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やがて王国を追放される貴族の僕の英雄物語 第37話 僕とメイドと元許嫁と女神様は新たな冒険の準備のために帝都へ向かう

  *

 屋敷にたどり着いた僕たちはすぐに中へ入り、両親を寝室へ案内した。

 ベッドに寝かせるなり両親はすぐに意識を取り戻したので、まずは事情を説明した。

「――というわけで僕たちは救出できたというわけです」

 説明を終えるとお父様は静かに目を閉じながら言った。

「……そうか、私たちを助けるために色々と苦労をかけたようだな……」

 続いてお母様も穏やかな笑みを浮かべながら言った。

「貴方たちのおかげで私たちは助かったのだから感謝しかないわね……」

 その言葉に僕は少しだけ胸が熱くなったのを感じた。

(家族からそんな風に言ってもらえる日が来るなんて思ってもなかったな……)

 そんなことを考えていると今度はお母様が問いかけてきた。

「それで、これからどうするつもりなのかしら?」

 その問いに僕は正直に答えた。

「まだはっきりと決めたわけではないのですが、僕とメイは冒険者として旅をしていこうと思っています」

 それを聞いたお父様は納得したように頷きながらこう続けた。

「なるほど、それがお前たちの選んだ道というわけか……」

 そして最後にお母様が言った。

「それならば、せめて旅立つ前に貴方に渡しておきたいものがあるのだけれどいいかしら?」

 そう問いかけるお母様に頷くと彼女は立ち上がり、部屋を出て行った。

 数分後に戻ってきた彼女の手には小さな箱のようなものがあった。

 それを手渡された僕は中身を確認してみたのだが、そこには二つの指輪が入っていた。

 一つは金色に輝くものでもう一つは銀色に輝いているものだった。

(この指輪は、いったい……?)

 不思議に思っているとお母様が口を開いた。

「それは私たちが冒険者時代に使用していたものなのだけど、よかったら貰ってくれないかしら? 貴方が持っている方が役に立つと思うから」

 そう言われたので僕はありがたく受け取ることにした。

「――わかりました、大切に使わせてもらいますね」

 お礼を言いながら頭を下げると隣で聞いていたメイも同じように頭を下げていた。

 それを見たお父様は小さく笑みを浮かべて言った。

「私からも礼を言わせてほしい、息子を助けてくれてありがとう……」

 それからしばらくして二人は眠りについたので僕たちも自室へ戻ることにした。

 部屋に戻った僕はベッドに腰かけてから渡された指輪を見つめた。

(これがどんな力を秘めているのかわからないけど、いつか使える機会があればいいな)

 そんなことを思いながら眺めていると不意に声をかけられた。

「――ゴーシュ様」

 声のする方へ視線を向けるとメイが立っていた。

 どうやらいつの間にか戻ってきていたようだ。

 そんな彼女を見て微笑みながら僕は問いかけた。

「どうかしたのかい?」

 すると彼女は僕の隣に腰を下ろしながら話し始めた。

「……ゴーシュ様はご自分の力で世界を救いたいと思っていますか?」

 唐突にそんなことを聞かれたので少し驚いたもののすぐに返事をした。

「そうだね、できることなら自分の手で成し遂げたいとは思ってるよ」

 その答えを聞いたメイはさらに続けて言った。

「でしたらわたしは貴方の力になりたいです! いえ、させてください!」

 その言葉に僕は驚きを隠せなかった。

 ――どうして、この子はここまでしてくれるんだろう……?

 しかし、同時に彼女の言葉に対して嬉しさも感じていたのも事実だった。

「……ありがとう、その気持ちだけでも十分嬉しいよ」

 それだけ言うと彼女に微笑みかけた。

 すると彼女は首を横に振りながら言った。

「いいえ、それではわたしの気が収まりませんから――」

 そこまで言いかけたところで突然僕の腕を掴んできたかと思うとそのまま引っ張られてしまった。

 突然のことに驚いていると目の前に彼女の顔が現れた。

 その直後――唇に柔らかいものが触れた気がした……。

 それからしばらくの間、放心状態でいると目の前で彼女が微笑んでいた。

 その頬は微かに赤く染まっていた。

 そこでようやく我に返った僕は慌てて尋ねた。

「い、今なにを……?」

 戸惑いつつも尋ねると彼女は悪戯っぽく笑いながら答えた。

「それは内緒です」

 そう言うと彼女は逃げるように部屋から出て行ってしまった。

 一人残された僕は呆然としたまましばらく動けずにいたのだった――。

  *

 翌朝、朝食を済ませたところで今後の予定について話し合った結果、出発は一週間後にすることにした。

 その間に準備や挨拶回りなどを行うためだ。

(といっても特に持っていくものはないんだけどね……)

 そう思いつつも一応ということで両親の部屋を訪れた。

 すると部屋の中では二人が荷造りをしているところだったので声をかけることにした。

「おはようございます、お父様、お母様」

 声をかけると二人とも作業を止めてこちらに視線を向けてくれた。

「おはよう、ゴーシュ」

「おはよう、よく眠れたかしら?」

 二人の問いかけに僕は笑顔で答えた。

「はい! おかげさまでぐっすり眠ることができました!」

 するとお母様は優しい笑みを浮かべながら言った。

「それならよかったわ」

 それに続いてお父様も笑顔を浮かべながら言った。

「昨日はゆっくり休めたか?」

 その問いに僕は頷いてから答えることにした。

「ええ、久しぶりにベッドで寝ることができたのでとても気持ちがよかったですよ」

 するとお母様が微笑みながら言った。

「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわね」

 それから少しの間、三人で談笑していたがふと時計を見るとすでに出立の時間になっていたので話を切り上げることにする。

「すみません、そろそろ行かないといけませんので僕たちはこれで失礼しますね」

 僕がそう告げると二人は揃って頷いた後で見送りの言葉をかけてくれた。

「気をつけて行ってきなさい」

「身体に気をつけるのよ」

 二人の気遣いに感謝しつつ別れを告げると屋敷を後にしたのだった――。

  *

 ドロワットさんも今回の旅に同行することになった。

 なんでも、僕についていくことで更なる高みを目指すことができると考えたらしい。

 まあ、戦力が増えるのはいいことなので断る理由はなかった。

 そんなこともあって現在、馬車に乗って帝都へと向かっている最中なのだが……。

 なぜか僕の両隣をメイとドロワットさんが陣取っていて、しかも腕にしがみついてきているという状況だった。

(これは一体どういうことなんだ……?)

 そう思いながら困惑していると不意にメイが声をかけてきた。

「あの、ゴーシュ様……」

「ど、どうしたのかな?」

 恐る恐る返事をすると彼女は頬を赤く染めたまま上目遣いで見つめてきた。

 その様子を見ていると心臓が激しく鼓動を打ち始めたのがわかった。

(な、なんなんだ!? 急にどうしたんだ!?)

 内心動揺している僕をよそに彼女は恥ずかしそうにしながらもゆっくりと顔を近づけてきて――そっと口づけをしてきた。

「――っ!?」

 予想外の出来事に驚くことしかできないでいるとさらに追い打ちをかけるように今度は反対側にいるドロワットさんまで同じ行動に出たのだ。

 その結果、僕の頭の中は真っ白になりかけていたがなんとか耐えきった。

 とはいえ、二人に密着されているこの状況は決して楽観視できるものではなかったので意を決して尋ねることにした。

「……えっと、メイさん、ドロワットさん……? もしかして怒ってるのかな……?」

 おそるおそる尋ねてみると二人はほぼ同時に首を横に振った。

(違うのか? じゃあ、なんで、こんなことを……?)

 そんなことを考えていると彼女たちは再び顔を寄せてきた。そして――耳元で囁くように言った。

「――大好きです、ゴーシュ様……」

「――大好きですわ、ゴーシュ様……」

 その瞬間、顔が熱くなるのを感じつつ思わず顔を背けてしまった。

(あ、あれ……? なんでだろう……さっきから胸のあたりが苦しいような感じがするぞ……?)

 そんなことを思いつつ胸に手を当てていると今度は左右から腕を絡められてしまった。

「――えっ!?」

 驚いて視線を向けるとそこには満面の笑みを浮かべたメイとドロワットさんがいた。

(こ、この笑顔はヤバいやつだ……!)

 そう直感した僕は急いで離れようとしたのだが、しっかりと掴まれていて離れることができなかった。

(くっ……! なんて力だ……!)

 どうにかして抜け出そうと試みるもののびくともしなかった。そんな様子を見ていた二人は再び顔を耳元に寄せてきて囁いた。

「絶対に離しませんからね……!」

「絶対に逃がしませんわよ……!」

 その言葉に背筋がゾクッとしたのを感じた直後、両側から頬にキスをされてしまった。

 あまりの衝撃に固まっていると、いつの間にか帝都に着いていたのだった――。

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