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ブルース&ロックファンにはたまらない青春ノスタルジー・ドラマ『You May Dream 〜ユーメイ ドリーム』

放映時、見逃した方はこちら。
(※リンクのNO.2と3は、縮小画面。NO.1と2は多分重複があると思います。)

「シーナ&ロケッツ」を題材にしたNHKの福岡発地域ドラマ『You May Dream 〜ユーメイ ドリーム』(2018)は、私のようなブルース&ロック大好き人間には感涙ものの音楽ドラマでした。
登場人物たちが洋楽、特にブルースについて熱く語り合うドラマなんて、まさに前代未聞・空前絶後・驚天動地の出来事なのであります。

何しろ、サン・ハウスやマディ・ウォーターズ などのブルースマンをはじめ、ロネッツ、ボブ・ディラン、ビートルズ、チャック・ベリー、キンクス、アニマルズ、デイブ・クラーク・ファイブ、ローリング・ストーンズ、リトル・リチャード、ジョン・メイオール、ジャニス・ジョプリンなどなど、当時の洋楽シーンを代表する懐かしいビッグ・ネームが次から次へと出てくるのですから。

特に悦子(シーナ)とまだ学生だった鮎川誠が喫茶店や鮎川の下宿でブルースについて熱く語り合う場面なんか、よくぞ言ってくれましたと感謝感激、雨あられ。
その上、鮎川の下宿では、二人で何とキンクスの「You Really Got Me」のギター練習までしちゃうんですから、こりゃもうたまりません。

前半は、定石通り二人のなれそめが語られるのですが、シーナが家出する場面のバックにビートルズの「She's Leaving Home」が流れてからは、もう怒涛の快進撃。

二人の最初の出会いは、家出して繁華街をぶらついていた悦子が、かすかに流れてくるヤードバーズのブルースロックに導かれるように、ライブハウスに足を踏み入れたことがきっかけでした。
聞こえてきたのは、ボー・ディドリーの曲をヤードバーズがカバーした「アイム・ア・マン」。

演奏していたのは、後に悦子と シーナ&ロケッツ を結成することになる鮎川誠が在籍していたブルースバンド「サンハウス」。
ライブハウスの客に「知らない曲ばっかり。」とか「もっと踊れる曲をやれよ。」と文句を言われながらも、そうした声に挑戦するかのように次に鮎川たちが演奏したのが、何とエディ・ボイドの本格ブルース「The Big Boat」で、これまたびっくり。

喫茶店で悦子から「 Sonhouseっち、あのブルースマンのSon house からもらったん?」と聞かれて鮎川が「よう知っとんの!」と驚くと、「わたしブルース好きなんよ。」と言う悦子。
お互いの好きなバンドや歌手について話し込むうちにだんだん饒舌になっていく鮎川、悦子に興味を持ったことがありありです。

それもそのはず、当時ビートルズやGSのファンは別にして、ロック好きな女性自体が極めて少数であり、ましてブルースを好きな女性など、いくら探しても見つかりそうもない超レアな存在でした(ブルースに関しては、今も同じようなものでしょうが)。

そして、とどめの一撃が「あなたはキース・リチャーズよりかっこいい。」という決め台詞。
何しろ、ギタリストなら誰でも舞い上がって、メロメロになってしまうこと請け合いの殺し文句 ですから。                    この一言で鮎川は、ハートを完全に射貫かれてしまいます。

ブルースという共通項を媒介にして、二人の間に所謂「コミュニケーション回路」が通じ合った瞬間でした。

そして、始まった二人の暮らし。
この辺りは、もう四畳半フォークの雰囲気全開。
何と二人で銭湯から帰るシーンまで用意されていて、「やっぱりね。」と思わず笑ってしまいました。
さすがに「神田川」まで は、流れませんでしたが。

しかし、快調に飛ばしたのは、残念ながらここまで。
サンハウスの解散と シーナ&ロケッツのデビューまでが 語られる後半は、残念ながら明らかにトーンダウンの様相。
成功物語にありがちなお定まりのパターン展開から抜け出せず、やや一本調子のままで終わってしまった印象が強いです。


石橋静河はまだまだ演技者としては駆け出しですが、堂々とした主演ぶりで、やはりただ者ではないオーラを感じさせます。
両親の DNAをしっかり受け継いでいるからなのでしょうか。
存在感抜群で攻めの演技を熱演、映画「夜空はいつでも最高密度の青色だ」の演技は、決してまぐれではなかったと納得。

アクティブな悦子に対して、鮎川役の福山翔大は終始控えめで受けの演技に徹していましたが、こちらも好演。
石橋静河 を支え、しっかり引き立てていました。

なかなかいい味を出していたのが、わきを固める悦子の両親役の松重豊と徳永玲子。
初めのうちは無鉄砲な悦子の行動を心配しながらも、次第に娘を理解し、鮎川と悦子の背中を押すようになります。

それから、特筆すべきなのが懐かしい70年代ファッション。
悦子のボタンダウンのベルボトム・ジーンズや鮎川の着ていたサファリのハーフコート。                           もう、ノスタルジー感いっぱいで、二人のファッションからもあの時代の空気感が感じられて嬉しかったです。

さて、長々と書いてきましたが、このドラマの評価です。
青春ドラマとしては、なかなかよい出来だったと思うのですがどうでしょう、特に前半は傑作かと。
ただし、私の場合、どうしてもブルースというフィルターを通して観てしまい客観化しにくいため、ひょっとすると評価が大甘で、ひいきの引き倒しになっているかもしれません。                     

あの時代やブルース、ロック、シーナ&ロケッツなどに 興味のない人や 若い世代の人が観たら、果たして面白いと感じるのか、かなり評価が分かれるような気もします。

                                                                                                                        せっかくの機会なので、最後にドラマ「You May Dream 〜ユーメイ ドリーム」に出てきた歌手やバンドをリンクしてみました。

シーナ&ロケッツ「ユー・メイ・ドリーム You May Dream」1980

このドラマのモチーフになった曲。シーナ&ロケッツ2枚目のシングルで、最大のヒット曲。初めてこの曲を知ったのは、毎年正月深夜恒例の「ニューイヤーロックフェスティバル」。シーナが場違いな超ゴージャス衣装で出て来て、びっくりしました。

キンクス「All Day And All Of The Night」

「You Really Got Me」に続くヒット曲。                イントロのギターリフと重低音のリズムに一発でノックアウトされました。

キンクス「サニー・アフタヌーン」

リズムよりもメロディやハーモニーの美しさを強調し、キンクスがハードロックからロック・オペラ(石鹸歌劇)に路線変更していくターニング・ポイントになった抒情的な名曲。                     路線変更と共に、キンクスの人気も急降下していくことになるのですが。

デイブ・クラーク・ファイブ「ビコーズ」 日本における最大のヒット曲。

日本における最大のヒット曲。
当時としては珍しく自分たちの楽曲の権利を押さえたリーダーのデイブ・クラーク、何を考えたのか、長い間、曲の再発売を許さなかったので、今ではすっかり忘れられたグループになってしまいました。          全盛時代はビートルズやストーンズと並ぶ人気があり、米国へのブリティッシュ・インベージョンをけん引したのですが。

デイブ・クラーク・ファイブ「Thinking Of You Baby」

アニマルズ、アストラット・ジルベルト、ナンシー・シナトラなどが出演した学園映画「クレイジー・ジャンボリー」の中で披露した曲。      日本では、スパイダースがカバーしていました。

アニマルズ「朝日の当たる家」

アニマルズ唯一の全米ナンバー・ワン・ヒット。            エリック・バードンのボーカルもさることながら、アラン・プライスの間奏が、もう素晴らしすぎますね。                    イントロの有名なギターリフは、リードギターのヒルトン・バレンタインがある番組で「あれは、俺が発明したんだ。」と威張って語っていました。

アニマルズつながりで、
アラン・プライス・セット「I Put A Spell On You」

アラン・プライス・セットは、初来日公演直前に脱退したアラン・プライス
が結成したバンド。デビュー曲の「I Put A Spell On You」は、Screamin' Jay Hawkinsが1956年にリリースした名曲のカバー。洗練されたアレンジで、ブルースのカバーとしては珍しく全米チャート9位まで上昇しました。   アラン・プライスって、キーボードだけでなく歌もうまかったんですね。


イントロのエルモア・ジェイムズのブルーム風ギターリフをブルースロックにアレンジするとこうなるというよい見本です。

    こちらが、ご本家のエルモア・ジェイムズ「Dust My Broom」

イントロのスライド・ギターによるブルーム風ギターリフは、ブルースの演奏を志す人間なら、必ず一度はコピーするほど有名なフレーズです。

                                  ブルース界の大御所マディ・ウォーターズ「Got My Mojo Workin'」

1960年のニューポート・ジャズフェスティバルにおける演奏ですが、シカゴブルースもここまでくるともう限りなくブルースロックに近いですね。
1980年5月の唯一の来日公演には、当時、マディと行動を共にしていたジョニー・ウィンターも一緒に来てくれるかなと期待していたのですが、残念ながら実現しなくちょっとてがっかり。

B・B・キング「The Thrill Is gone」

マディ・ウォーターズと並ぶモダンブルース界の巨人 B・B・キングの代表曲。哀愁感あふれるイントロのギターリフが泣かせます。

ザ・ローリング・ストーンズ「down the road apiece」(1964)

ビートルズに次ぐ世界的メジャーバンドですが、初期は典型的なブルースロック・バンドでした。                       
原曲は、戦前に書かれた古いブギ・ウギ。ストーンズのブルースロック調アレンジが見事です。後半、キース・リチャーズのギターソロが素晴らしくて、いつまでも聴いていたいくらい。バックでリズムを刻むブライアン・ジョーンズのブギウギピアノもいい味を出しています。

EDDIE BOYD & ULLI'S BLUES BAND 「The Big Boat」

悦子が入ったライブハウスで、サンハウスが演奏した曲です。

サン・ハウス「My BLACK MAMA」

鮎川たちが、彼の名前をバンド名にするほど尊敬し、あこがれていたブルースマン。渋いです。
共演は、若き日のバディ・ガイ。

スパイダース「フリフリ66」

ドラマ冒頭、悦子たちが学校の教員に入場を阻止されるのが、スパイダースのコンサート。

「フリフリ66」 は、1965年版を改作した最も古いGS曲。
この頃はまだグループ・サウンズなどという呼び方もありませんでした。
日本発の本格ロック?という触れ込みで、アメリカでもこの英語版を発売しましたが、鳴かず飛ばずだったようです。
井上堯之の間奏がしっかりロックしていて、当時としては出色の出来でした。

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