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“そうだ”と“いいね”でモヤヤンを追い払う〜『いつか月夜』読書感想文


昨年11月に次女が転職した。今年の春からは婿殿が公務員を辞めて会社員になる。

別に珍しいことでは無い。今の時代は一つの会社で“勤めあげる”ことが美徳とされない。転職の理由はいろいろだと思う。思うけれどやっぱり切っても切り離せないのは人間関係の問題だと思うのだ。大なり小なり、転職を決意するに至る理由の一つだと思うのだ。

私の職場にも何かというとすぐに「早く転勤したい」と言う人がいる。悪気はないのだろうが、私のようにずっと居続けている者からしてみると、良い気はしない。そんなに居心地が悪いか?と聞きたくなる。そして、大体においてその、転勤したい理由というのは人間関係が原因。そこで私は思う。

人間関係の問題なんて、何処に行ってもあるよ、と。何なら、転勤した先で「こんななら、前の職場のほうがマシだった」って思うかもよ、と。実際そう言って励ました(私はそのつもり)こともある。


この本を読んだらそれが立証されたようだった。ここに出てきた“なにか違うと思う”だとか“おかしなことを言ってる(やってる)な”だとかは、まんま、私の職場にもあるし、多分職場じゃなくてもご近所とか親戚の集まりみたいなところにでもあるはずだ。


いつか月夜/寺地はるな

ただ夜散歩するだけの小説です。会社員の實成は、父を亡くした後、得体のしれない不安(「モヤヤン」と呼んでいる)にとり憑かれるようになった。特に夜に来るそいつを遠ざけるため、とにかくなにも考えずに、ひたすら夜道を歩く。そんなある日、会社の同僚・塩田さんが女性を連れて歩いているのに出くわした。中学生くらいみえるその連れの女性は、塩田さんの娘ではないという……。やがて、何故か増えてくる「深夜の散歩」メンバー。元カノ・伊吹さん、伊吹さんの住むマンションの管理人・松江さん。皆、それぞれ日常に問題を抱えながら、譲れないもののため、歩き続ける。いつも月夜、ではないけれど。

角川春樹事務所HPより


ケースその1

元気でまじめな女性社員のことを

気が強い

と評するおじさんたち。

男性の若手なら「威勢がいい」「なかなか気骨のあるやつ」と評価される局面において、非難あるいは苦笑いのニュアンスを滲ませての「気が強い」は傍で聞いていてあまり気持ちの良いものではなかった

そうだ、そうだ。真面目に働いているだけ、なんならその彼女に仕事面で助けられたりしてませんか?

ケースその2

独身女性が男性社員とふたりで話してると、

もしかしてふたり、付き合ってるの?

と揶揄するおじさんたち。考えることが短絡的。ああもう、いちいち、毎回、めんどくさい。ならばと、そういうシチュエーションを避けようとして、いやいやそれも逆に、

おかしなことを言うやつに合わせて行動を制限しなきゃならないの、どう考えてもおかしい

そうだ、そうだ。やるべきことをやってるのに文句を言われる筋合いは無い。

おかしいほうに合わせたほうが楽だと思いそうになるぐらい疲れてる

そうだ、そうだ。皆、肉体的だけじゃなく精神的にも疲弊しているのだ。モヤヤンは誰の傍にもいる。

ケースその3

韓国ドラマによく出てくるシーン、相手が歳下だとわかったとたんに態度(分かりやすいのは、急にタメ口になる)を変える人たち。お国柄なのかな。対して、日本人は人間関係の深さでタメ口か敬語か使い分けてると思える。そして、実は逆もあるのだ。

相手が自分より年少であるという事実は「じゃ、こっちが立場は上だな」と判断する理由にはならない。相手が年長だからという理由だけでは敬意を払えないのと同じだ。

そうだ、そうだ。そして、そういう(年長の)人たちの個人の感情や思惑で様々なことが決定されたりするのを見ている私たち。仕事ってそんなんで良いの?なんだかなぁ。

家族、友人、同僚‥人間関係にはいろいろあるし、人間自体が実にいろんな人がいる。にもかかわらず、こんなに“あるある”があるって面白い。


ケースその4

実家を離れて暮らす子どもが、親を心配したり、親が寂しい思いをしてるんじゃないかと実家に顔を出すなどの気遣いを、「バカバカしい」「うっとうしい」と笑える、主人公・實成冬至みなりとうじくんのお母さんのこと、良いなと思った。

「わたしのさびしさはわたしのもんや」娘や息子ごときがどうこうできるようなものではない、ときっぱり言い切った。

いいね、いいね。私も、もしかいつか一人になって、それはもちろん寂しいけれどその寂しさは他の人では埋まらないと知っている。だから、冬至くんのお母さんみたいな人でいたいと思った。

ケースその5

その冬至くん、飄々としていてロマンチックや胸キュンとは程遠い人かと思っていたけど、気になってる人がいて、多分相手も冬至くんのことを思っていて、だけどお互いにお互いの邪魔をしないようにとそのことに気にかけすぎていた。
「實成くんには實成くんの世界があるから、邪魔しちゃいけないのかな、と思って」と言う彼女(もっちゃん)に対して、

もっちゃんが邪魔になるような世界には住みたくないよ

冬至くん、やるじゃん。その答は正解です。
いいね、いいね。冬至くんて心がイケメンだったな。



おまけ↓
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買いそびれて6版になってしまったけど
こんなシールが付いてるなんてラッキー


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