映画「悪魔と夜ふかし」の感想
ずっと楽しみにしていた映画、「悪魔と夜ふかし」を観てきました。
ネタバレありで感想を書くのでまだ観ていない方は注意してください。
面白かったです。
70年代のテレビ番組の生放送という設定がとてもいい。
ざらついた質感の映像、生で演奏する楽器隊、話術に長けた司会者とさまざまなゲストたち。
映画のあらすじは公式のやつを見てください。
わたしが説明するよりよっぽどいい、当然ながら。
この映画の良いところ、つまり嫌なところは、
「絶対に良くないことが起こる」
という予感をずっと感じ続けなければならないところです。
なにが起こるかは想像がついているはずなのに、
じっとりとした嫌な空気感が肌を離れないのです。
ああ嫌だ、逃げ出してしまいたい、とすら思いました。
わたしはわりと怖いのが平気なのですが、
この映画は怖かったです。
「怖くなかった」という意見も見かけましたし、
それはそうだとも思います。
ひとつひとつの場面はそこまで怖くないのです。
ノイズ、壊れる照明、割れるガラス、鏡に映りこむ何か……。
ひとつひとつはホラーでよくある手法なのです。
しかしそれらがただ、起こり続け、しかし誰も止められず、というかあえて止めずに、物事が進んでゆく。
ここに怖さがあるのです。
ひたひたとしのびよってきている何か良くないものが、
こちらをじっと見つめていて、
もう逃げられはしない。
そんな緊迫感がありました。
そしてラストの悪魔大暴れにつながるのですが、ここは見ていて楽しかったです。
特にオカルトを信じないと言い張って、自分を認めさせたら大金が書かれた小切手をくれてやると言っていた男が、
悪魔に命乞いをして小切手を差し出すシーン。
思わず笑ってしまいますよね、滑稽で。
でも怖かった。
わたしはこれを「楽しんで」見ている。
観客として。
観客だから。
その場にいないから。
そうやって外側から「楽しんで」見ているわたしのような人間が、
悪魔を召喚するきっかけになってしまったのだ。
主人公のジャック・デルロイは、悪魔と契約をした。
自分の出世のために。視聴率のために。
そのせいで妻を失った。
そして、自分の番組を、自分の番組のスタッフを、ゲストを、観客を、失った。
犠牲が必要だったから。その代償を払うために。
すべてを失う代わりに視聴率を得た主人公はうつろにつぶやきます。
「目を覚ませ、夢見る人よ……」
これは夢だ、お願いだから目が覚めてくれ、という意味でしょう。
そして、彼は夢を追いかける人でもありました。
その夢が最悪のかたちで叶ってしまったのです。
もう夢は覚めない。彼のそばで冷たく転がっているだけ。
映画が終わったとき、わたしは自分でも驚くほど震えていました。
面白かった。でも怖かった。とにかく嫌な、不安になる、とても良くない……。
映画館から出て、外の陽の光にさらされてようやくわたしは生きた心地がしました。
こんなにいい天気で、空は青く晴れ渡っている。
でも、まだ何か嫌なものが後ろからついてきている気がする。
その違和感は、電車に乗って家に帰るまでずっと続いていました。
実を言うとなぜあんなに怖かったのか説明ができないのです。
別に、「視聴者を巻き込んで呪う」系のものでもありませんでしたし、
映画が終わってしまえばなにも怖いことはないはずなのです。
それでも、今でも「悪魔と夜ふかし」のワンシーンを思い出すとぞっとします。
カメラ越しにこちらを見つめ続ける少女、視聴率のことだけを考えている司会者の空虚な瞳、うさんくさいゲスト、バカバカしいジョーク、楽器隊、呪いのアイテム、キャッチーなテーマソング。
何かから目を背けるための娯楽、楽しい地獄、楽しい惨劇。
何が問題だったと思う? 誰が悪かったのかな?
どうしてああなったと思う? 何が間違っていたのかな?
人は何かから逃れるために娯楽を求めるよ。
そして、その代償はあなたの命。
悪魔がそうささやいている気がして、わたしはそっと自分の耳をふさぐのです。