
「しかし……ひどいな『この利己的な世界』は」
「ええ、だから何度も試験に落ちているのです。世界にする必要は、まったくありません」
そんなことは十分わかっている。だけどカタチにしたかったのだ。
「世界をカタチにしたい。そう思う創造《そうぞう》家《か》は、ごまんといます」
「とある試験では5000を超える受験数があったとか」
「私たち非《ひ》創造《そうぞう》家《か》には信じられない環境ですね」
「……ちょっと話がそれてきましたね。話題を変えましょう。『354846』は、とある世界で発見され、管理員《ライブラリアン》として採用しました」
「その情報は、この場にいる誰もが知っています。その世界では、彼は自分の世界に閉じこもって『小説』というものを書いていました。その小説というものは創造世界《クリエイティヴィア》における『次元《じげん》世界《せかい》管理《かんり》保管庫《ほかんこ》』に保管されている情報《データ》と似たようなことが記されています。その世界では彼の小説が評価されることはありませんでしたが」
「その世界で彼は細々と孤独に存在していたということですね」
「そうです。しかし、そんな彼にも能力がありました。見えない世界を見る能力です。だから創造世界《クリエイティヴィア》に彼は存在する。彼は創造世界《クリエイティヴィア》に興味を持っていたようなので、創造世界《クリエイティヴィア》管理員《ライブラリアン》識別番号《コードナンバー》『354846』として採用したのです。もちろん、その能力を見込んで……という意味ですが。正直、孤独な彼を憐れんで採用したところが大きい」
「彼が管理員《ライブラリアン》になったときに採取された彼が感じている世界の情報《データ》がこちらです。映像化します」
いろんな色が混ざったマーブル状の絵(のようなもの)が画面に映し出される。
一見なんでもないマーブル状の絵にも見えるが、実際は「受け取る情報量が多すぎて」管理員《ライブラリアン》には理解できなかった。
その映像を見ることによって、20人の管理員《ライブラリアン》の脳ミソはオーバーヒートしそうだった。
「うっ、頭が痛い」
「映像を止めます」
「これが彼の見ている世界ですか」
「こんな状態では、まともに日常生活を送るのは無理でしょう」
「ランク『下』の管理員《ライブラリアン》が、こんな状態の彼を誹謗中傷するから病んでしまったのか」
「まったく……『下』のやつらには困ったものです」
そんなことを思われても「彼ら」は第三者。僕の罪をなくしてくれるわけなどなかった。
「……彼は死罪を望んでいるそうですね」
「それは決定事項です。行います」
「いつか情報《データ》が役立つかもしれません。そのときを待ちましょう」
ふと、ひとりの管理員《ライブラリアン》が言う――。
「――彼は自身の感覚がないから、御子柴四郎と同じように『死』の因子を持っていると思っているのかもしれないな。『転生している』とでも思い込むくらいに自身の心を追い詰めていたのか?」