サマーダンボールタワー|ショートストーリー
これだけのダンボールに囲まれるのは久しぶりだった。
ある意味引越し魔だった20代のころは、なにかしらの理由で2年に一度家を変えていて、その度に要らないものを詰め込んだ大きな袋を30いくつ放り出し、それでも山のようなダンボールを抱えて次の家に向かった。
6年ぶりの引越しだけれど、これは普通の引越しとはちがう。
ちょっとお試しのお引越しなのだ。
親戚というものの繋がりが希薄だった両親が少しの間をおいて他界し40代で、娘と2人きりになったシイナが、憧れていたのは海のことだった。
北国の短い夏の間に見られる海の景色は数えるほどだったが、それならばいっそ海へ行ける季節の間は、そこへ住んでしまえはいいということになった。
そんな夢のような話をもちかけてきたのは、ミナミだった。
10代の頃からの友達だったミナミと将来のことを話し合うようになったのは、ここ二、三年だと思う。
お互い結婚に見切りをつけて、自分だけで生きていくと真剣に考えだしたあたりから、ぐっと老いが現実的になってきた。
まだ小学生の娘たちを連れ、満員電車に乗り、ゆらゆらと陽炎が揺れる中、浜辺に着いた私たちは、海の目の前のコンビニから買ってきたビールをカラカラに乾いた体に流し込んだ。
夏限定のビールは、さっぱりとしてよく冷えていてビールを冷やすために買った枝豆も程よく解凍されて、子ども達は笑顔が爆発していて、そしてビールがとても美味しかった。
そんな時にミナが一言つぶやいたのだ。
「こんな日が毎日続けばいいな。」
すこし酔いの回った頭の私達は、海の近くに住みたい、生活してみたいという話で盛り上がった。
あれから1年後の今夏。
冬の間に計画を練り夏の間だけ海の近くに移住計画が、本格始動したのだった。
つづく。
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