
「破墓」墓から出てきた「何か」と闘うプロたちのオカルティックバトルホラー【映画感想文】
※ネタバレあり感想文です。
「破墓」、日本公開を待ちに待ってました。
期待いっぱいで鑑賞したのですが、私はとても楽しめました!
この映画は、ひとつの墓から放たれた「未知の怪異」と戦う風水師や巫堂たちの姿を描いた、風水・民俗・オカルト要素ぎっしりかつエンタメ要素もかなり盛り込まれたホラー映画でした。長めに語っていきます。
『さびれた土地にあった墓から、「何か」が出てきた』
この出来事を端緒として、さまざまな怪異を経ながら物語は展開します。単純に富豪一族の因縁話かと思いきや、話はそう簡単に展開しません。「明堂」=墓にふさわしい場所、ではないところになぜ墓はあったのか、という風水のプロが抱く疑問に始まり、やがて「重葬」が発覚し、さらに土地にとどまらずに「国に刻まれた歴史」へとスケールが広がり、「この国には存在しないはずの恐ろしいもの」との対峙へと事態が変転していきます。
その過程にはジャンプスケアや血みどろはほとんどなく、「何か」の恐ろしさはパッとわかるインパクトではそれほど表現されていません。画面に、音に、人に、奇妙な違和感が混じりつづける形で表現されます。だからじわじわとひたすらに、何か怖いな、わからないけど気持ち悪いな、と感じさせられる羽目になります。
そして「ソレ」が、終盤に増大し爆発し、恐ろしさをがつんと見る側に示してくるのです。そのあたりは結構漫画的であったものの、全体的な感触では「残穢」でもたらされる怖さに風味が近かったかなと思います。
物語を牽引する個性あるキャラクタ、そして彼らが立ち向かう「おそろしい何か」の造形
この静かに怖い物語を紡ぐ主要人物は4人です。風水師、葬儀師、巫堂師弟。それぞれキャリアと実力を備え、プロとして事に当たります。彼らは得意分野を持ち寄ってチームを組む形で、この「何者か」を退けるために方策を練ります。
この4人の間には互いの専門分野に対する信頼ががっちりとあって、関係性は完成されている。感情の揺らぎは物語の要素に入ってこない。だから物語そのものはとてもシンプルに、4人VS怪異の闘いを描いているだけなのです。そしてこの怪異に、彼らは苦戦しつづけます。
先に書いた通り、彼らは実績を十分に積んだプロです。そんな彼らが苦戦する相手とは、どんなものか。ただ力が強大な怨霊では足りない、もっと説得力がいる、そもそも映画としてもつまらないだろう。では、この国=韓国には本来いないはずのものだったら、どうだろうか。
そうとするならば、本来いないはずのものが、なぜ墓に埋まっているのか。他所からこの土地に「何か」を運べるのは、この国をかつて侵略していた存在、つまり日本人なら、あり得るのでは。彼らが持ち込んだモノに呪いが、恨みが宿っていたとしたら、彼らは容易に勝てないという筋書きが成立する。
モノに霊が宿るのは、韓国にはない考え方だから。
そう話の成り立ちを考えていくと、かつての日本の行為が深く関係していたという種明かしには筋が通っていて、かつ歴史を踏まえた事実をフィクションとしてこう使うのか、という巧さをも感じました。
歴史を俯瞰して取り入れて物語を盛り上げ、「元凶」を鎮めてみせたことで、過去の痛みをもわずかでも鎮まるようにと祈りを込めているようにも。
そう思えたので、日本人として多少の据わりの悪さを感じはしても、娯楽映画として観られたのでした。
劇中で使われていた日本語などに若干違和感があるのは、日本人自身なので採点も厳しくなるしなあ…、と。わざと違和を残したり漫画などの要素を取り入れたとインタビューなどにもあったので、フィクションだしと割り切るところかと思いました。
これらの歴史の取入れ方などのストーリーの肝の部分については監督が自ら明解に説明されていました。
もし歴史関連で誤解があったらその答えになるのではないでしょうか
際立っていたのはエンタメの側面を引っ張る登場人物の良さ
観た後すぐは、意外と地味な映画だったなと思ったし難解だとも感じたのですが、じわじわと後になるほど面白く感じていきました。パンフやネットの解説を読んで知識をにわかにでも仕入れていくと、その伏線や仕込みの多さに、あれもこれもが意味のある、ネタの詰め込められた映画だったんだなと感心するばかりでした。
そしてなにより、4人のキャラクタが、とても好き。良すぎたんです。彼らの間に恋愛や憎悪や嫉妬といったじとっとした関係性を挟まず、プロとしてきびきびと個々の能力を発揮して事に当たっていく流れがとてもスマートで心地よかった。人間味のある個性も劇中のやり取りで垣間見えてひたすらに魅力的。観終えれば、「墓ベンジャーズ」とは、まさに言い得て妙。
特に、巫堂師弟が好みすぎる男女バディでした。
クールな師匠と一見不愛想な弟子。現代的な服装に身を包んだ師匠は、儀式のときには一変して伝統的な衣装をまとい(ただ足元はスニーカーという良さがまた効く)現実離れしたトランスを発揮して場を(観客を)圧倒する。弟子は耳なし芳一のように経文を肌に刻むインパクトある風貌ながらも、ところどころで無垢な青年らしさをのぞかせて、そして師匠を一心に信頼して常に一歩引いた位置にいる。言葉の要らないこの信頼関係の尊さ。拝むしかありません。
弟子が巻き込まれる後半の展開も相まって師弟の絆の深さにただただひれ伏すばかりでした。この関係性はこの映画一本だけにとどめておくにはもったいなさすぎます。続編かスピンオフをどうか…。
……長くなりすぎました。この登場人物たちの飄々としつつ熱さを秘めたたたずまいが、難解な側面を持つ映画を喉越し良く仕上げてくれているように感じました。
内容をしっかりと理解するには本来の風水や韓国の宗教知識や風俗の理解が必須になるものの、生き生きとしたキャラクタたちの行動に引っ張られてエンタメ映画としてでもさっくりと楽しめる。こういうバランス感覚の整ったフィクションの創り方は韓国は巧いなあとしみじみ思いました。
日本での劇場公開がなかなか発表されなかったので配信のみかとハラハラしたのですが、こうして映画館で見れて、ほんとうに良かったです。
最後にとてもわかりやすく理解を深められた解説記事を二つ。
わかりやすく劇中のさまざまな要素を解説されています。とても参考にも勉強にもなりました。
風水へ抱いていた誤解や思い込みが解け、そうだったのか、が山ほどあったnoteの記事でした。知識をこれだけ披露し解説していただき、ひたすらにありがたいです。
専門的なことを広く開示して教えて下さる方々には感謝の念しかありません。映画をより深く面白くしてくれます。
パンフの専門用語の解説やコラムも、がっつりとした読みごたえがあって素晴らしかったです。パンフは日本にしか流通しないものなので、余計にありがたみが募ります。

とぎゅうぎゅうの内容でした。読み応えが半端ありません。感謝…。