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勝手にキャスティングごっこ


小説を読みながら頭の中で、小説の登場人物を実在の俳優さんに置き換えてそのイメージで読んでしまうことがよくある。多くは、人物のキャラクター設定(職業、性格)が具体的な作品。それが実際に映像化されたとして、私があてはめたキャスティングが当たってた、なんて事はない。ないけど、「私が考えてたキャスティングの方が人物像にピッタリだし」とか「私のイメージでは、なんか違うんだよなぁ」なんて負け惜しみを言ったりしている。いや、別に勝ち負けではないけど。


前に、凪良ゆうさんの『流浪の月』を読んでいる時のふみは、私の中では中村倫也さんだった。でも実際映画化が決まったら、松坂桃李さんがふみ役だった。


職場で、最近よく本を読んでいる同僚(男性)がいる。買って来た本を、デスクに積んでいるのだが、タイトルからして面白そうな本ばかりなのだ。『奇書の世界史』とか『ヴォイニッチ 写本の謎』とか『アンサーゲーム』『還らざる聖域』‥etc『テスカトリポカ』もその中にあって、ちょうど私も読んでいる最中だったので、シンパシーを感じて、それ以来時々本の話をするようになった。ある日突然彼が「これ、託していいですか」と手渡してきたのが、『始まりの木』だった。私は、彼はてっきりノワールとかミステリーが好きなんだと勝手に思っていたのだが、彼が託してきたその本は、大学で民俗学を教える准教授・古屋ふるやが主人公の、優しくてちょっと不思議な物語だった。託す=オススメという意味だと思ったので、ちょっと意外だった。


始まりの木/夏川草介

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藤崎千佳は、東京にある国立東々大学の学生である。所属は文学部で、専攻は民俗学。指導教官である古屋神寺郎は、足が悪いことをものともせず日本国中にフィールドワークへ出かける、偏屈で優秀な民俗学者だ。古屋は北から南へ練り歩くフィールドワークを通して、“現代日本人の失ったもの"を藤崎に問いかけてゆく。学問と旅をめぐる、不思議な冒険が、始まる。
“旅の準備をしたまえ"(小学館サイトより)

この小説は、登場人物のキャラクターが実に良い。主人公の古屋先生はとにかく偏屈で毒舌で、出世には興味がない。足が悪く杖をついているが、民俗学探究のために全国に足を運ぶ。彼のバディ役は大学院の女子学生・藤崎。美人だが古屋からはいつも毒舌を浴びせられムカつきつつ、何だかんだ彼の魅力に惹かれている。だからこそ、民俗学という、就職の役には立ちそうにない、の院生をやっている。


読み始めてすぐに私の頭に浮かんだキャストは、長谷川博己さんと、小芝風花さん。長谷川さんは以前観たドラマ『デート〜恋とはどんなものかしら』で演じた自称・高等遊民の引きこもり役のイメージが、民俗学者の偏屈さにリンクした。小芝さんは、真面目で一見しっかり者のようで実は天然、みたいなイメージが、助手役に合うと思った。他にも、先輩院生に中川大志さん、教授役は小日向文世さん、お寺の住職は國村隼さん、他大学のライバル教授に吉田鋼太郎さん、‥etcてな具合に、いろんな俳優さんが思い浮かんだ。


ところが、読み終えてみると、長谷川さんではなく、井浦新さんの方が合う気がした。同じ民俗学の研究をしていた奥さんを事故で亡くし、自身も足を悪くした。昔お世話になったお寺の住職が癌だと知り通院に寄り添って、自分の講義をすっぽかす。そんな感じが、長谷川さんより井浦さんだなって。そしたら、他のキャストも井浦さんに合わせて顔ぶれが変わった。教授役は小日向さんから松重豊さんに、住職は石橋蓮司さん、ライバル教授はムロツヨシさん‥こんな風にキャスティングが頭に浮かぶ小説は、きっと映像化される。それより前に、私はこの本がシリーズ化されたら良いなって思ってる。私はすっかりこの古屋先生のファンになってしまった。


本の感想も少し書いておこう。読みながらユーミンの『やさしさに包まれて』の歌詞を思い出していた。

小さい頃は神様がいて
不思議に夢を叶えてくれた

目に映る全てのことがメッセージ

みたいな。日本人は昔から、木とか岩とか自然にあるものに手を合わせ祈り信じてきた。ところが最近ではそういう気持ちが薄れつつある。樹齢何百年の樹を、邪魔だからと平気で切ろうとしたり。日本人の宗教観や風習は滅びてしまうのではないか。そこを民俗学で何とか出来るのではないか。


院生としてまだまだ自分のやりたい事が見つかっていなかった藤崎が、やっとうっすらと進むべき道が見えた、というところで本作は終わる。てことは‥シリーズ化かも。



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