浅はかな私の宣言 #深煎り入学式|毎週ショートショートnote
ぐっと香りが増すのはもう少し後のこと。
強い風すらも心地よいと感じる季節、薄緑のチェックのスカートに白いニーハイソックスを身につけて麻子は、堂々と学校の前に立っていた。
式典の時間には早すぎて、まだ誰も来ていない。
麻子は何も考えていない、なんてよく言われるが、違う。考える前に行動してしまっているだけなのだ。だからこうして学校一番乗りしたら楽しそうというくだらない理由で今ここにいる。
朝5時を過ぎるとすっかり太陽も上がっているので、体はほかほか暖かい。
「あっつっ。」
玉の汗をかきながら、ハーフパンツのジャージ姿で現れたのは、郷間である。
麻子が朝の優しい太陽を愛でているのを否定された気持ちになりちょっとむっとした顔をしていると、また声が聞こえた。
「ちょ、さむすぎ……。」
この季節にモコモコのフリースを着込んで、タイツにレッグウォーマーまでつけてきたのは瀬佐実だ。
体がほかほか暖かいと思ったのは麻子の幻想だったのだろうか。
麻子は思った。
気温1つとっても、まったく違うように感じる人間達が無理やり集合させられる場所。それが学校というもの。
自分と他人の感覚は違う、それを認める練習をする場所が学校なのかもしれない、と。
ほら、わたしだって深く熟考することはできるのだ、などと思いながらも麻子は叫んだ。
「もう、うるさい。今日は春で入学式で朝の気持ちい時間なの。暑くも寒くもないちょうどよい気温だよ。そう私が決めたんだから、そうなんだ!」
深煎り入学式というには浅い宣言だったが、周りのことなんて気にしないのは麻子のいいところのひとつなのだ。
【あとがき】
今週もたらはかにさんの #毎週ショートショートnote に参加させていただきます。
今週のお題は、
410文字よりぜんぜん長いし、オチもないのですが、ただ世の中には色々な人がいるよねえ。ということを言いたかった話でした。
深煎り→焙煎→ゴマ……ということで登場人物の名前は、ゴマっぽい名前に
しています。
たらはかに(田原にか)さんの企画はこちら↓
前の週のお題で書いたものはこちら↓
※画像はCanvaAIで作成!