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[ショートショート]

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数百文字から数千文字の話です。
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#理系

ペトルーシュカ和音

ペトルーシュカ和音

彼女の創る作品は荘厳で仰々しい代物ばかりだ。

今、僕の目の前にある作品はその中でも特に異質である。

大きな白鳥が羽ばたく瞬間を立体的に切り取ったような石膏像に、大きな茶色い傘のきのこが無数に散りばめられており、大小の異なるきのこはそれぞれがそれぞれに対して恐怖を煽っている。

加えて、全体がペトルーシュカ和音の実際的な具現化であり、鑑賞者に対して畏敬とも喜びとも恐怖とも言い難い複雑な感情を呼び

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大きな荷物

大きな荷物

「今夜、きっと大きな荷物が届くでしょう」

女は僕にたっぷり含みがあるような調子で語る。
僕は何のことだか全くわからないという眼差し、眉の角度、口角の上がり方で女を見つめた。
すると彼女は踵を返し、そこに甘いオークの香りを残し僕の前から消えてしまう。

 そして、今、僕の家に大きな荷物が届いている。
大きな荷物には宛先や送り主といった類の情報は一切記されておらず、配達されてきたような気配もない。

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本を読むこと

本を読むこと

 僕はタフでなければならないと思った。タフでありたいと願った。

 タフであることは結局のところ必要十分な条件で、そうでなければこの世間をうまく切り抜けられないということを親指を咥え、幼児向けアニメを食い入るように見、悟った。

 タフであるために、まず僕は身体を鍛錬することにする。

 市営のジムに毎晩通う。

市営ジムは三百円で二時間鍛えられる上、夜に至っては人はまばらであり、僕のような幼い男

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[ショートショート] ポップコーン

[ショートショート] ポップコーン

 ポップコーンを買った。田舎のロードサイドにドカンと居座るショッピングモールにあるカルディーで買った。

自分で火を通してポンポン言わせるタイプのやつだ。レジの近くにあるちょっとした棚にあるものって、ついつい手に取ってしまう。

ポップコーンはレジの真横に隊列を組んでいた。グットオールドデイズよろしく、牧歌的なアメリカを連想させるパッケージだ。

 キッチンに立つ。気を引き締めなければならない。

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