見出し画像

みとんサンはいじわる


夏休みが終わり、ため息をつきながら職場に向かう。部署のドアを開けると自分のデスクが見えた。思っていたより片づいている。もっと、書類や新聞が所狭しと置いてあると想像していた。きっと書類などを置いていった人が、その度に少しだけ整理してくれていたのだろう。デスクに置いてあるのはそれだけではない。同僚が過ごした夏休みが垣間見えるお土産の数々が置いてあった。クッキーや餅菓子、おまんじゅう、味付けのり‥何処かに遊びに行って行った先で職場の同僚の私たちのことを思って買うお土産。思われた側の私はそれらを見てちょっと嬉しくなる。

まずはデスクの上を片付ける。新聞は4紙が10日分。スクラップが必要な記事があるかないかを簡単にチェックし古い日にちのものと入れ替える作業。そこに同僚男性がやって来る。

「これ、旅行のお土産です。皆さんに配っていただけますか」

はい、喜んで。お安い御用。
袋の中には私でも知っている北海道の有名店のクッキーが入っていた。思わず、

「わわっ、ありがとうございます」

と声に喜びが出てしまう。女子はおまんじゅうよりやっぱり洋菓子。グッジョブだよ、青年。
お菓子を配り終えた頃にまたも、ダンボール箱を抱えた同僚がやってくる。ダンボールからはとうもろこしのヒゲがのぞいていた。

「すみません、ちょっと大量で」
「わわっ、これどうしたんですか?お家で獲れた?」
「いや、実はうちの奥さんが趣味で農業やってまして、それで収穫してきました。ちょっと大量なんですが欲しい方に持って帰ってもらえたらと思って」
「わぁ、すごいね。ありがとう。」

確か奥さんは、イケイケのいまどき女子だと聞いていたが、農業女子でもあったか。
見ると、ダンボールにはとうもろこしだけでなく持って帰る用のビニール袋まで入っていた。こういう心遣いが出来る人はモテる。ナイスだよ、青年。
家で獲れた野菜を職場に持って来てくれる人は何人かいる。野菜とか果物は一気に大量に出来てしまうので、家族だけでは食べ切れないことがあるらしい。持って来る方は「こんなもの持って行って、迷惑かも」と思うらしいが、野菜をスーパーで買っている我が家のような人たちにとってはありがたいことこの上ない。きゅうりでもお茄子でもじゃがいもでもとうもろこしでも、なんだって嬉しい。

そしてそれらを皆さんに配って捌かすのも私の仕事のひとつ。せっかく持って来てくれた物を余らせて置いておくのは申し訳ないから早めに嫁ぎ先(もらってくれる人)を見つけたい。
とりあえずビニール袋に2本入れてまずは管理職のところへ持って行く。

「◯◯さんからとうもろこしを大量にいただいたので、いかがですか?」
「おーそうなの?へぇー」
「2本だけじゃなくまだありますよ」
「へぇ、そんなに?うんうん、ま、とりあえずまた後で」

私はモヤモヤした。また後で、とはどういうことか。何故今じゃいけないのか。欲しいならビニール袋を受け取るだけですむ話。ま、いっか。とうもろこしは20本以上ある。皆がみんな欲しいともかぎらないので、とりあえず声をかけて周る。
とうもろこしというのが珍しくて良かったのか、意外と皆さん断らない。ビニール袋に2本ずつ入れたとうもろこしはどんどん売れていく。管理職のことが気になるけど、欲しい人にはあげれば良い。私のとうもろこしじゃないんだし、置いといても多分どんどん売れちゃうだろうから、売れたら売れたで良いんじゃないかと。
それにちょっといじわるな気持ちもあった。さっき感じたモヤモヤだ。

せっかく一番に声をかけてあげたのに素直に喜ばずに微妙な感じのまわりくどい言い方をしたことを後悔することになるかもよ。
あーあの時すぐにもらっておけば良かったって後から思っても遅いかもよ。
いやむしろ、後悔すれば良い。

結果、とうもろこしは全部売れた。私もちゃっかり2本いただいた。
しばらくして管理職がやって来た。

「先程はすみませんでした。で、とうもろこしは‥」
「あ、すみません。全部無くなっちゃいました」
「あ‥そうですか」
「すみません、ごめんなさい」
「いやいや、皆さんが喜ばれたならいいです」
「‥すみません」

管理職は、悪気はなかったのだ。それは分かっていた。
私は、自分がもらった2本を出そうか迷ったけど、多分出しても「それじゃあいただきます」とはならないだろう。いや逆に「それじゃあ遠慮なく」って受け取られたらそれはそれでますますモヤモヤする。だからやめた。

管理職が今回のことを教訓にしてくれると良いなとは思うけど、自分のいじわるさに余計モヤモヤしてしまうのだった。


いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集