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『正直不動産』~ファンタジーとコメディの衣を着せて不動産業界の闇に切り込んだ硬派の社会派ドラマ

「消費財としてのドラマ」と「生産財としてのドラマ」

あくまで私見ですが、ドラマには大きく分けて2種類あると思っています。ひとつは「消費財としてのドラマ」。それに対するのが、「生産財としてのドラマ」です。

前者は観ている間は面白くて楽しいけれど、終了した後には何も残らない、つまり何も生み出さない文字通り消費して終わりというドラマの事を指します。「消費財ドラマ」の多くは次のドラマ視聴などによって上書きされ、やがて忘れられて行く運命にあります。

後者は面白くて楽しいと同時に、ドラマの中にある種のメッセージ性が含まれているのが必要条件。どちらが欠けても視聴者の心を揺り動かす事はできませんから。この種のドラマは、単に「ああ、面白かった。」というだけに終わらず、観終わった後、作品から受けた感動や刺激が視聴者に思索や行動変容などを促すのが特徴です。

勿論、その中間を行くドラマも存在するし、箸にも棒にも掛からない恐ろしくつまらない駄作もある訳ですが。

誤解のないように書いておくと、別に「消費財ドラマ」を否定している訳ではありません。エンタメとしての有用性を満たしている作品であれば観る価値は十分ありますし、実際のところ、私も好きでよく観ています。

ただ、それだけでは物足りないし、次から次へと消費して後に何も残らないのではちょっと空しいでよね。それはある意味、人生に残された時間の「浪費」でもある訳ですから。観る事で今の自身が少しでも成長できる糧としてのドラマも少しはあったらいいなと思う次第です。

『正直不動産』が「生産財ドラマ」である理由

『正直不動産』には強いメッセージ性があり、久しぶりに後者の範疇に入るドラマなので、少し具体的に書いてみましょう。

このドラマからのメッセージを受け取った視聴者の中には、それが自分自身の価値観や仕事観を見直すきっかけになったり、場合によっては自分の生き方や人生観にまで影響を及ぼしたりする可能性もあるかもしれません。

また、このドラマの本当の主題である日本の不動産問題は、知れば知るほど心穏やかではいられないとんでもない代物。多くの日本人にとって住宅の購入は一生に一度あるかないかのある意味人生最大の重大イベントです。ドラマでも何度も強調されていましたが、住まいの選択は買った人のその後の人生をも左右します。

もし、欠陥住宅を掴まされればその購入者に一生残るほどの心の傷を与え、中には後悔や絶望から立ち直れず自ら命を絶つ人までいるかもしれません。日本の住宅の在り方は本当にこれでよいのか、日本の不動産業界の不透明さやうさん臭さは、一体どこから来ているのかと考えさせられてしまうのです。

このドラマで描かれていたようなひどい現状を放置しているのは、誰なのか。行政は一体何をやっているのかなど、このドラマを観た事で色々な疑問が次々に湧いてきます。中には考えるだけでなく、少しでも改善するために具体的なアクションを起こす人もいるかもしれません。

このように「生産財ドラマ」は視聴者の心に影響を与え、新たな思考や行動を生み出すきっかけを作るパワーを秘めています。現にこうして私がこのような記事を書いているのも『正直不動産』というドラマが内包している強烈なパワーから刺激を受け、書くことを促された結果なのですから。

「生産財ドラマ」は絶滅危惧種

残念なことに「生産財としてのドラマ」は年々減少し続け、最近ではほとんど作られなくなってしまっています(映画も同様)。1年間で100本近く作られる新作ドラマのほぼ98%は「消費財ドラマ」と言っても過言ではないでしょう。

ここ数年の例を挙げれば、渡辺あやが脚本を担当し、国立大学の在り方やポスドク問題、政府の新型コロナ対策や東京五輪、総理記者会見などを鋭く風刺した昨年の社会派ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』、同じく渡辺あや脚本で大学の独立行政法人化の問題を取り上げた単発ドラマ『ワンダーウォール』。

「社会的正義」とは何かという問題を鋭く問いかけた『相棒正月スペシャル2018』、たった1本の法律が人々の平穏な生活を根底から脅かす恐怖を描いた『結婚相手は抽選で』など、年に1本あるかないかという状態が続いているのは、非常に嘆かわしいことです。

視聴者満足度が高かった『正直不動産』

さて、全10話というNHKとしては長丁場の放送が先頃終わった『正直不動産』。 放送中から大反響を呼び、NHKには大絶賛の投書や再放送の依頼が殺到したそうです。見逃し配信では、見事視聴数新記録を達成、

大声援に後押しされる形で第11週目には、異例の「感謝祭特番」まで放送。また、急遽全話連続再放送、再々放送を実施。短期間に都合3度も放送されるなど大好評だったのは誠に慶賀の至り。

ただし、視聴率的にはそれほど好調という訳ではなく、第7話までの世帯平均視聴率は5.6%とごく平凡。10%超えでヒット、5%以下だと失敗作とみなされる民放ドラマに比べるとぎりぎりセーフといったところ。

もっとも、民放の「月9」や「火曜ドラマ」などのような時間枠による固定ファンをもたず、総じて視聴率が低いNHKドラマとしてはこの数字でも大健闘だったのは確かですが。

チャンネルを合わせた人はそれほど多くはないけれど、観た人のほとんどが大絶賛。視聴満足度が非常に高く、強いインパクトを残したドラマという事のようです。

硬派社会派ドラマにファンタジーとコメディという味付けをする意味

『正直不動産』は、NHKには珍しいファンタジー+コメディという衣を着せてはいますが、本質的には硬派のメッセージを含んだ社会派ドラマ。

社会的メッセージや風刺を含んだドラマをそのままシリアスなスタイルで作ろうとすると、堅苦しくてエンタメ性がなく視聴率が期待できないため企画そのものが通りにくいと言われています。

また、そのストレートなメッセージが「さる筋」の怒りを買って政治的介入をされたり、番組そのものを潰されたりという最悪の事態を招く事があります。(有ってはならないことですが、昔から数多くの事例があります)

そうした事態を避けるために番組の外見をSFやファンタジー、コメディ、時代劇などで偽装するという手法は戦前から行われており、その代表例が、米国の伝説的SFドラマシリーズ『ミステリーゾーン』です。

SFというエンタメドラマに見せかける事で、当時の米テレビ界では正面から描くことが難しかった人種差別や偏見、貧富の差、強欲資本主義などの社会問題、原爆、反戦、全体主義や独裁国家の恐怖など、現代社会にも通じる主題を積極的に取り上げ、放送する事ができたのです。

※『ミステリーゾーン』はCS「スーパードラマチャンネル」で、ちょくちょく再放送されています。

『正直不動産』物語の発端

中堅不動産会社登坂不動産の社員長瀬(山下智久)は、ウソやでたらめで塗り固めた騙しのテクニックと口八丁手八丁の巧みなセールストークで次々に契約を勝ち取って来た営業部のエースセールスマン。ライバルで営業成績2位の桐山(市原隼人)は、長瀬を「契約のためには手段を択ばない悪魔のような男」と酷評しています。 
                                  アパート建設を渋っていた地主を「経営リスク」や契約書に仕組まれた不動産屋に有利な罠を隠蔽する事で見事に翻意させ契約に成功した長瀬ですが、地鎮祭の邪魔になると建設予定地に立っていた祠と石碑をスコップで破壊してしまいます。

ところが、その後で長瀬は、いつの間にか自分がウソをつけなくなってしまっている事に気付いて愕然とします。得意のウソがつけないと仕事にならないからです。
                                  別件の賃貸契約成立寸前、契約書に押印しようとした顧客を前にして、突然契約物件に関わる隠された重大なリスクをぺらぺらと洗いざらい喋ってしまう長瀬。怒った顧客は、「馬鹿にするな。」と契約をやめて帰ってしまう始末。 
                                  原因はどう考えても石碑のせいとしか考えられないのですが、最早後の祭りでどうにもなりません。唯一最強の武器であるウソがつけなくなってしまった長瀬は、この危機をどうやって乗り越えて行くのでしょうか・・・。

ドラマ分析~「対比」の効果

第1話は三つの対比をうまく使って絶好調の滑り出し。一つ目の対比は勿論、ウソ八百の長瀬と正直者に変身た長瀬との対比。

片や「千の言葉の中に真実は三つ」と嘯く巧みな騙しのテクニックでトップの成績をキープし続け、多額の成約ボーナスで高級タワーマンションに住んでいた頃の長瀬。片やウソがつけなくなった事で営業成績がガタ落ちになり、タワマンを見上げるボロアパートに引っ越すまでに零落した長瀬との対比。今回は、このギャップがメインです。

もう一つは、2話以降も続くのですか、顧客の事情など一顧だにせず自分の営業成績を上げて高給を貰う事しか考えていない長瀬の仕事観(職業意識)と長瀬が教育を任された営業部の新人社員月下(福原遥)の人生観・仕事観との対比。月下は、謂わば長瀬が自分の有り様を映し出す鏡のような存在。

月下の信条は、自分の営業成績や会社の儲けよりあくまで「カスタマーファースト」。彼女は、顧客の事をまず第一に考え、最良の物件を探すことで顧客の役に立ちたいと真摯に考えている純粋で正義感の強い社員。

初めは片瀬の嘘まみれの営業スタイルに嫌悪感をもち、強く反発します。長瀬はそんな月下を冷ややかに見ているのですが、ウソがつけるので本音は口に出しません。

続く第2話で月下は、長瀬のライバル桐山から「不動産部の営業ってものはそういう弱肉強食の世界だ。お前みたいに甘い事を言っている奴はとっとと辞めろ。誰かに食い殺される前に。」と面と向かって罵倒されてしまうのです。

ダメ押しのように嘘が付けなくなった長瀬からも「(桐山の意見に賛成した上で) 月下のやり方は顧客から見たら100点だけど、会社から見たら0点。」と酷評されますが、月下は頑なに自分の信条は変えません。

ウソがつけなくなった長瀬が「元の俺に戻りたい」と願いつつも、次第に月下の信念のほうに傾斜して行くのがひとつに見所にもなっています。つまりこのドラマは、不動産取引と言う仕事を通して長瀬の人間としての成長と心の変容を描く「ビルドゥングスロマン」でもあるのです。

三つ目の対比はこれもウソがつけなくなった事に付随するのですが、ウソ八百で騙していた事がばれて顧客に怒鳴り込まれるエピソードと正直に契約リスクを話した事でかえった顧客からの信頼を得るケースとの対比。

第1話終盤で、一度は激怒した客がその後に冷静さを取り戻し、不動産会社にとっては不利になるリスクを正直に話してくれたと逆に信頼される顛末が描かれます。これは長瀬が自分自身の価値観や労働観を自ら変容させていく伏線なのですが、同時に最終回のどんでん返しの伏線にもなっている重要なシーンでもあります。

登場人物相互の対比と言う点で言えば、長瀬に次ぐ営業成績第2位の凄腕営業マン桐山の存在も見逃せません。ウソつき営業マン時代の長瀬程ではありませんが、桐山も契約を取るためには顧客をうまく罠にはめる権謀術数も躊躇なく用いるので、正義派の月山からは嫌われていす。

一見クールで非情に見えますが、実は自分なりの信念と熱い志を秘めた男で、時には計略を使って長瀬の顧客を横取りする一方、窮地に陥った長瀬たちに救いの手を差し伸べるトリックスター的役回り果たす人物でもあります。コメディ色全開の山Pに対して、最初から最後まで一貫してシリアス調で通した市原隼人の硬派の演技は、強い印象を残します。

適度の笑いをとるシーンの間に思わず目頭が熱くなる感動的なエピソードが複数挿入されいて、1話を観ただけで心をギュッと鷲掴みされてしまった視聴者も多かったのではないでしょうか。私もその一人ですが。

ドラマの縦糸と横糸

ストーリー的にはコメディタッチのお仕事ドラマなので、一話完結形式で毎回我々が知らない不動産業務のノウハウが具体的に描かれていくのが大きな見所。

それと同時に全編を貫くサブストーリーとして、過去に因縁があり、長瀬が勤務する登坂不動産を目の敵にして潰しにかかる大手のミネルヴァ不動産の鵤社長と登坂不動産社長との企業の存亡をかけた対決が描かれて行きます。この顛末が視聴者の興味をラストまで引っ張って行く物語の縦糸としての役割を果たしています。

TBS『半沢直樹』系の「ジェットコースータードラマ」であれば、確実にこちらの方がメインストーリーになっていたはずですね。

取引銀行の融資担当榎本美波と長瀬とのコメディ調の恋模様?も面白い「色仕掛け」としてドラマに花を添えると同時に、業界用語が飛び交う緊迫した契約交渉を観た後の息抜きにもなっています。このあたりの緩急をつけた演出とシナリオ構成が絶妙です。

『正直不動産』のテーマ

そして、このドラマで何より特筆すべきなのが、不動産業界の底知れぬ闇の一端を取り上げた裏テーマ。いや、真正面から堂々と描いているので、裏テーマと言うよりは表のテーマと言った方が正確でしょう。

民放のように電通や大手スポンサー様に忖度する必要のないNHKだからこそ可能だった訳で、同じ素材を民放がドラマ化したら、不動産業界の抱える闇を正面切って描く事などまず不可能。民放は、不動産関係のCMを深夜にバンバン放送していますから。

民放なら不動産業界を舞台にしてはいても、『半沢直樹』のような小が大を喰う企業サバイバルドラマになったり、トップ営業マン同士の営業成績競争、あるいは男女社員の恋模様など当たり障りのないナビソードでお茶を濁して終わりでしょう。業界の問題を取り上げたとしても精々臭わせる程度で、後は想像にお任せしますと逃げてしまったはず。

同じ業界を扱った北川景子主演の『家売るオンナ』(日本テレビ)がその好例で、両者を比較してみればその差は歴然としています。業界の表面をさらっと撫でただけで終わった『家売るオンナ』など不動産業界にとっては痛くもかゆくもなかったでしょう。むしろ、宣伝になってかえってよかったと。

対して『正直不動産』は毎回毎回、長瀬や桐山、敵役の一人であるミネルヴァ不動産の花澤(倉科カナ)たちの権謀術数を通して不動産業界の騙しのテクニックの数々を字幕や図表まで入れてきっちり具体的に描いて見せます。勿論、視点が顧客側に立っている事は、終始一貫しています。

ドラマ自体が、不動産業者に騙されないための優秀な「学習教材」になっていたのですから、あっぱれです。

カスタマーの皆様必見~騙しのテクニックと契約時の落とし穴

第1話 アパート経営「サブリース契約書」に仕組まれた巧妙な罠、家賃が相場より安いのには訳がある(借り手に嫌がらせをして追い出し、敷金、礼金をせしめる悪徳オーナー)など。

第2話 預り金の落とし穴、媒介契約のからくり、初めは相場より高く吹っかけて徐々に値を下げお買い得に見せかける「アンカー(初期値)効果」、顧客の心理の隙を突く様々なトリックなど。

第3話 「ペアローン」のデメリット、わざと内検者をダブルブッキングして顧客を焦らせたり、あらかじめ「善意」の第三者を仕込んでおいてメリットだけを吹き込ませる高等テクニックなど。

第4話 「事故物件」の悪用と高齢者が賃貸物件を借りられない現実、「あんこ業者」を使った営業テクニック。

第5話 欠陥マンションのインスペクション(建物状況調査)の罠。不動産業者と検査業者(インスペクター)との共謀。

第6話 「建築条件付き土地」の落とし穴、手抜き工事が行われる原因(元受けと下請けとの上下関係)など。

第7話 実は金融商品である「リバースモーゲージ」のメリットとデメリット(ドラマで強調されてるのはデメリットの方)。

第8話 暗躍する地面師の巧妙な手口。

第9話 「インカムゲイン」と「キャピタルゲイン」。眺望権。

第10話 知らないと大損をする危険な「サブリース契約」。ほとんどの国民が知らない文化財保護法と土地取引との関係。

我々素人が聞いたこともない業界用語が次から次へと飛び出して来てびっくりしますね。これら不正販売の手口や騙しのテクニックの数々は書籍や雑誌などで紹介されることはありますが、多くの視聴者が観るテレビでここまで大っぴら且つ具体的に暴かれたのは初めてでしょう。

悪徳不動産会社としては仕事がやりにくくなって怒り心頭だと思いますが、このような国民のための良心的な番組を作ってこそ、スポンサーに左右されないNHKが日本に存在する意味があるというものです。

不動産業界の前近代性が温存されてきた訳

銀行員に言わせると1円まできっちり合わせなくてはならない銀行業務に対して、何もかもがルーズでいい加減な不動産業界の体質が不思議でならないそうです。

『正直不動産』で描かれた業界の不正直なやり口は、ほんの一端に過ぎません。不動産業界には底知れぬ深い闇が横たわっており、「バブル時代」の悪質な「地上げ屋」など、昔から反社団体との関りも囁かれています。

この業界の前近代的な体質が大した改善もされず、なぜ、今日まで温存されて来たのでしょうか。銀行業界にも多くの問題がありますが、それでも不動産業界より遥かに近代的だと思われているのは、銀行の業務を厳しく規制し監視している金融監督庁の存在があるからです。

不正をしたくても鬼より怖い金融監督庁「査察」があるので、一定限度以上の腐敗を防いでいるのです。ところが不動産業界にはそれにあたる存在が見当たりません。監督省庁は、免許の種類によって都道府県の住宅関係部署や国土交通省ですが、なれ合い同然で全くその機能を果たしていません。

ドラマで描かれていた顧客を騙す汚い手口がフィクションではなく、未だに現実問題としてまかり通っている事こそが、この業界が事実上野放し状態である事の何よりの証拠です。そもそも当たり前であるはずの「正直な不動産屋」が、ドラマになるほど稀有な存在である事自体がおかしいのです。

何しろ、現役の不動産業者自身が、「外国では禁止されている利益相反なんか、日本では当たり前。」「正直な不動産屋なんていない。」「そういう種類の人間たちの掃き溜めになっている魑魅魍魎の世界。」などと異口同音に語っている業界ですから。

著しく遅れている不動産関係の法整備と規制

厳しく監督できないのは不動業界には銀行法のような一元的な法律がなく、宅地建物取引業法、不動産登記法、借地借家法、建築基準法、2020年に制定された賃貸住宅管理適正化法など多くの関係法規があり、それらが複雑に絡み合っていて一筋縄ではいかない事もその一因になっています。

これに前近代的な商習慣が加わるので、門外漢の素人には到底太刀打ちできない特殊な世界なのです。法律や規制が適切に整備されていないので、不誠実な商慣行が未だに温存されている訳です。

建築基準法ひとつとっても欧米との差は歴然としています。日本の最高基準で作られた高価な住宅が、EUの基準では標準以下の低性能住宅という情けない現実。

法律による規制を怠ってきたため、戦後の住宅不足時代に出来た貸し手や仲介業者に有利な商習慣(例えば敷金や礼金、契約更新料、連帯保証人及び家賃保証会社との契約、火災保険への強制加入、退去時の原状回復義務など)が根強く残っているのが現実です。現在の人口減少による住宅余りの現状をしっかり踏まえた抜本的改革が必要なのですが、現実には一歩も進んでいません。

政府は一体どちらの側に立っているのか

結局、日本の行政が顧客である国民の側ではなく、毎年多額の政治献金や集票活動をしてくれる大手ゼネコンや不動産業界の側に立って必要な法律整備や規制をサボタージュしているからとしか考えられません。これが不動産関係の不正や隠蔽が未だになくならない根本的理由です。

国民の側にも不動産業界は昔から得体のしれない伏魔殿のような所との諦めがあり、被害にあっても生半可な不動産知識では太刀打ちできずに泣き寝入りになってしまうケースも多発しています。

業界や行政に自浄能力が期待できない以上、このドラマのように具体的な問題を一つひとつ洗い出し、おかしいものはおかしいと国民が声を上げて行くしかこの問題は解決しないという事です。

『正直不動産』はこうした日本の不動産業界の妖怪じみた前近代性に一石を投じた秀作であり、ぜひシリーズ化して政府の住宅行政の在り方にも切り込んでほしいものです。もっとも、政府自民党の支配下にある今のNHKにそこまで期待するのは、ないものねだりかもしれませんが。

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