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やがて王国を追放される貴族の僕の英雄物語 第4話 僕はメイドと地下牢へ向かう

  *

 ――街の中央まで歩いてきたところで、メイは立ち止まった。

「ここが武器と防具の店です」

 メイは一つの建物を指差す。看板に「武具のミカミ」と書かれていた。

「ここに装備品が売ってあります。行きましょう」

 メイは扉を開けて店内に入る。僕もそれに続いて入った。

 ――店内はかなり広く、多くの商品が並べられている。奥の方へ進んでいくと、一人の男性が立っていた。メイはその男性に話しかける。

「こんにちは、店主さん」

「やあやあ、何を買いに来たんだい?」

「剣を探しているんです」

「へぇ、その人、剣士なのかい?」

 男性は僕の方を向く。僕は軽く会釈をした。

「はい、とても強いんですよ」

「そうか。じゃあ、この辺りなんかどうだい?」

 店主は剣を一本手に取る。刀身は銀色で、鍔の部分に青い宝石が埋め込まれている。なかなかカッコイイ。

「へぇ……いいですね」

 僕は思わず呟いた。

「気に入ったみたいだね」

「はい、これにします」

「まいどあり」

 僕は代金を支払い、鞘に入った新しい剣を受け取る。

「ありがとうございます」

「また、おいで」

 僕はメイとともに店を後にした。

  *

 メイはお城へ行く必要はないと言った。どういうことだろう? 詳しく話を聞くことにした。

「メイ……君がやりたいことは、いったいどういうものなんだ?」

「お城の近くにある森の中に秘密の入り口があるんです」

「なるほど……」

 それは盲点だったかもしれない。お城の近くにそんな場所があったなんて……。

「ご主人様、一緒に行ってくれるでしょうか?」

「たぶん、大丈夫だと思うよ」

「よかった……」

 メイは安堵したように息を吐く。

「でも、どうしてそんな場所に入り口が?」

「昔、ある貴族が森で迷ったときに偶然見つけたらしいです」

「ふーん……」

 メイは説明を続ける。

「お城の人たちはその場所を知らないはずです」

「なるほど……」

「わたしはそこに案内するつもりなんです」

「わかった。メイを信じてるよ」

「はいっ!」

 メイは嬉しそうにうなずいた。

  *

 僕はメイと二人で森の中を進んでいる。メイの話によると、お城の近くの茂みに小さな洞窟があり、そこからお城に侵入できるとのことだ。しばらく歩いているうちに、前方から人の声が聞こえてくる。僕はメイを庇うようにして前に立った。

 すると、武装した男たちが現れる。

「貴様ら、何者だ!?」

「しがない冒険者です」

「ほう、それで、その、しがない冒険者が、なぜこんなところにいる?」

「道に迷いまして……」

「怪しい奴め……」

 男はそう言うと、後ろの部下たちに合図を送る。部下たちは一斉に槍を構えた。どうやら戦うしかないようだ。僕はメイに囁きかける。

「下がっていてくれ」

「はい……」

 メイは不安そうにうなずくと、ゆっくりと後ろに下がった。僕は腰に下げた新たな剣を抜き放つ。そして、大きく深呼吸をしてから叫んだ。

「行くぞ!」

 僕は地面を蹴ると、男に向かって突進した――。

  *

「ふう……」

 なんとか倒せた。鎧を着た大柄な騎士だったので少し苦戦したけど、メイを守りながら戦ったので怪我はない。メイはというと、目を丸くして驚いている。

「ご主人様、相変わらず、お強いです……」

「まぁね……」

 僕は苦笑いを浮かべる。実は僕が剣術を習っていたのは、お兄様に負けないよう……それとメイを守るために身につけたものだ。

「ご主人様は努力家ですから、絶対に誰にも負けません!」

「い、一応、言っておくけど、メイのためでもあるんだよ?」

「わたしの……ですか?」

「うん、メイを守れるくらい強くならないと思って……」

「ご主人様……」

 メイは瞳に涙を浮かべる。

「わたしのためにそこまで……」

「ま、まぁ、そういうことだよ」

 僕は照れ隠しのように頭を掻いた。それから、倒れている男のそばに行く。メイは心配そうに訊ねてきた。

「この人たち、生きてますかね?」

「気絶しているだけだよ」

「そうですか……」

 メイはホッとした表情を見せる。そのときだった。

「ぐっ……」

 という声と共に男が目を開ける。

「あっ、起きましたよ!」

 メイは驚きの声を上げる。僕は慌てて駆け寄った。

「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ……」

「あなたたちは誰なんですか?」

 僕はメイが聞いたことをそのまま質問する。

「私たちは王都騎士団の一員だ……」

「えっ?」

「まさか……王都騎士団の騎士様は、僕たちを最初から殺すつもりで……」

「違う! お前たちのことを報告するだけだ!」

「報告?」

「そうだ。今回の件は反逆罪にあたる。だから、お前たちは裁かれなければいけない」

「なるほど……」

「このことは報告させてもらう。お前たちの顔、ちゃんと覚えたからな」

 男は立ち上がると、仲間たちを連れて去っていった。

「……まあ、僕の魔法で、僕とメイの顔は、彼らには別人に見えてるんだけどね」

「さすがです、ご主人様!」

  *

 地下牢へ続く道は迷路のようだった。薄暗い通路を慎重に歩いていく。やがて、開けた場所に出た。そこには二人の男性が立っている。二人とも甲冑を身につけていた。おそらく、門番なのだろう。彼らはこちらに気づくと、駆け寄ってきた。

「お前たち、こんなところで何をしている?」

「ちょっと迷子になってしまいまして……」

 とっさに嘘を吐く。二人は顔を見合わせたあと、僕の方へ視線を向けてきた。

「本当にそれだけか?」

「はい、そうです」

「ふむ……嘘をついているようには見えないな」

 門番の一人がつぶやくように言うと、もう一人の門番もうなずく。僕たちはホッと胸を撫で下ろした。しかし――。

 突然、後ろから声が聞こえた。振り返ると、大勢の騎士たちがいた。しかも全員武装しており、こちらを睨んでいる。どうやら待ち伏せされていたみたいだ。これはマズイかも……そう思ったときだった。一人のリーダーらしき騎士が近づいてくる。彼は甲冑を身に着けており、手には抜き身の剣を持っていた。

「お前が首謀者か?」

 リーダーは鋭い眼差しでこちらを見る。どうやら勘違いされているらしい。僕は首を横に振って否定した。

「ち、違いますよ!」

「とぼけるな!」

 リーダーは剣を構えると、こちらに向かってきた――。

  *

 間一髪のところでリーダーの攻撃を避けることができた。危うく斬られてしまうところだったのだ。それにしても、かなり強いと思う。このままでは勝てないかもしれないと思った瞬間だった。急に体が軽くなる感覚を覚える。もしかして、これが覚醒というものだろうか? いや、今は考えている場合じゃない。とにかく、この状況を切り抜けなければ……。僕はリーダーの攻撃を避けつつ、魔法を発動させた。新しく買った剣についている青い宝石が光り輝き、剣から炎の塊が放たれる。すると――。

 ボオオォォォッ! 轟音とともに炎が爆ぜた。凄まじい威力だ。近くにいた騎士たちが吹き飛ばされていくのが見えた。それを見たリーダーは驚愕の表情を浮かべる。そして――。

 バタッ……。

 その場に倒れてしまった。どうやら気を失ってしまったようだ。とりあえず、助かったみたいである。僕はメイのもとに駆け寄ると、彼女を抱きかかえて奥へと進んでいく。その先には大きな扉があった。きっとここに違いないだろう。扉を開けると中は鉄格子状の牢屋がたくさんあった。

「お二方がいらっしゃるといいですね」

「そうだね」

 二人で手分けをして探していく。しばらくすると、奥の方から声が聞こえてきた。急いで駆けつけてみると、そこには見覚えのある人物がいた。おそらく間違いないだろう。僕は二人に声をかけることにした。

「すみません……」

 二人が同時にこちらを向く。やはり思ったとおりだった。そこにいたのはお父様とお母様だった。驚いた表情でこちらを見つめている。僕は事情を説明した。それを聞いた二人は呆然としていたけれど、すぐに納得してくれたようだった。僕たちは地下牢への脱出を試みた。ひたすら道を逆方向へ進んで外へ出る。

  *

 外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。もう真夜中になってしまったのか……。空を見上げると月が見える。満月だった。とてもきれいだなぁと思っていると、不意に肩を叩かれる。振り向くと、メイが立っていた。彼女は少しだけ笑みを浮かべている。その笑顔を見ていると幸せな気分になった。

「月がきれいだね」

「そうですね」

 ずっとこんな日々が続くといいのだけど……。そんなことを考えながら屋敷へと戻っていくのだった――。

  *

 でも、もとのようには戻れない。

 お兄様が謀反を計画していたことが露見して、逃亡。そして、お父様とお母様は捕まったのだ。

 最終的に、お父様とお母様は地下牢で、ある者に殺された……という設定にして救出。つまり、地下牢に殺害されたお父様とお母様がいるような幻覚が見える魔法をかけたのだ。

 これで、お父様とお母様には、ある国に亡命してもらうことにした。転移魔法で、お父様とお母様を別の国へ送っていった。

 これで僕は本当の意味で、サマー家の屋敷の「ご主人様」になってしまった。

 僕――ゴーシュ・ジーン・サマーと、彼女――メイ・ドリータの関係は、幼いころからの教育により、彼女は僕を「ご主人様」として呼ぶように教育されて、僕は彼女を「メイド」として雇い、いろいろなお世話をしてもらうに教わった。

 だけど、僕らは秘密の恋人になり、これから、いくつもの困難が待っていることを、なんとなく僕は予見してしまっているのだった――。

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