小さな旅・思い立つ旅|杉本博司の素材を巡る旅[江之浦、小田垣、クレマチス]篇
現代美術作家 杉本博司とは?
写真家であり、舞台美術家であり、彫刻家であり、古美術収集家であり、作庭家であり、建築家でもある人。あまりに多才ゆえに、却ってその正体がつかみにくいというのもまた事実。
なんとも捉え所がないことは本人も自覚しており、“いちいち面倒なので最大公約数的に現代美術作家ということにしている” とのこと。
もし、杉本博司をご存知ない方は、一昨年に森美術館で開催された「STARS展」で草間彌生、村上隆とともに現代アートのトップ6として紹介されているので、その凄さの一端は伝わるかと。
特に杉本博司と榊田倫之によって建築設計事務所「新素材研究所」が設立された2008年以降は、建築空間全体で杉本の世界観を堪能できるようになり、旅の目的地として、とてもおすすめ。
草間彌生のかぼちゃや、村上隆のアニメもいいけれど、たまには杉本博司の新素材を巡る芸術散歩でもどうでしょう、という話。
手仕事や素材の良さが美しさの根源
「もっとも古いものが、もっとも新しい」
18世紀の産業革命からウィリアム・モリスの「アーツ・アンド・クラフツ運動」が起こるまで約100年。この運動は、産業革命による大量生産で安価で低俗なデザインが大量に出回る中、もう一度中世まで戻ってよりよいデザインを考えよう、というもの。
そして20世紀初頭、合理的で機能的な造形理念に基づくモダニズム建築運動から約100年が経過して現在に至る。モダニズムの合理性や機能性だけではない“手仕事や素材の良さ”を、今一度見直す時期に来ているのはないか?
そんな考えが、新素材研究所の通底に流れている。
「産業革命」の反動による「アーツ・アンド・クラフツ運動」
「モダニズム建築」の反動による「新素材研究所」
100年という大きな時代の波のなかで、杉本博司とウィリアム・モリスの関係はとても興味深い。。
建築とアートは不離不分
ハコをつくって、その壁に芸術品を飾る。これは、よくある美術館と額装されたアートの関係。でも、本来は建築とアートは不可分なものだと。
ピラミッドとその内陣に刻まれている壁画の関係も、パルテノン神殿の列柱とそこに刻まれる彫刻の関係も、建築でありアートである。
建築とアートの境界を越える
古来の素材を再考して、美しい空間をつくる
そんな杉本博司の手がける3つプロジェクトを巡る旅。
江之浦測候所|神奈川小田原
小田原にある海抜100mから相模湾を臨む江之浦。杉本の原点であり、《海景》シリーズのイメージとも重なる風景が広がるこの地にあるのは「測候所」。
太陽の動きや地軸の角度と連動して様々な構築物が配置される。かつて古代人が、自らの存在を確認するために天空との関係から測ったことにならい「測候所」と名付けたとのこと。
カンブリア紀から人新世まで、長時間を体感する芸術散歩
近隣から採掘された根府川石、小松石ほか、江戸城の石垣用の石を景石として添え、随所に古代から近代までの建築遺構から収集された貴重な考古遺産が配されている。普通に歩いても1時間はかかる広大な敷地を巡りながら、石と緑と海と太陽を堪能できる最高の場所。
『5千年後の遺跡』となることを目指して、未だ完成することなく手を加え続ける杉本博司渾身の一作。
小田垣商店|兵庫丹波篠山
兵庫県丹波篠山につい最近できた黒豆屋さんのショップ兼カフェ。
1734年(享保19)創業の黒豆専門卸店の老舗をリニューアル。国登録有形文化財でもある本店と石庭が新しくなり、ふらっと立ち寄ってカフェでのんびりして、お土産に丹波黒豆を買って帰るのにちょうどいい場所。
石畳に、久住さんの土壁に、屋久杉の看板に、大きな手水鉢のディスプレイ。そしてトイレまでかっこいい。改修工事は今後も第2期に茶室と蔵、第3期に旧酒蔵、第4期に洋館のリノベーションを予定しているようで、まだまだ目が離せない注目の場所。
IZU PHOTO MUSEUM|静岡長泉
新素材研究所が設立されるきっかけとなった美術館。根府川石を素のまま加工せず、古墳時代の石室を参照して乱積みした庭園が見どころ。木材、石、土という無垢の素材を使う圧倒的な物量感が美しい。
一般化や合理化から、稀へ。
美術館はクレマチスの丘の一角にあり、これ以外にもヴァンジ彫刻庭園美術館をはじめ庭園やレストランもあり、とても濃密な場所なのでとてもおすすめ。
今気がついたけど、IZU PHOTO MUSEUMは一時休館中のようで。リニューアルかな?
*
たまたま今日、NHKの日曜美術館で江之浦測候所をやってたみたい。
すごい偶然。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?