オリジナルボードゲームをノベルティに②制作編
前回までにコンセプト、テーマ、メカニズムを定め、詳細なルールを決めるための基盤を固めて行きました。
完結編である作品紹介はこちら。
今回は、作り上げたルールをどのような内容物で実現するのか、それらの仕様と決定までの過程を公開します。
特に、「品質を維持しつつも可能な限りコストダウンすること」を追求して取捨選択したので、制作する方にも参考になれば幸いです。
名称
タイトルでなんとなく内容が想像でき、短くわかりやすいものがよいと思いました。最初は「乱」だけでしたが同名映画がある事や抽象的すぎることが気になり、「陣」だけでは簡素すぎるため見送り。それらを合わせた造語にしました。
なお通常「ら行はR」「ざ行はJ」で表記されますが、私の耳では日本語の音がLの音やZの音に聞こえることから「LANZIN」としています。カードが縦横に整列したゲームゆえ、LやZの直線的な文字が似合うことも理由です。
化粧箱
最初の難関です。最終的に汎用化粧箱にスリーブケースを付ける案を採用しました。
当初は、キャラメル箱(蓋が本体に付属しているタイプ)や組箱(蓋と底で別れるタイプ)を一から独自寸法で制作することを検討しました。
ただキャラメルの場合は何度も出し入れすることに向いておらず、組箱は非常に高額です。様々な業者で価格比較を取りましたが、小ロットでは箱だけで1個当たり数千円を超えてしまうこともありました。
カード枚数や得点ボードも入れること、ある程度のパッケージの大きさゆえに与えられるインパクトもあることをを考えると、A5以上は必要です。
そこでテーマにあった色の化粧箱サンプルをいくつか取り寄せ、実際に手元で見ながら決定しました。
ここで決定した箱に基づいてスリーブを設計しています。これでデザイン性を保ちながら大幅にコストダウンを実現できます。
スリーブケース
使用ツール
テクスチャ:Photoshop
ロゴ等のパーツ:illustratorで作成後、CCライブラリに格納
入稿データ制作:illustrator
続いてスリーブケースの設計も非常に多くの時間を使いました。
専用業者に頼めば規定の箱にあったスリーブケースを制作してもらえますが、結果として最初から組箱を作ったほうが安くなるケースもあり、コストダウンどころか費用を圧迫してしまいます。
そこで、手元にある箱の寸法を厳密に測り、かつ紙の厚さや折れ曲がる位置までを計算し、一枚のカードとして印刷することにしました。
綺麗に折るための方法も研究し、手芸用のローラーなどを駆使して折り曲げ加工を自ら行っています。このことでもかなりコストダウンになりました。
なお次の中敷にも言えることですが、折り曲げにおいて最も気にしなければいけないのが「紙割れ」です。ある程度厚みがある紙を折り曲げると、通常印刷面が割れ、素材の紙の色がひび割れから見えてしまいます。
こうなると途端に高級感をなくししてしまうため、折り曲げ位置にインクを多く載せないデザインにする、なにより表面にPP加工を施すことにはこだわりました。
厚さや質感を確認できる紙のサンプル集で、何度も耐性テストを行っています。
中敷
使用ツール
テクスチャ:Photoshop
ロゴ等のパーツ:illustratorで作成後、CCライブラリに格納
入稿データ制作:illustrator
規定サイズの箱であること、内容物が多いことから、当然中を整理するものが必要になります。中には中敷の無いボードゲームもありますが、サイズピッタリに制作されているか、問題ないと判断されていると思います。
普段ボードゲームを収集管理していて気になっていたことの一つに、「カードスリーブを付けると箱に収まらなくなる」ことがあります。
そこでスリーブケースをつけても箱に納まり、かつしっかり収納できる寸法を計算しました。今回は箱の中に高低差を設けることで解決しています。
なお、この中敷も紙割れに気を付けました。当初は箱の色にあわせて中敷も黒にする設計でしたが、紙割れ問題が発生。
どうしても箱を開けた時の初見の印象で高級感を持たせたかったので、折れ曲がる位置に白線を設け、PP加工を施しています。中敷にすぎない紙ですがそれなりにこだわってみました。
サイズ設計を行った後は、実際に組み立てて干渉しないか、美しく見えるかなど試作を複数回行っています。
シート
使用ツール
模様:illustrator
入稿データ制作:illustrator
カードは基本一枚一枚絵柄が異なるため、通常すべて同じ業者にまとめて依頼するのが一般的です。
ただ今回の場合、1セットに同じ(複数入れる)カードがあるため他で代用できないか検討しました。
そこで名刺サイズです。過去に何度も名刺印刷を行い、そのコストの低さを知っていたので、他カードの下に敷くものはシートとして名刺サイズで作ることにしました。
当初はプレイヤーの4色を上下で区切って表裏で1枚完結しようと思いましたが、結局は一人5枚必要で印刷枚数が変わらないこと、一面を区切ると混乱を招きやすいため変更。
最終版では白と黒、青と赤をそれぞれ表面と裏面にしています。この組み合わせにすることで、片方はモノクロ印刷で実現可能です。
カード類
使用ツール
テクスチャ:Photoshop
イラスト加工:Photoshoprで作成後、CCライブラリに格納
ロゴ等のパーツ:illustratorで作成後、CCライブラリに格納
入稿データ制作:illustratorでレイヤー作成後、InDesign
パーツの変更、画像の変更、レイアウトの変更いずれにも対応できるように、上記のようにデータを作成しています。特に、最終的なカードデザインは複数のパターンの組み合わせで構成することから、InDesignにillustratorで作成したファイルをレイヤーとして読み込むことで修正に強いデータにしました。
他のカードは通常ポーカーサイズを採用しています。これは印刷対応できる業者の数が多いこと、あまり小さなスペースに情報を入れ込むことを避けるためです。
可読性と見た目を考慮し、何度も何度も調整して変更しています。
特に策士カードという、カードにそれぞれの効果を文章で記載する必要がある物は、英語表記の関係もありサイズの調整にも時間をかけました。
また、印刷されたカードをどのようにまとめるのかも悩みました。通常はシュリンク包装されていたり、透明のバンドでくくられていることが多いです。
少しでも和の要素を盛り込めるよう、紙を巻く案も検討し何度か試作しました。ただ最終的に透明パックにいれる方がきれいに見えることや、梱包の労力を検討した結果見送っています。
トークン
使用ツール
模様:illustrator
入稿データ制作:illustrator
木製トークンに和柄のシールを貼っています。こうした小さな細部までどうしてもクオリティを維持したかったこと、色覚特性に考慮することを守りたかったので、透明円形シールを付けることで実現しています。
検討当初は、紙製コインのように打ち抜きでトークンを作る案も考えましたが、基本的に厚紙の打ち抜き加工は高コストであり、枚数も多く必要ないことから見送っています。
得点ボード
使用ツール
テクスチャ:Photoshop
アート:Procreate(ipad)
ロゴ等のパーツ:illustratorで作成後、CCライブラリに格納
入稿データ制作:illustrator
ゲーム内コストの管理をコインやカードではなく、ボード上で管理することにしたことにも費用問題が関わっています。
仮にこのゲーム内コストをコインで管理する場合、大量の枚数が必要なります。今回はこのコストが士気という抽象的な物であることも踏まえ、ボード上でゲージ管理する案を採用しました。
このことで、プレイヤーガイドとして行うアクションを記載することも可能です。
ただしA5サイズと非常に小さいサイズであり英語表記も付けるため、要素を見やすく入れ込むことに苦労しました。
苦労したかいがあって、今回の内容物で最も気に入っているのはこのボードです。
説明書
使用ツール
テクスチャ:Photoshop
ロゴ等のパーツ:illustratorで作成後、CCライブラリに格納
入稿データ制作:InDesign
すべての内容物のデザインが確定した段階で、ルール説明書を制作しました。
こちらもA5冊子であることから、贅沢に紙面を使うことはできず、可能な限り不要な要素をそぎ落としたシンプルな構成にしています。
最近ではPDFだけでルールを公開するものもありますが、アナログゲームとして重要な内容物であることから、物理的な冊子にこだわっています。
日本語表記と英語表記も、通常どちらかしか読まないので前半と後半に分けています。
一枚の大きな紙に全てを記載しておりたたんで収納する案も考えましたが、場所を取る事や読みやすさの観点から見送りました。
データはInDesignで作成しています。
宣材写真
作った製品を最終的にこのnoteや自分のポートフォリオで掲載することが決まっていたため、どのように撮影するか悩んでいました。
プロのカメラマンや撮影現場であれば白背景に反射が無いよう丁寧に撮影すると思いますが、私の環境では実現不可能です。
使用ツール
データ制作:Adobe Dimension
そこでAdobe Dimensionという3Dグラフィックツールを使って、すべてCGで制作しています。これであれば撮りなおしが生じても、データの修正だけで変更が可能です。また光源や表面の様相も調整できます。
この記事内の画像も、制作工程の写真を除く最終版のイメージはすべてCGです。
参考資料
制作のために参考にした書籍を以下にまとめています。
以上です。
次回はいよいよ作品を紹介しているので、読んでいただければ嬉しいです。