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『マリアビートル』が『ブレット・トレイン』になったら思ってた以上に伊坂幸太郎だった件


『マリアビートル』、私が大好きな伊坂幸太郎さんの小説だ。だけど私が誰かに伊坂をオススメする時の最初の1発目にこの作品を推すことはまず無い。何故かって?それは血がいっぱい出て人がいっぱい死ぬからだ。どうしても伊坂幸太郎の面白さを知ってもらいたい時にわざわざこういう作品を選んでオススメはしない。そういうのは伊坂幸太郎の面白さが分かってからで遅くない。


だから、そんな小説が原作のハリウッド映画の制作が決まったというニュースを聞いた時には、驚きと同時に「何故、それ?」と思った。
だけど、観てわかった。これが原作は正解だった。

『ブレット・トレイン』


日本の新幹線にいろんなタイプの殺し屋が集結して闘うドタバタ活劇だ。原作を読んだ時新幹線車内の乗客の位置関係が頭の中でぐちゃぐちゃになりそうだったので、私は図を書きながら読んだ。この人がこの車両にいる時、別の車両では何が起きているのか?そこから誰がどこに移動したのか?そういういちいちがとても重要な話だった。新幹線は一方向(前と後ろ)の移動しかない。人が逆方向に動く時には何処かですれ違う。どうすれ違うのか、すれ違わないのか。


映画になって良かったことの一つが、名前だけじゃなく顔で認識できるから今その人が置かれた状況、特に今その人がどれくらいヤバい状況なのかが一目瞭然なところだ。図が無くてもイケる。映像化のメリットだ。
『きかんしゃトーマス』の話は原作にも出てくる。これトーマスだからそのままハリウッドでも通用したんだな、って思ったらそのチョイスをした伊坂さんの先見の明みたいなものを感じる。ミカンとレモンの会話の掛け合いは伊坂作品特有の“おかしみ”を感じて楽しすぎてニヤけてしまう。ミカンの印象的な使われ方も、カラクリを知って本来なら泣いても良いシーンだけど、思わずガッツポーズしちゃったし。東京オリンピックのマスコットキャラクター“ソメイティ”の偽物みたいなキャラクターが出てきたり。“quiet”車両で小競り合いをしてたら乗客のオバサンに「しーっ、静かに」って叱られたり。入院している人質を狙うために病院にスタンバイしている殺し屋が見るからに悪そうなビジュアルでそんなのそこにいるだけで怪しすぎるやろーってひとりでツッコんだり。


とにかく楽しかった。これが“原作・伊坂幸太郎”じゃなかったとしてももちろんめちゃくちゃ楽しめたはずだけど、大好きな伊坂さんの小説がハリウッドで映画化されて、主役はあのブラッド・ピットだし、セットとかめちゃくちゃ作り込んであるし、キャスティングが絶妙だし、“トンデモ日本”な風景はそれだけで面白いし、そして原作が思ってたよりも忠実に映像化されていて、これが楽しくないわけがない。


音楽も良い。残虐なシーンの時に明るく軽妙で可愛いらしい曲が流れるので、残虐なシーンがそれほどひどく思えなかったりする。中盤にカルメンマキさんの『時には母のない子のように』が聞こえてきた時には驚いたけど、後半に麻倉未稀さんの『ヒーロー』が流れるシーンでは私は胸が熱くなって泣いてしまった。皆ボロボロになりながらも力を合わせて敵に立ち向かうシーン。こういうのに私は弱い。観終わってエンドロールを眺めながら、『ヒーロー』の原曲はボニー・タイラーの曲だから、日本での公開時だけ麻倉未稀バージョンだったのかな、と思ったら、エンドロールにきっちり麻倉未稀さんの名前があった。世界中であの『ヒーロー』が流れているのかと思うとまた胸アツになる。日本人はあの曲を聞くと『スクールウォーズ』を思い出してしまい、胸が熱くなる。


もう途中からしっちゃかめっちゃかな展開で、『名探偵コナン』の映画を観てる時によくある「いやもう、それ今、死んだでしょ」的なあまりに危険で現実味のない展開の連続だし、結末も私が知っている終わり方ではなかったけれど、なんとも胸がすく終わり方だった。伏線回収は伊坂幸太郎の真骨頂だが、そういうとこもちゃんと踏襲してくれてた。ホントに良いモン観たなぁって感じで、だからもう一度観に行きたいと思っている。次、観に行ったら、ストーリーより駅とか新幹線車内のディテールとか街中の看板とか、そういうとこをじっくり観たい。なんか面白い発見があるかも。


そして、この作品をハリウッドに売り込んだ出版エージェントさんに大きな拍手を送りたい。


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