好きを手に入れる
あれは小学校2年生の時だったと思う。その年のクリスマスプレゼントは歌謡曲のシングルレコード4枚とニットの帽子だった。「このレコードが欲しい」と言った覚えはなかったので逆に「え?なんでレコード?」とサプライズ的な驚きがあったことを覚えている。レコードと帽子の組み合わせも、よくわからない。が、私はそのレコードがとても気に入った。それまでに聴いていたレコードは子ども向けのアニメの主題歌や童謡みたいなものばかりだったので、初めて手に入れた大人の音楽という感じがして、よく聴いていた。
父がピアノの先生だったので小さい頃から音楽が身近にあった。家にはクラシックのレコードが沢山あって、その中から好きな曲だけを聴いていた。私はバレエを習っていたので、チャイコフスキーのバレエ曲はよく聴いた。結局バレエで『白鳥の湖』や『くるみわり人形』を踊ることはなかったけど。その代わり、それらの曲をピアノで弾くことが楽しみだった。家にはピアノ楽譜も沢山あった。子どもの手ではなかなか曲の最後まで弾くのは大変だったけど、さわりの部分だけでも弾けると満足していた。
少し大きくなると、今度はポールモーリアに出会った。レコードを聴き、ピアノで弾いた。本気でピアノを習っていない私にはとても難しい楽譜だったが、好きな曲をちょこっとでも弾けると嬉しかった。父がピアノの先生だからと言って、子どもの私(や弟妹)がピアノが弾けるかというと案外そうではない。兄弟でピアノが弾けるのは私だけだ。それもちょこっと齧った程度で、後は自己流だ。それでもちょこっと齧ったおかげで好きな曲を弾く楽しみを手に入れることができた。小学校から中学校の頃は、アイドル雑誌の付録の“歌本”を見ながらよく弾き語りをした。伴奏はコードを見て適当に付けていたが、好きな歌を伴奏付きで歌うのはとても楽しかった。ピアノを習っといて良かったと思った。
今でも私は楽器屋さんでピアノ楽譜を眺めるのが好きだ。歌謡曲やドラマや映画音楽の楽譜をよく買う。楽譜を見るとなんとなくその楽譜が“気持ち良い”かどうかがわかる。絵面というか、楽譜面(がくふづら)?簡単すぎても難しすぎてもダメ。その丁度良い感じ。そして、「ここの部分ではこういう感じの伴奏」という自分なりのイメージに合った楽譜じゃないと、気持ち良くない。そういうのが“見える”のもピアノが少しだけ出来るおかげだ。
ピアノって、結構な割合で小さい頃習ってたっていう人、多い。でも大抵は「つまんないからやめた」と言う。私みたいに身近に、わからない時だけちょこっと教えてくれる人(父)がいたのはとても幸せなことだ。おかげで大人になった今でも流行りの曲を家で弾き語る、というあまり人には言えないけど自分的には超楽しい趣味を持つことができている。恥ずかしいからあまり人には言えないけどね。