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「金持ち優遇」と「地方自治の空洞化」を促進する新自由主義政策「ふるさと納税」

「ふるさと納税」は金持ち優遇の逆再分配政策

「ふるさと納税」は、正確には納税ではなく自治体に対する「寄付」の一種。「寄付」だから「返礼」が可能という立て付けになっている。

第一次安倍政権の総務大臣だった菅義偉が主導して2008年に創設した「ふるさと納税」の狙いの一つが、金持ちの税制上の優遇。

「ふるさと納税」は利用限度額が設定されており、世帯数の多い年収300万円帯では1万8千円だが、5000万円の世帯だと205万6千円、1億円世帯で374万3千円まで寄付が可能(夫婦2人の場合)。

節税効果については300万円世帯の場合だと5400円に過ぎないが、1億円世帯ともなると約112万円分が返礼品となって戻って来る。所得が高くなればなるほど得をする訳で、消費税と同じ逆進性が非常に高い。

要するに「ふるさと納税」は納税額が大きな高額所得者に対する事実上の「税金払い戻し制度」であり、トヨタ1社だけで6千億円もの巨額の税金が戻って来る輸出企業に対する「消費税輸出還付金」と同類の不公平税制なのだ。

2023年に寄付総額が初めて1兆円を超え、1000万人の国民が利用して年々規模が拡大している「ふるさと納税」は、所得格差を更に拡大する政府の狂った「逆再分配政策」の一つとしてしっかり機能している。

日本政府の異常な「逆再分配政策」については、こちらで詳述している。

地方自治の空洞化を促進する「ふるさと納税」

「ふるさと納税で地方創世!」「ふるさと納税で日本を元気に!」という謳い文句で創設された「ふるさと納税」だが、実は「地方創世」とは真逆の地方自治空洞化政策に他ならない。

まず寄付金の内、自治体が利用する仲介サイトなどの中間業者に30%近くが中抜きされる。中間業者にとっては、「ふるさと納税」は濡れ手で粟の美味しい返礼品ビジネス。何しろ向こうから鴨がネギをしょって来てくれるのだから。

次に返礼品の調達コスト、広告宣伝費、事務経費、送料などで更に30%が消えるので、自治体が実際に受け取れる地方税はたった40%しか残らない。つまり、地方自治体に入る筈の税金の内60%が自動的に蒸発して消えてしまう。

これは地方自治体が本来もっている徴税権を侵害し、地方自治体を棄損する事に繋がる。住民税の徴収は住民サービスに対する対価だが、「ふるさと納税」を利用する住民は住民税を負担していないにも関わらず、住民サービスは受けられるという不公平が生じる。

自治体間の競争も激しく、人気のある返礼品を揃える事が出来た自治体には寄付が殺到し圧倒的に有利になって大いに潤うが、お得かつ魅力的な返礼品を用意できない主に都市部の自治体の多くは激しい税金流出に見舞われる。

一応、減収分の75%は後日、地方交付税交付金から補填される仕組みになっており、その総額は約4800億円に上る。

だが、全ての自治体が補填の対象になる訳ではない。東京の23の特別区は裕福な自治体という事でこれまで交付金の対象団体になっていないため、一切の補填がないのだ。

例えば2023年の減収ランキング全国5位、人口当たりでは1位の東京世田谷区の減収額は110億円 (全体の約8%)に上る。国からの補填はないため減った税収分は丸々穴が開き、学校など老朽化した公共施設の改築や社会インフラの整備計画などの見直しを余儀なくされる程の大打撃を被っている。


作成「特別区長会」(クリックで拡大表示)

因みにランキング1位の横浜市の流出額は何と304億円に上る。横浜市は交付団体なのでその内75%は補填されるのだが、それでも損失額は76億円に達する。流出額が大きくなればなるほど損失額も増えて行くので、こちらもその分だけ住民に対する行政サービスが低下していく事になる。

「ふるさと納税」は地方自治体に「生き残り競争」を強いる「新自由主義政策」

「ふるさと納税」は安倍政権下で策定された新自由主義に基づく「地方財政改革」の基本方針のひとつである「競争主義改革」の具現化であり、地方自治体に過酷な「生き残り競争」を強いるものである。

その裏には、生き残り競争に敗れて住民サービスを維持できなくなった自治体を解体統合する「圏域行政化」に誘導する狙いも隠されている。

「ふるさと納税」は節税で金持ちを肥え太らせる代償として地方自治を空洞化し、日本社会全体の劣化を加速させる「日本衰退化政策」であり一刻も早く段階的廃止に着手すべきである。

「日本衰退化政策」と「新自由主義」については、こちらの記事で詳述している。

「ふるさと納税」の廃止運動を

日本一裕福な自治体であり都道府県で唯一国からの交付金を受けていない東京都は「ふるさと納税」に反対して離脱、「ふるさと納税制度」に唯一参加していない。

打撃の大きな自治体は東京都のように制度から抜けてしまえばよいのだが、実際にやるとなると政府の方針に逆らう事になり、単独だと総務省に睨まれて地方交付税交付金を減額されるリスクがある。苦しい財政状況を考えるとおいそれとは離脱できない。

そこで考えられるのが「集団離脱」。「みんなで渡れば怖くない」で、自治体同士が連携し合って一斉に「ふるさと納税」から集団離脱するという方法なら制裁もままならず、政府もお手上げだろう。

もう一つの方法は「ふるさと納税制度」に疑問をもっている自治体同士が連携して正面から廃止運動を起こす事だが、既にいくつもの自治体が批判や反対の声をあげている。参加していない東京都の税制調査会も「廃止を含め制度の抜本的な見直しを行うべきだ」との調査報告を答申している。

実際、「過度な返礼品競争」に対する批判の高まりには政府も抗しきれず、2023年10月から「ふるさと納税の経費は寄附額の5割以下とする」などの制度改革に追い込まれている。また、自治体間の競争が過熱化して問題になっている「ポイント付与制度」も2025年10月1日から全面的に廃止される。

自治体同士が相互に連携して住民に「ふるさと納税」の実態を知らせ、地域の住民を巻き込んだ全国な廃止運動を起こせば、政府もこれを無視することはできないだろう。

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気分転換に知られざるクリスマスソングの名曲を1曲。

大塚ジュンコ「素敵にジングルベル」

曲は抜群にいいし歌もうまいのに全くヒットしなかった曲は数多あるが、この「素敵にジングルベル」もその中の1曲。
伊藤さやかのカバーで、元歌と比べると編曲が遥かに洗練され、ブルースロック調もより強くなっている。転調して女性コーラスが入る後半の展開も秀逸。

作曲は長渕剛。初期には「涙のセレナーデ」「雨の嵐山」「巡恋歌」「順子」「ヒロイン」など抒情的な曲も歌っていたが、いつの間にかムキムキのマッチョマンに大変身。最近のコンサート会場では無数の日章旗が振られ、まるで国粋主義者たちの集会のような異様な光景を呈している。

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