きらきらうつくしい記憶だけ掬い取れますように
この人は、どうしてこうも苦しい話ばかり書くのだろう。離婚、元夫からのDV、毒親、親子離散、貧困、容姿コンプレックス、10代のシングルマザー、若年性アルツハイマー、親に捨てられた子ども、男性恐怖症、夜逃げ、シェルター、…どれもが、他人に隠したいことばかり。誰にも知られたくない不幸。これらのどれか1つのキーワードでいくつも物語が出来そうなもんだ。ところが、これらが全部1つの物語の中に含まれている。どんだけ不幸な話なんだ?
星を掬う/町田そのこ
この本を読む前に読んだ本の主人公は認知症を患うおばあちゃんだった。いろんなことを忘れてしまう病気、忘れるというのは消えてしまったわけではなく、一度覚えたことは体の奥深く眠っているだけだ。知らないと、忘れてるは、同じようで違う。
本作に出てくるのは、若年性アルツハイマーを患う女性。やっぱり記憶は消えてしまったのではなく、どこか頭の中の引き出しの、奥の奥にある。
自分も辛いが、自分がそんなだと周りはもっと辛い思いをするはずだと考えると余計に辛くなる。だから、先回りして、“意志”を手紙に書いていた。その意志とは、自分で下の世話が出来なくなったら施設に入れて欲しいというもの。
こういうのって、周りはすぐには受け入れられないことがある。まだそこまで悪くないんじゃないかとか、私たちがお世話が出来る限りはお世話をしたいとか。だけど、それは傲慢だ。
嫌な言い方だけど、これを読む側の気持ちの揺れを先の先まで予測している。こんな風に言い切れるプライド、カッコいいかも。
同じ、忘れてしまう病気でも、年をとっての認知症と、若年性アルツハイマーでは周りの受け止め方が大きく違う。諦めと後悔。当たり前と予想外。だけど忘れちゃいけないのは、どちらも記憶を無くしたのではなく、どこかに隠れているということ。あるのだ、経験や思い出や、優しさや喜び。
どうせ全部を思い出せないのなら、せめて良いことだけを。悲しみや苦しみは忘れていいから、キラキラ輝きを放つものだけを思い出して掬い取って欲しい、周りのそんな願いが詰まったタイトル。良き。