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やがて王国を追放される貴族の僕の英雄物語 第34話 目を覚ました僕は屋敷で第一皇女の目的を聞く

  *

「んっ……」

 ゆっくりと目を開けると見慣れた天井が見えた。

(ここは……僕の部屋……? でも、どうして……? あの時、確か……)

 そう思った時、横から声が聞こえてきた。

「あっ……!」

 声のした方に視線を向けてみるとそこにはメイがいた。

「よかったです……目が覚めて……本当に心配したんですからね!」

 彼女が涙を流しながら言うものだから僕は慌てて謝った。

「ご、ごめん……!」

 謝罪の言葉を口にした後、今度はメイから問いかけられた。

「体は大丈夫ですか……?」

 その問いかけに僕は頷いてから答えた。

「うん、平気だよ」

 それを聞いたメイは安堵したような表情を見せた後で僕にあることを聞いてきた。

「あの、一つお聞きしたいことがあるのですがいいですか……?」

 彼女からの問いに対して僕は首を傾げながらも聞き返した。

「なんだい?」

「その……あの剣と、あの技は……いったい何だったんですか?」

 その問いかけにどう答えていいのかわからなかったので、とりあえずは素直に話すことにした。

「……あれはね、僕の力なんだ」

「えっと、つまり……あれは勇者の能力の一つってことですか?」

 彼女の言葉に僕は頷きながら言った。

「そういうことだね」

 それを受けてメイは少し考えてから再び質問をしてきた。

「それじゃあ、もう一つ質問があるんですけどいいですか?」

「いいよ」

「ありがとうございます! あの剣って、どうやって出したのですか? それに最後の攻撃も凄かったですし……」

「そうだね……」

 僕は少し考えた後で彼女に告げた。

「実は僕もよくわからないんだ」

「……えっ!? わからないってどういうことですか!?」

 驚いた様子で聞いてくるメイに説明を始めた。

「実は僕も初めて使ったんだよ、この力を……」

「そうだったんですね……」

 納得した様子を見せる彼女だったが、その表情はすぐに驚きのものに変わった。

 なぜなら僕が続けて言った内容が原因だったからだ。

「それに、まだ完全に使いこなせるわけじゃないんだ」

「そうなんですか!?」

 驚く彼女を他所に僕は続けた。

「そうだよ、だからもっと訓練しないといけないかなって思ってさ」

 そこまで聞いたところで彼女は笑顔になりつつ言った。

「わかりました! でしたらわたしもお手伝いします!」

「ありがとう、助かるよ」

 お礼を言った後で僕はあることに気がついた。

(そういえば今、何時なんだろう……?)

 そんな疑問を抱いているとメイが教えてくれた。

「今は夜の七時ですよ」

「そうなんだ、結構寝てたんだね」

「そうですよ、丸一日寝ていたんですから!」

「そっか……」

 そんなことを思っているとメイが話しかけてきた。

「お腹空いてませんか? もしよかったら何か作りますよ?」

 その言葉に反応した僕はすぐに返事をした。

「ありがとう、お願いするよ」

 それを聞くと彼女は微笑みながら頷いたあとで部屋を出ていった。

  *

 屋敷の食堂へ行くと、見知った面々がいた。

 ドロワットさんとソフィアとバーシアさんだ。

 彼女たちは僕のことを待っていてくれたようで、全員が席に座ったことを確認すると食事が始まった。

 ちなみにメニューはシチューだった。

 味はとても美味しくて、あっという間に食べ終えてしまったほどだ。

 そして食後に紅茶を飲みながら談笑していると、ふとドロワットさんから話しかけられた。

「そういえば、ゴーシュ様はこれからどうするおつもりですか?」

「これからのことですか……?」

 聞き返すと彼は大きく頷いた後でこう言ってきた。

「そうです、これからのことです」

 その発言に対して僕は考えていたことを正直に話した。

「……そうですね、王国に囚われているお父様とお母様を救出したいと思います」

 そう伝えると彼は少しだけ悲しそうな表情を見せつつも小さくため息を吐いた後で言った。

「そうですか……やはり、そうなりますよね……」

「ドロワットさんも時々は、ご両親のところで過ごされてみてはどうでしょうか? きっといい気分転換になると思いますよ?」

 そう提案すると彼は小さく首を横に振った後で答えた。

「いいえ、わたくしは遠慮しておきますよ」

「どうしてですか? せっかくですから――」

 そこまで言いかけたところで彼が僕の言葉を遮った。

「――それよりもゴーシュ様、わたくしからも提案があります」

「なんですか?」

 問いかけると彼は真剣な眼差しを向けてきた後で静かに口を開いた。

「――わたくしも一緒に連れて行ってください」

 彼の口から飛び出した言葉は予想外のものだったので思わず聞き返してしまった。

「え……? ど、どういうことですか……?」

 すると彼は真剣な表情のまま話を続けた。

「――もちろん、ただでとは言いません。わたくしの力を貴方に差し上げます」

 彼の言葉を聞いた瞬間、僕は驚いてしまった。

「力を僕にくれる……?」

「はい、その通りです。その代わりと言ってはなんですが、わたくしを連れていってほしいのです」

「ですが……なぜ急に……?」

 戸惑いを隠しきれないまま尋ねると彼は理由を話し始めた。

「わたくしがあなたと一緒に行きたいと思ったからです」

「僕と一緒に……?」

「はい、理由はそれだけです」

「そんな理由だけで決めていいんですか?」

「もちろんです。だって、わたくしはゴーシュ様のことが好きなんですから」

 その告白を聞いて僕は固まってしまった。

「ちょっとドロワットさん……抜け駆けは許しませんよ?」

 そんな声が隣から聞こえてきたかと思うと今度はバーシアさんが話しかけてきた。

 ちなみに僕が知る限り、ドロワットさんとバーシアさんは、あまり話したことがなかったはずだが――。

(僕が寝ている間に何かあったのかな……?)

 そんなことを考えているとソフィアが言った。

「まあ、二人とも落ち着いてくださいな。今回の件でゴーシュ様の力が覚醒したのです。いがみ合いはそれくらいにしておいた方がいいと思いますわよ?」

 それを聞いた二人は渋々といった様子ではあったが大人しくなったようだ。

 そういえば――。

「バーシアさんは、どうして、ここに?」

 ずっと気になっていたことを尋ねたところ彼女は笑顔で答えてくれた。

「だって、ゴーシュ君が倒れましたもの。ゴーシュ君は、あたしの護衛任務をおこなう義務があるのですから、あたしがここにいるのは当然ですよね?」

「……バーシアさん、今回のこと、帝国には報告したのですか?」

「ええ、もちろんです」

「それなら、よかったです。ですが、バーシアさんには聞きたいことがあります」

「なんでしょうか?」

 首を傾げる彼女に僕は問いかけた。

「バーシアさんがスプリング王国を滅ぼしたい理由は何ですか? 今回の襲撃は魔王軍の四天王によるものでしたけど、いずれ戦争でも始めるつもりですか?」

「違いますよ」

「では、なぜ、あの時に、あんなことを言ったのですか?」

 すると彼女は笑みを浮かべながら答えた。

「そんなの決まっていますわ、あなたを試したかっただけです」

「僕を試す……?」

「ええ、あなたが本当に正しき者か知りたかったのです」

「正しき者かどうか……ですか……」

「はい、あなたは、あたしの期待に見事に応えてくれましたから合格ですわ」

「それは……どうも……」

「でも、いつまでも子どものままではいられないってことだけは覚えておいてくださいね?」

「……わかりました」

「スプリング王国とオータム帝国が争うことは、いずれ必ず起こるでしょうから、その時は、しっかりとあたしを守ってくださいね?」

「……善処します」

「ふふっ、よろしくお願いしますね?」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 子どものままではいられない……か。

 確かに、その通りだ。

 もう……僕は、あの頃とは違うのだから――。

 そんなことを考えつつ、僕は決意を固めて、お父様とお母様を救うために行動を起こすことにしたのだった。

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