「集団戦争ヒステリー」状態の日本~ウクライナショック・ドクトリン~
「軍備拡大・国防意識高揚大キャンペーン」
ロシアのウクライナ侵攻が始まってから、それに便乗した自民党国防族や維新、国民民主、安部元総理を中心とした極右界隈などによるマスコミを総動員した「軍備拡大・国防意識高揚大キャンペーン」が繰り広げられている。
その軍拡大キャンペーンに全力で協力しているのが、他でもないNHK。ロシアによるウクライナ侵攻開始直後から、連日、ニュース番組枠の半分以上をウクライナ戦争関係の報道に費やす過熱ぶり。
トップニュース扱いの上、タイトルにも大きくインパクトのある字幕を使うなど報道ぶりも非常に扇情的。定時のニュースの他に関連特別番組を何本も組むなど、異常な程ウクライナ関係の報道に力を入れて来た。
戦争開始から4か月以上経った現在も、ウクライナ関係のニュースを見ない日はないという状態が続いている。
進軍ラッパを吹き鳴らす「大本営発表」さながらのNHKの異常な報道姿勢は、この戦争に乗じて軍備拡大を煽り、国民の国防意識を高めて7月の参院選に勝利し、その後に予定されている「憲法改正」を容易ならしめようとする政府自民党の意向に100%沿ったものだ。
NHKや新聞などのマスコミが「鬼畜米英を膺懲せよ!」と叫んで、盛んに国民の戦争熱を煽った太平洋戦争直前の状況と酷似している。
「集団戦争ヒステリー」状態の日本国民
連日大量に流されるウクライナ報道を見てある日突然、「他国から一方的に侵略される恐怖」を毎日刷り込まれ、その危機感から「集団戦争ヒステリー」状態に陥り平常心を失っている今の国民世論だと、防衛予算倍増などはすんなり通ってしまう可能性が高い。
それどころか、好機到来とばかり「敵基地及び指揮中枢への(先制)攻撃能力の保有」、「米国との核兵器共有」、「原子力潜水艦保有」、「台湾有事の際は日本も参戦」、「日本の核武装化」など、これまで憲法と世論の制約で出来なかった過激な軍拡をこの機に乗じて一気にやってしまえと叫ぶ勢力の勢いが増している。
防衛予算倍増が実現すれば、日本は予算額で現在の9位から世界第3位の軍事大国になる。現在進行中の軍拡大キャンペーンは、まさにウクライナ戦争を利用した「ウクライナショック・ドクトリン」(惨事便乗型資本主義または火事場泥棒資本主義)そのもの。
「ショック・ドクトリン」という概念について
カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインは2007年にその著書『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』の中で、「惨事便乗型資本主義=大惨事につけこんで実施される過激な市場原理主義改革」の危険性とそれを実行する米国の新自由主義者たちのあくどいやり口を告発している。
地震や津波、台風、大洪水、大火災などの自然大災害、戦争、クーデター、テロ、疫病の流行(今がまさにこれ)、原発事故、社会経済体制の急変、バブルの崩壊などによる社会の混乱に付け込んだり、またはそれらを意図的に引き起こしたりして「経済侵略」するのがネオリベやグローバリストたちの常套手段。
危機的状況に直面した人々がパニックに襲われて平常心を失い、茫然自失している隙をついて平時では到底実現不可能な過激で極端な新自由主義的経済改革や政治体制変革を強行する事をナオミ・クラインは「ショック・ドクトリン」=惨事便乗型資本主義(ディザスター・キャピタリズム)と名付けた。
「惨事活用資本主義」、「災害資本主義」、「火事場泥棒資本主義」、「ショック療法」とも呼ばれるが、どれも同じ意味。
米国の新自由主義経済学者ミルトン・フリードマンを祖とするシカゴ学派から学んだネオリベたちは、世界各地で人事的手段、軍事的手段、経済的手段、心理的手段などを駆使して「火事場泥棒資本主義」を実践し、その有効性を確信した。
彼らは、1973年のピノチェトによるクーデター後のチリやフセイン政権崩壊後のイラク、国際貿易センタービルを倒壊させたアメリカ同時多発テロ事件、2005年、米国東部に大被害をもたらしたハリケーン・カトリーナなどの大参事を利用した「ショック・ドクトリン」によって、その国や地域の経済社会体制を彼らの望む方向に変える事に成功した。
ただし、自然発生的な大災害は自らの手を汚さずに済むので一番好都合だが、自然任せではいつ起きるか分からない。ならば、手っ取り早く戦争やクーデターで人工的に同じ事態を引き起こしてしまえばいいのだ。
ドル経済圏離脱を意味する「アフリカ共通通貨制度」を提唱し、米国にとって目障りだったリビアのカダフィ殺害に代表される北アフリカ・中東の「アラブの春」、ウクライナの「オレンジ革命」や「マイダン革命」などは米ネオコンやCIAなどを中心としたネオリベ勢力が仕掛けたショック・ドクトリンである可能性が極めて高い。
湾岸戦争もフセインが大量破壊兵器を所有しているとのニセ情報や嘘八百だった「ナイラ証言」をでっち上げて米国民の反イラク感情を高めた上で米軍を中心にした多国籍軍を送り込み、西側の言う事をきかないフセイン体制を打倒したショック・ドクトリンだった。
ほとんど知られていないが、実は、日本の「バブル崩壊」も人為的に引き起こされた「惨事便乗型資本主義」の実例なのだ。
北朝鮮が長距離ミサイルを発射する度に政府が発令する「Jアラート」も全く同じ構造。北朝鮮が米軍の占領下にある日本を狙うなどあり得ない事は百も承知の上で、わざとTVの通常番組を中断。アナウンサーが繰り返し危機を煽る大げさで煽情的な臨時ニュースを長時間放送させたり、全く無意味なミサイル避難訓練をやらせたりする事で国民が対外危機に怯えるように仕向ける脅しの手口。
NHKが主導する「ウクライナショック・ドクトリン」のやり口
3年前からの「コロナショック・ドクトリン」に続く今回の新たなショック・ドクトリンの手法は、外国の大惨事を最大限に利用して国民の意識を非日常的な恐慌状態に陥れる事で、日本の軍事大国化と憲法改正を一気に実現してしまおうという火事場泥棒。
その先陣を切っているのが、上に書いたように「皆様のNHK」。 ロシア軍のミサイル攻撃で住宅を破壊されたウクライナ市民の悲惨で生々しい状況を連日、TV映像で長時間放送。視聴者がショックを受けた頃合いを見計らって高橋杉雄や兵頭慎治などの防衛省防衛研究所研究官を登場させ、なぜ、ウクライナが侵略されたか解説させる。この二つが常にセットになっている所がミソ。
政府のプロパガンダを広める扇動者である防衛研究所研究官を入れ代わり立ち代わり何人も堂々と登場させるのには正直驚いたが、これこそNHKが報道の中立性などかなぐり捨てて、政権の犬になった事の何よりの証しだろう。
(以前は、田岡俊次や小川和久などの民間軍事評論家が頻繁に出演して解説していたものだが。彼らは今何をしているのだろう。高齢で引退したのか?)
防衛研究官曰く「ロシアは防衛力に乏しいウクライナなど、3日間程度で占領できると予測して侵攻開始した。」「戦争が長引いているのは予想以上にウクライナの軍事力が強力で、国民の戦意も高いから。」云々。
防衛研究所研究官などの「軍事専門家」たちは「軍事力が弱いから侵略された。」(「強力な軍事力を保持していれば侵略されないし、侵略された場合でも押し戻す事ができる。」)と言わんばかりの認識を国民の間に広めたのだ。
ある日突然、ロシアが一方的にウクライナに侵攻したと思っている国民が多いが、降ってわいたように突然戦争が起きるなどという事はあり得ない。真珠湾攻撃に至るまでの日米交渉の経過を見るまでもなく戦争には必ずそこまでに至る歴史的経緯や理由があり、開戦前に行われていた平和的外交交渉が失敗したからこそ、武力による外交交渉である戦争が始まってしまったのだ。
ソ連崩壊による冷戦終結後のNATOの東方拡大への露骨な動きやロシアのクリミア侵攻の原因になった2014年のウクライナ「マイダン革命」など、過去のNATO及びウクライナとロシアとの関係を見れば、「突然一方的に侵攻した」だの「軍事力が弱いから侵略された」だのという言説が誤り、または意図的デマである事はすぐに理解できる事だ。
「軍事力が弱い国」など、ロシアの周辺には山ほどある。軍事大国アメリカがこれまで起こして来た数々の外国侵略に比べれば、ソ連・ロシアなどその足元にも及ばない。
しかし、ウクライナをめぐるこれまでの歴史的経緯や副大統領時代のバイデン(戦争屋でネオコンや巨大軍産複合体の代理人)が当時、ウクライナで何をしていたかなどの重要な情報は、TVでは全くと言っていい程報道されない。
日本国民は連日、執拗な報道によって隣国ロシアの脅威を刷り込まれて不安に駆られており、防衛研究官などが振りまくプロパガンダを何の疑問を持たずに受け入れてしまう素地ができ上っていた。
こうして、「日本を侵略から守るためには防衛力の大幅増強が必要」との世論が一気に形成されて行く。国民が侵略の恐怖で正常な判断力を喪失している間に世論を右傾化させ、大軍拡を既成事実化してしまおうというショック・ドクトリンがものの見事に効果を上げたのだ。
国民が一時の「集団戦争ヒステリー」状態から覚めて冷静さを取り戻し、「防衛費倍増って、巨額の予算はどこから持ってくるんだ?」「消費税をまた上げる気か?」とようやく疑問を持ち始めても、参院選で与党やその補完勢力である極右強欲新自由主義政党「維新」を勝たせてしまった後ではそれこそ「後の祭り」で最早取り返しがつかない。
「ウクライナショック・ドクトリン」のもうひとつの狙い
さて、今回の「ウクライナショック・ドクトリン」の狙いは軍備拡大、参議員選挙の与党勝利による憲法改正の他に実はもうひとつある。
安部元総理などの極右周辺は「戦後最大のチャンス」とばかり大盛り上がりだが、このまま軍拡が止まらず、好戦的な勢力の政治的圧力が増して行けば日本の周辺国も刺激されて、心穏やかではいられなくなる。
防衛費倍増どころか、「核兵器共有」、「原子力潜水艦保有」(国民民主玉木代表)、「核武装化」などと過激な軍備拡大をエスカレートさせて意図的に周辺国を挑発。わざと関係を悪化させて対外危機を煽り、求心力を高めるのは腐敗した政権と極右界隈の常套手段。
更に対外危機を煽って防衛予算が大幅に増額されれば、高額な米国製型落ち兵器の言い値大量爆買いを大幅に拡大できるという点も見逃せない。現在の2倍の巨額の税金を貢納して宗主国である米国を満足させ、同時に国民の関心を国内問題から外に逸らす事もできるというまさに一石二鳥。
要するに「仮想敵国」を作っておかないと政権が困るのだ。わざわざ相手を挑発して関係が悪化するように仕向けて、求心力と防衛予算を増やすという古典的なマッチポンプ。
「地獄の3年間」がやって来る
日本の今後を見据えると7月の参議院選挙の後、3年間は国政選挙が予定されていない。与党にとっては所謂「黄金の3年間」だが、国民にとっては「地獄の3年間」になる。
参院選で与党が勝利して防衛予算倍増が通った場合、政府はPB黒字化堅持を掲げているので、社会福祉予算などを削ると共に不足する分は増税で賄おうとする可能性が高い。
加えて、失敗した「アベノミクス」のツケによる円安不況、実質的国民負担率(現在56%)の更なる増大、そして、実質賃金低下や「マクロスライド」による年金減額下での物価高騰という「スタグフレーション」の三重苦が国民生活に襲いかかる。
憲法9条は日本に侵略戦争を起こさせないための歯止め
極右陣営は調子に乗って「憲法9条で日本の安全は守れない」と憲法9条や護憲を掲げる政党に対する攻撃を強めているが、これは9条を「改正」するための口実、言いがかりに過ぎない。
なぜなら、「憲法9条」は、日本を非武装国家にして二度と対外侵略戦争をさせないための歯止めの条項で、日本の安全保障との直接的関係はないからだ。
米軍の子分として海外で戦争がやりたい勢力にとっては、足枷になっている憲法9条が邪魔で仕方がない。だから筋違いの難癖をつけて9条を攻撃し、無理やり「改正」へと持っていこうとしているのだ。
政府与党が狙っている「憲法9条改正」が実現した暁には、日本は「専守防衛」や「非核三原則」などの建前さえかなぐり捨てた「フルスペックで海外戦争ができる国」になる。
日本が交戦権を放棄し軍備を持たないのは、憲法制定当時、GHQ内の「理想主義ニューディーラー」たちが将来、占領状態から脱して「独立」した日本が加盟するであろう「国連」によって日本の安全が保障されると構想していたからだ。平和国家日本の安全は国連が補償するから、軍備をもつ必要はないという組み立てだった。
ところが、その理想に反して拒否権をもつ国連の常任理事国同士が対立して東西冷戦状態になり、国連による安全保障自体が機能不全に陥ってしまったのが日本の悲劇の始まりで、特に護憲陣営は肝心の国連安保理が機能しないというジレンマを抱えたまま理想と現実の狭間で苦慮している感がある。
また、当時の米国タカ派の思惑としては、対ソ対中戦略のための拠点(アジア諸国の共産化を阻止する防波堤或いは不沈空母)として事実上このまま日本を米軍の永久占領状態にしておくメリットも考慮していたはずだ(実際、そうなっている)。
米軍が日本に居座っている限り他国は手を出せないから軍備は必要なく、国防面でも日本を全面的かつ半永久的に米国に依存せざるを得ない状態に置くという筋書きだった。
その後の日本の再軍備は、米ソ東西冷戦の激化、中国国共内戦と国府側の敗退、朝鮮戦争などの国際情勢の緊迫化による逆コースに伴って米国側の要求で進められてきた。事実上米国が主導して作られた平和憲法を米国は自国の都合で踏みにじったのだ。
また、再軍備当時、日本は米国が主導するGHQの占領統治下にあり、しかも「レッドパージ」で日本共産党など強硬な反対勢力はほぼ一掃されていたのだから、米国がやろうと思えば9条「改正」は容易だったはずだ。
だが、あえてそれをやらなかったのは、わざと自衛隊を宙ぶらりん状態に置いて日本の国論を二分させる。つまり日本を自衛隊「違憲派」と「合憲派」の二つに分断してわざと対立させ、日本国民が一致団結して対米批判・対米独立の方向に向かわせないようにする思惑(謀略)からだったとするのは考え過ぎだろうか。
恐ろしいのは、自民党が喉から手が出る程欲しがっている「緊急事態条項」が憲法に追加された場合で、「日本国憲法」は事実上停止状態になり有名無実化する。
そうなれば、ヒトラーが「緊急事態条項」と同じ独裁権を持つ「全権委任法」を使ってヴァイマル共和国を「ナチス第三帝国」に変えたように、日本が今とは全く別の「ディストピア軍事国家日本」に作り変えられてしまう事は確実だ。
このままだと、7月の参院選が現行憲法の下で行われる「最後のまともな国政選挙」になってしまうかもしれない。
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