読書:『本を守ろうとする猫の話』夏川草介

書名:本を守ろうとする猫の話
著者:夏川草介
出版社:小学館
発行日:2017/01
https://www.shogakukan.co.jp/books/09386463

 事前知識まったくなしで読みましたが、ファンタジーだったのですね。
 大量の本をがむしゃらに読んできれいに陳列する者、大量の本を読みこなすため「あらすじだけ」を抽出しようとする者、あるいは中身のない大量の本をこの世に送り出し続ける出版社社長。そういった連中を「本を殺す者」とし、連中から本を救おうとする猫。と高校生の話。本と猫を愛する人のための小説、と言えそうです。

 でも、軽い。ここに登場する彼らは、生身の人間というより、象徴的な存在なのだと思いますが、それぞれに固執して作り上げてきた哲学や生き方を、高校生とちょこちょこと数分話すだけであっけなくひっくり返されてしまうのは、なんというか、あまりに「軽い」のではないか。それに「対話だけ」というのも気になりました。この高校生の言葉にそれほどの力があるように思えなかったので。

 どうせファンタジーにするなら、ディケンズのように彼らのその行為が招く未来をまのあたりに見せるとか、それくらいのことはしてほしかった。
 逆に、高校生にひっくり返されたあとの彼らの悲惨な行く末を見せる場面はありましたけれどね。
 なぜファンタジーにしなければならないのか、なぜしゃべる猫でないといけないのか、というあたりもよくわかりませんでした。

『神様のカルテ』のシリーズはけっこう好きで、読んでいるうちに、うるっとくることもあったので、正直言って少し失望はしました。
 言い方を変えると、ファンタジーを書くことの難しさ、ということなのかもしれないですね。

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