ドイツとサンタクロースと伊坂幸太郎
今年、私の日常の中で一番クリスマスらしいこと(もの)と言えば、先日観察日記を終えたシュトーレンだ。シュトーレンはドイツ発祥の菓子パンでドイツ人の習慣に倣えばあわよくばドイツ人になれるかもと思っていた。というのはもちろん冗談であるが、やっぱりクリスマスが一番似合う国はドイツなのかもしれない。
クリスマスを探偵と/伊坂幸太郎
3年前に出た、伊坂氏初の絵本。絵本といっても、短編くらいのボリュームがある。絵は、マヌエーレ・フィオール氏。イタリアの巨匠さんだ。可愛い絵とは言い難いが、味のある温かいタッチは、クリスマス絵本に合う。伊坂作品はそのほとんどが仙台が舞台。仙台以外しかも海外(ドイツ)が舞台だなんて、しかもタイトルに“クリスマス”なんて可愛いワードを使っちゃってるし、おまけに絵本ときた。いくら伊坂ファンでもここまでいつものルーティンを破られると、これはもう伊坂であって伊坂じゃない、伊坂だと思って読んではいけないのではないか。そんなことまで考えて、買ってはいたもののしばらく積ん読だった。いつもなら伊坂の新作が出たら読むのが待ちきれないというのに。
職場に私が師匠と仰ぐ読書のツワモノがいるのだが、その人がある日『クリスマスを探偵と』を持って私のところに来て
「これはもう、読んだかな?」と聞いてきた。私は「買ったけど、まだです」
と言うと「ちょっと良い話だったよ」師匠が言うなら間違いない。私は家に帰ってからすぐに読み始めた。
舞台はドイツ。探偵カールがクリスマスの夜に出会った、謎の男とは‥‥?
伊坂作品のエッセンスすべてが凝縮された、心温まる物語
私は以前、クリスマスプレゼントを子どもに内緒で用意する親の闘いについて書いたことがある。いわゆる”子どもがいつサンタクロースなんていないということに気づくのか問題“。この本の主人公で探偵のカールは、なんと15才までサンタクロースを信じていた。それにはわけがある。カールの家は決して裕福ではなかった。子どもながらにカールはそのことに気を遣って普段もオモチャを欲しがったりしなかった。ゆえにクリスマスにプレゼントを用意するお金が家にあるわけがないと思っていたのだ。ところが父親に恐る恐るプレゼントをお願いしたら、「分かった。(サンタクロースに)伝えておく。」
サンタクロースがいないなら「うちにそんなお金があると思うか」と激怒したはず、ということは、クリスマスプレゼントにお金は必要ない、本当にサンタクロースがいるんだ、と。そういう具体的な理由があったから15才までは信じていた。
私は思った。うちの子の場合も、いつということはなく、なんとなくサンタクロースはいないと察してるその様子を見て、もうそろそろサンタクロースのふりをするのを終わりにしてもいいかと思ったのだが、子どもにそういう様子が見られなければ、もしかしたらずっとサンタクロースのふりを続けたかもしれないと。子どもの夢を叶えるのは親の喜びである。純真な子どもの夢を壊したくない。そしてなんとしても子どもが欲しがっているものを贈りたい。それが親ってもんだ。
カールの話を聞いたもう一人の登場人物、サンドラという女性みたいな名前のその人(男性)が言った。
「その夢みたいな話を信じて、その時は楽しく過ごしていたんですから。ものは考えようです。ほかのお友達よりは幸福だったのかもしれませんよ。」
角度を変える。私が最近読んだ別の本も、角度を変えて物事を見るというのがテーマだった。
同じ話でも解釈の仕方によってさまざまな姿を見せる。サンドラはまさにこじつけとも言える別の解釈で、カールの過去や父親に対する疑念、クリスマスプレゼントの謎、カールが考えていたのとは違う別の可能性を次々に示唆する。
「無理がある」と言うカールだがなんだか楽しそうだ。誰かと話すこと、誰かに聞いてもらえることで、気持ちが軽くなったりそこに気付きを見つけたり。noteでもそういうことは、よくある。
サンドラは、noteの世界でいうなら私の記事を読んでくれる人、スキやコメントをくれる人だ。私の一人よがりな話が、コメントで新たな視点を得たりする。人によって響くポイントが違う。同じテーマで他の人が別の視点で書いてる記事を読むのもそうだ。
そうか、そういう見方もあるな。
あそこの部分をこの人はそう捉えてたのか。
違う角度から見るって楽しいことだ。そして新たな気づきももらえる。それはnoteがくれるプレゼントのようなものだ。
つい最近、きいすさんが、子どもさんにサンタクロースの秘密がぼれそうになっててどうしたらいいか問題について皆さんの意見を求めていた。そこから白さんがアンサー的な物語をアップされてそれがとても楽しくちょっと納得してしまいそうになる。本作にも、サンタクロースがどうやって一晩で世界中の子どもにプレゼントを配っているのかについて、サンドラがいろいろと面白い見解を述べている。サンタクロースは時間を止めれるとか、複数グループが同時進行で進めているプロジェクトだとか。一番良いパフォーマンスが出来そうなトナカイのメンバー編成を考える、なんて読んでいるとニヤニヤしてしまう。
さて、驚くのは、絵本になるような、ファンタジックなお話にも、伊坂らしさが存分に発揮されていたことだ。伏線も見事に回収された。サーカスの話、父親の服についた長い毛の謎、ドイツに伝わる鬼の話、サッカーチーム、トナカイ、サンタクロースのいい伝え、母親の指輪‥サンドラの正体が分かると、この話自体がカールへのクリスマスプレゼントだったってことが分かる仕掛け。見事だ。
そして何より師匠の言う通り「ちょっと良い話だった」よ。
おまけ
この本、カバーをはずすと全く違う印象になる。なんだかヨーロッパの古い本棚にある童話の本のような感じ、これはこれで好き。
もうひとつおまけ
今日で連続投稿250日。12月25日に250日なんて、何かの暗示か因縁か。小さなことでもこういう偶然はなんだかとてもラッキーな感じで嬉しい。
皆さん、ハッピークリスマス!