TOP Bakery No.6 ~ベンダーとの戦い~
ガーナのパン屋の石本です。
前回は、パッケージ戦略が功をそうして売上(パン以外も)を伸ばしていった経緯をお話しさせて頂きました。
今回は、お客さんであるストリート・ベンダー(主におばちゃん)達との戦いについて書きたいと思います。
伸びる売上に、減る現金
2015年10月頃になると、順調に生産量も売上も増え、1日に1000~1200個ほどのパンを生産する様になりました。お客さんも順調に増え、忙しさに拍車が掛かる中、突然生産に急ブレーキがかかりました。材料を買おうにも、現金が足りないのです。アグレッシブに売上を伸ばす事に注力していた私たちは、新規の顧客開拓の為に売掛金(credit)での販売を進めていたのですが、伸びる生産量に対して材料を購入するだけの現金が確保できず、生産量を上げることが出来ずにいました。
元々手元資金の少なかった私たちは、小麦粉会社から掛けで小麦粉を購入させてもらい、販売・代金回収後に返済するというスキームに切り替えました。クリスマスに向かい、伸びる需要、作れば売れる様な状況もあり、どんどん生産量を伸ばして行きました。12月頃には平均1500-2000個近く生産・販売する様になりました。
そして、気がつけば増えている従業員。創業当初は7人で始めたTOP Bakeryも気がつけばいつの間にか20名近くまで増えていました。(採用方法についてはまた今度)
増える生産量、増える売掛金、増える固定費、増える不安、、、
「大丈夫だ、ちゃんと売掛金さえ回収すれば、、、」と言い聞かせながら、日々運転資金に頭を悩ませながら更なる泥沼に突っ走っていく事になりました。
ストリート・ベンダーとの売掛金回収の戦い
新規参入であったTOP Bakeryにとって、ストリート・ベンダーのおばちゃん達に買ってもらう事は簡単ではありませんでした。
ベンダーのおばちゃん達も必死なのです。炎天下で湿度も高いガーナでは、路上でパンを販売していると3・4日もするとパンにカビが生えてきてしまう為、購入してから1・2日で販売しないといけません。その為、売れるかどうかわからない新しいBakeryのパンを購入する事はリスクが高く、新しパンを試すだけのメリットがないと購入してくれないのです。多くの場合、そのメリットは売掛金・フリーサンプル・プロモーション(と呼ばれる販促グッズ若しくは献上品)であり、ベンダー側の立場が圧倒的に強い市場となっています。
TOP Bakeryとしては手っ取り早く売上を伸ばす為に、売掛金での販売先を増やし、積極的に市場シェアを獲得して行きました。結果、気前よくベンダー達はパンを購入し、TOP Bakeryのパンを売ってくれる様になりました。しかし、売れる量と比例して支払われる現金は少なく、未回収の売掛金がどんどん膨れ上がってきたのです。立場の弱い私たちも遂にお尻に火がつき始めてきた為、ベンダーのおばちゃん達に頭を下げて売掛金の支払いをお願いして回りましたが、これが一筋縄ではいかないのです。
「お前のところのパンは日持ちしなくてカビが生えたから捨てた。だからお金は払わない。」
「今は現金がないから、新しいパンを売掛金で売ってくれたら、その売上から返済する。」
「ないものはない」
「クリスマスが近いのに、何も持ってこないお前達には支払わない」
ベンダーのおばちゃん達は、通常複数のパン屋から3〜6種類くらいのパンを購入しています。その為、自分たちのメイン・サプライヤーへの支払いを最優先させ、残りのサブ・サプライヤー達への支払いは後回しにする事がわかりました。
また、パン屋自体は参入障壁が低く(石本みたいな素人でも参入しようと思えばちょっとした資金で出来てしまう)、雨後の筍の様に新規ベーカリーが参入してくるのですが、その多くが無残にも夢半ばで消え散っていくのです。そして、その殆どの理由は、ストリート・ベンダーによる売掛金の不払いにあったのです。
ストリート・ベンダー達は知っているのです。新規参入者は売掛金で売るしかない、そして支払わなければ勝手に潰れていく、そして彼女達の債務は帳消しにされる(と思っている)と。
2015年12月24日、過去最高の3,039個のパンを販売した時、既に未回収の売掛金は100万円を超えていました。そして、過去最高にエキサイトしたクリスマスが終わった後に残ったのは、ギフトをくれないケチなパン屋という評判と、増えすぎたスタッフと、100万円を超える不良債権でした。