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【歴史小説】『塞王の楯』と『黒牢城』を読みました【いまさら第166回直木賞受賞作】

先般、第166回直木三十五賞(2021年下半期)を受賞された今村翔吾さん著『塞王の楯』と、米澤穂信さん著『黒牢城』が文庫化されました。

どちらも「城」を舞台にした作品ということと、元々歴史小説は好きなジャンルということもあり、受賞のニュースを見た際は両作品とも気になっていました。

両作品の文庫化を機に購入して読んでみたのですが、いざ読んでみたらまったくテイストの異なる「歴史(?)小説」となっており驚きました。
(もちろん、どちらも素晴らしい作品で楽しめました)

今回は、両作品を読んだ感想をnoteしようと思います。


『塞王の楯』の感想

時代は安土桃山時代。一乗谷の戦いから関ヶ原合戦前夜まで。

主な舞台は琵琶湖畔に築かれた京極高次が治める大津城ですが、主人公は京極高次や戦国武将ではなく「石垣職人」という珍しい設定の歴史小説でした。

城・人を守るため鉄壁の石垣(楯)を築く”穴太衆(あのうしゅう)”の石工・匡介が主人公。

「矛と盾」と言う言葉がありますが、本作でも匡介の「楯」に対し、「矛」となる鉄砲職人”国友衆”の彦九郎がライバルとして登場し、物語の終盤ではまさに「矛と盾」の白熱した戦いが繰り広げられます。

良かったところ

これまで知ることのなかった「石垣職人」や「石工」について、職人の役割や石積みの技術であったり、職人としての気質・プライドがとても細部まで説明や描写されていた点が象徴的でした。

これまで何カ所も城や石垣を見てきましたが、単純に「キレイな石積みだなぁ」程度の浅い感想しか抱かなかったのが勿体ないくらい、奥深い世界であることに気付かされました。

今後、お城や石垣を見る目が変わりました。

また、小説自体は、登場人物の心情や物語性を重視した内容となっていて、「ストーリー」として心に素直に入り込んでくる小説でした。

引っかかったところ(ちょっとネタバレ)

匡介の師でもある穴太衆の塞王・飛田源斎が、伏見城でその命を賭して見破った国友衆の最新銃のからくり。

それを伏見城から引き上げた職人が匡介に伝えたわけですが、それが最後の最後まで物語で何も触れられていない点が引っかかりました。

その最新銃に対抗する石垣の工夫や対策が何かしら出てくるのかと思って読み進めていたのですが、話は最新銃ではなく「対・大砲」に変わってしまい、個人的にはその点が不完全燃焼で終わってしまいました。

気になったのは僕だけでしょうか……。

ただ、いずれにせよ、小説としては王道の「歴史小説」という感じで、全般的に面白く読み進めることができました。

『黒牢城』の感想

こちらも時代は安土桃山時代。

織田信長に対して謀反を起こして「有岡城」に籠城した荒木村重と、荒木村重を説得すべく有岡城に乗り込んだ末、地下牢に捉えられた黒田官兵衛(小寺官兵衛)の二人が主人公の小説です。

まさかの「ミステリー」!

この『黒牢城』、購入前まで「歴史小説」と思っていたのですが、文庫の帯や裏の解説を見ると「ミステリ」の文字や「推理」の文字が……。

実際に読み終わってみると、、これは歴史小説をベースにした完全なる「ミステリー小説」でした。

個人的に、ミステリー小説を読むのはかなり久しぶり。
というか、前回読んだミステリーが何だったのか、それが何年前だったのか思い出せないくらい久しぶりのミステリー小説でした。

遙か昔、10代の頃に西村京太郎さんの十津川警部シリーズにかなりハマっていて、それこそ何十冊も読んでいた時代がありました。

しかし、大人になるにつれ「ミステリー小説=1回読んだら終わり」という印象を持ち始め、以降どんなにベストセラーになっていても、ミステリー小説を読む機会はほとんどありませんでした。

余談ですが、これまで僕が読んだミステリー小説で未だトップに君臨しているのは、我孫子武丸さん著『殺戮にいたる病』です。
この小説のラストは、本当に衝撃を受けました。

重厚なミステリーであり歴史小説

そして、今回、図らずも購入して読んだこの『黒牢城』。

正直、第3章までは単調な流れで「またこの流れか…」「やはりミステリー小説は…」と諦めかけていましたが、第4章から終章にかけて急激にストーリーが展開し、あれよあれよという間に物語に引き込まれる自分がいました。

作品の舞台は、すべて「有岡城」内。
その城内(一部、外)で発生する怪事件を、城主・荒木村重が解決していく流れで話は進みます。

しかし、事件は簡単には解決せず、自ら牢に捕らえた黒田官兵衛にさりげなく意見を求めつつ、事件の糸口を紐解いていくというもの。

ただ、単に「推理して謎(犯人)を解く」だけに留まらず、「籠城」という特殊な環境であることや、家臣の心情、信頼、疑い、家臣間の対立(引いては、それぞれの宗教感に基づく思惑・相違など)等々が渦巻き、「歴史小説」としても存分に楽しめる内容となっていました。

物語の最後については「うまくまとめられた」感が否めませんが、史実に基づけば当然の流れで、苦く重い内容を洗い流してくれる結末となっていました。

おわりに

今年に入り、小説を読む機会が多くなりました。

ここ数年は、ビジネス書や自己啓発本、健康本を読む機会が多かったのですが、「小説から得られる経験」の大きさを、最近は改めて実感しています。

このnoteで記事にした小説以外にも読んでいますが、もしまた心から読んで良かったと思った小説に出会えたら、気ままにnoteしようと思います。


ちなみに。

僕は書評家でも賞の選考員でもなく、ましては月何十冊も読む読書家でもないのですが、今回同時に直木賞を受賞した2つの作品でどちらをオススメしたいか聞かれたとしたら……『黒牢城』を推します。。

それくらい、衝撃を受けた作品でした。
ですが、物語性を重視して本を読まれる方にとっては、『塞王の楯』が良いかと思います。

つまるところ、どちらもオススメです。。

『塞王の楯』は上下分冊ではなく、分厚くなってでも1冊で出してほしかった…

#歴史小説が好き

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