原稿用紙5枚の掌編小説「横断歩道で」
信号待ちをする車のフロントガラス越しに、一人の男が横断歩道を渡る姿が見えた。工場務めのような色褪せた紺の制服を着て、襟元は汗で濡れている。小ぶりのバッグを襷がけに背負った肩が歩くたびに傾くのは、足が不自由なのだろうか。通行人が足早に歩く中で、彼だけがスローモーションに見えるほど、緩慢な歩き方をしている。男は横断歩道の中ほどで立ち止まると、正面から照りつける西陽を眩しそうに見上げ、額から落ちる汗を手の甲で拭った。男の顔が露に見えたとき、僕はかすれた声で呟いていた。
――K君